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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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こたえ

「恋愛要素の絡んだやりとりの事よ」

 委員長の言葉に、史ちゃんがゴクリと息を飲んだ。

 そして、恐る恐ると言った風に問い掛ける。

「それは……その、女の子同士で?」

 史ちゃんの問いに対して、委員長は真面目な表情を浮かべた後で「好きになった人がたまたま同性だっただけって事もあるみたいね」と意味深な言葉を返した。

 またも、史ちゃんの喉がゴクリと鳴る。

 なんだか危険な方向に向かいそうなところで、綾川先生が慌てて割って入った。

「コラコラ、待て待て、先生が変な話の振り方をしたのは悪かったが、危ない方向に話を転がすんじゃない」

「綾川先生も女性同士の恋愛に賛成な立場なのかと思いました」

 サラリと委員長がとんでもないことを言い出す。

 確か、記憶によれば、この時代はまだまだ同性の恋愛には忌避感があったんじゃ無いかと思うのだけど、大丈夫なのかと不安がこみ上げてきた。

 そんな不安を感じながら綾川先生の反応を見ようと視線を向けると、それは私だけでなく史ちゃんも同じだったらしい。

 全員に視線を向けられたところで、綾川先生は盛大に溜め息を吐き出した。

「本人同士の問題だから、私は肯定も否定もしない……それより、皆を待たせてはいけないから教室に行くぞ」

 席から立ち上がりながら綾川先生は自分のお弁当の入っているらしい包みを掴む。

 そんな綾川先生に、委員長は「綾川先生」と声を掛けて動きを制した。

 警戒の色を滲ませながら、綾川先生は「何だ、木元?」と委員長に、今自分に声を掛けた理由を問う。

 対して、委員長は「体育祭の振り付けについて聞きたいことがあるんですが」と、そう言えば元はそういう話だったなと思わせる一言を放った。

 綾川先生は目を丸くしてから、盛大に溜め息を吐き出す。

 その後でホッとした表情を浮かべた綾川先生は「帰りのホームルームの後でもいいかな? 説明に少し時間が掛かるだろうから」と尋ねた。

 委員長が私に視線を向けたので、これは私にも付き合って欲しいて事なんだろうなと察して、頷く。

 それを見た委員長は「わかりました。それでは放課後お願いします」と頭を下げた。


「どうだった?」

 留守番という形になったユミリンの問い掛けに、委員長は「帰りのホームルームの後で、説明してくれるらしいわ」と返した。

「ふーん。やっぱり振り付けの提案とかだと、ルールとかいろいろあるのかねー」

 ユミリンの言葉に、私は苦笑いをする事しか出来ない。

 綾川先生が不用意な発言をして、余計な話をしてたせいで時間が無くなっただけじゃ無いかと思わなくもないからだ。

 そんな事を考えていると、加代ちゃんが「あれ、史ちゃん?」と私の後ろにいた史ちゃんに声を掛ける。

 加代ちゃんの呼びかけに続くように後ろを踏み換えると、うつむき加減で立つ史ちゃんが目に入った。

「史ちゃん、どうしたの?」

 何かあったんだろうかと、不安を覚えた輪つぃは即座にそう問い掛けてしまう。

 結果、地雷を踏み抜いた。

「あ、あの、凛花様は、その、女の同士の恋愛をどう思われますか!?」

 真っ直ぐ私を見詰めて問い掛ける史ちゃんの背後に、気合というかオーラというか、気迫そのものの気配を感じる。

 そのせいか、いつもより声量が強かったせいか、私たちの方に教室のほとんどから視線が向いたのを感じた。

 状況的に、私が何か返さないといけない状況、しかも、皆の目が向いていて、加えて質問内容が質問内容だけに、もの凄く答えにくい。

 にも拘わらず、何故か史ちゃんの表情が刻一刻と深刻……嫌、悲しげなものに染まり始めていた。

 このままじゃ泣き出してしまうかもしれないと思った私は、覚悟を決めて私なりの答えを口にする覚悟を決める。

「わ、私は、その、と、当事者同士の、問題だと思うよ」

「当事者同士?」

 踏み込んでくる史ちゃんの目から逃れるように視線を逸らした先に委員長を捉えた私は、巻き込む形になって申し訳ないなと思いつつも「委員長も言っていたけど、好きになった人が、たまたま同性だったって場合もあるだろうし、当事者同士が納得してればいいんじゃないかな?」と言葉を付け足した。

 けど、この回答では史ちゃんは納得してくれなかったようで、軽く俯いて、何か少し考えている素振りを見せる。

 どうやら、他の子達も、史ちゃんの次の発言に興味があるようで、お昼の喧噪が漏れる他の教室と違い、私たちのクラスは妙な沈黙が満ちていた。

 そんな微妙な空気に支配されたまま、数秒が過ぎたところで、意を決したらしい史ちゃんが顔を上げて私を見る。

 バッチリと視線が交わったところで、史ちゃんが「あ、あの、凛花様は、そ、その、女の子が好きかもしれない女の子って気持ち悪くないですか!?」と先ほどよりも大きな声で尋ねてきた。

 耳には聞こえなかったけど、教室全体から息を飲む気配を感じて、どう転んでも面倒くさいことになると覚悟した私は、史ちゃんに誠実に答えることにする。

「私は気持ち悪いとは思わないよ。そもそも、誰かを好きになるのは理屈じゃ無いし、好きだって思って貰えるのはやっぱり嬉しいでしょ……ま、まあ、こ、恋人同士になれるかは……相手とか、状況とかにもよると思うけど、少なくとも好きって思ってくれたら嬉しいし、それで気持ち悪いとは思わないよ」

 同じ事を繰り返すだけの内容のない言葉になってしまった気もするけど、史ちゃんがホッとした表情を浮かべてくれたので、今は後のことはスッパリ考えないことにして、良しとすることにした。

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