具現へ
「足が付かない……」
思わずインパクトのあった言葉を繰り返したところで、急に、リーちゃんが『主様、妾に身体を創ってくれぬか?』と言い出した。
「え?」
思わずリーちゃんに反応したた私に、オカルリちゃんと千夏ちゃんが怪訝そうな顔を子落ちらに向ける。
「あ、ごめん、いま、リーちゃんに、身体を作ってほしいと、急に言われて」
そう説明すると、オカルリちゃんは「なるほど、アドバイスしてくださるつもりですね」と確信を持って大きく頷いた。
『そういう事じゃ』:
身体に乗り移っていないリーちゃんの声は、私にしか聞こえないので、オカルリちゃんの考えを肯定した事を伝える。
その上で、いつまでも通訳するのも話が進まないと思った私は、即座にリーちゃんの身体を具現化した。
「リーちゃん様、お久しぶりで」
『うむ』
オカルリちゃんの挨拶に、ちょっと偉そうに答えたリーちゃんに、千夏ちゃんも「ご、ごぶさたしてます?」と疑問符が見えるような挨拶をした。
対して、リーちゃんは『うむ』と、オカルリちゃんの時と変わらぬ返事をする。
「それで、自ら出てきてまで、何か話すことがあったんじゃ無いの?」
私がそう言うと、リーちゃんは『主様はつれないのぉ』と目を細めた。
その後で、リーちゃんは『まあ、出てきた目的を果たすかの』と自ら流れを変える。
『ルリの主様の能力で、ビデオカメラの複製を作り出すというアイデアに力添えできるのではと思ったのじゃ』
「力添えですか?」
オカルリちゃんに頷きで応えながら、リーちゃんは「例えば、その外見を試作機の形から、ぬいぐるみに変えるとかじゃな』と返した。
「なるほど、ここから見た目を変えるというのは盲点でした!」
オカルリちゃんはそう言って手をたたき合わせる。
『試作品そのままの外見でなければ、仮に出所を探られることがあっても、ルリの両親や、開発元に繋がらぬじゃろうという事よ』
「たしかに、そうですね」
リーちゃんの発言に、オカルリちゃんは何度も頷いた。
「結局、そのぬいぐるみの中に、カメラを入れ込むってことで良いんだよね?」
オカルリちゃんとリーちゃんのやりとりから、そう結論づけた千夏ちゃんは、少し不安げに尋ねた。
対して、オカルリちゃんが「その通りです」と力強く頷く。
『して、これから主様が具現化するビデオカメラは、千夏の家に設置することになるわけじゃが、外観に希望はあるかの? それなりにサンプルはあるぞ?』
リーちゃんの言葉に、千夏ちゃんは、何かに気がついいたように、ハッとした表情を浮かべた。
「千夏ちゃん?」
何を思い付いたんだろうと思って、名前を呼ぶと、千夏ちゃんはなんだかワクワク顔でこちらを見る。
「リーちゃん、それって、そのぬいぐるみってどんなデザインでも良いの?」
千夏ちゃんの問い掛けに、リーちゃんは『まあ、そうじゃな。希望があれば、合わせられる筈じゃ』と答えた。
千夏ちゃんは、その返しを聞いた後、少し間を開けてから「じゃあ、凛花ちゃんでも良い?」と言い出す。
「は? 私?」
思わず声を上げた私に大きく頷いた千夏ちゃんは「もしも、オリジナルで作れるなら! ……って思ったんだけど……」と、様子を伺う様にリーちゃんを見た。
『主様をもしたぬいぐるみという事じゃな?』
「うん」
『妾はデザインできるのじゃ!』
あっさりと断言したリーちゃんの言葉に、千夏ちゃんは「じゃあ!」と声を弾ませる。
『うむ、妾はデザインできるが……具現化するのは主様じゃからのぉ』
その直後、リーちゃんと千夏ちゃんの顔がこちらに向いた。
「つまり?」
千夏ちゃんの問いに、リーちゃんは『妾はデザインまでは出来るが、それを具現化するかどうかは、主様次第という事じゃ』と言う。
直後、私の横に近づいてきた千夏ちゃんが「凛花ちゃん」と言って上目遣いで私を見た。
更にオカルリちゃんまでも「興味深いのですが!」と続く。
リーちゃんに至っては『妾の中では、主様をモデルにしたぬいぐるみの外観は完成して折るんじゃがなぁ』とわかりやすく溜め息を放つ始末だ。
こうなってしまっては、最早選択肢など、無いも同然である。
ここで無駄に抵抗して話を長引かせるよりは、さっさと覚悟を決めて、処置してしまうと思った。
「わかりました。具現化します!」
少し投げやりな言い方になってしまった気もしたが、オカルリちゃんも千夏ちゃんも喜んでくれる。
ニヤニヤとするリーちゃんの態度には引っかかる者があったが、敢えてスルーすることにした。
頭の中に流れ込んできたリーちゃんのイメージを元に、具現化を実行した。
ビデオカメラの具現化自体は初めてではあるものの、詳細な構成図面はリーちゃんから提供されているので、思ったよりもスムーズに具現化は進む。
ぬいぐるみ内に内蔵されるビデオカメラをイメージ通りに造り上げた私は、そのまま手間を掛けることなく、カモフラージュのためのぬいぐるみ部分に取りかかった。
こちらも完成図が頭の中に送り込まれているので、それをそのまま物質化する。
ややあって、全ての工程が終了したタイミングで、千夏ちゃんから、歓声が上がった。




