帰路にて
結局私は、手ぶらで委員長と共に社会科準備室に向かうことになった。
委員長はちゃんと自分の荷物も持った上で、ラジカセも持っているのでもの凄く申し訳ないというか、居心地が悪い。
とはいえ、そんな子と気にしているのは私だけだったようで、先生方を含めて誰にも触れられることなく、鍵の返却と活動終了の報告を終えた。
そのまま、昇降口に移動して皆と合流する。
史ちゃんから鞄を受け取り、上履きから革靴に履き替えて、昇降口を後にした。
正門近くで待っていたお姉ちゃん、まどか先輩と合流して帰路につく。
それなりに舞いの練習に成果があったからか、久しぶりだからか、明日の演劇部の練習についてが話題になった。
「明日から、演劇部も練習再開ですね」
千夏ちゃんの言葉に、まどか先輩が「はじめとか、もう再開してそうだけどね」と返した。
今日は部活解禁日だし、私たちは神楽舞いに集中していたけど、確かに先輩方なら練習に入っていそうだなと思う。
「二年の子達は気合が違うものね」
お姉ちゃんもまどか先輩に同意して大きく頷いた。
「そうなんですか?」
千夏ちゃんの問いに、まどか先輩が「秋には三年生がいなくなるからね。自分たちだけでも大丈夫って安心して貰いたいって思うんだよ」と言う。
「秋……」
まどか先輩の発言に、加代ちゃんが表情を曇らせた。
「おや、おや、加代ちゃん。私たちがいなくなることを残念がってくれるのは嬉しいんだけど、まさか卒業させてくれないつもりかな?」
加代ちゃんはまどか先輩の切り返しに「え?」と驚きの声を漏らす。
その後で慌てて「そんな事……」と口にした加代ちゃんの唇に自らの人差し指を当てて、まどか先輩は「わかってるよ、加代ちゃん。案米心配させたくなくて、冗談を言ったのさ」と言って微笑んだ。
加代ちゃんの頬が少し赤くなる。
流石と言うべきか、まどか先輩は自然と加代ちゃんの不安を拭い去ってしまった。
「こら、やめなさい!」
ここでお姉ちゃんが加代ちゃんとまどか先輩の間に割って入ってくる。
まどか先輩の雰囲気に飲まれていたらしく、ちょっとビックリしてしまった。
「あんた、加代ちゃんまで毒牙に掛けるんじゃないわよ!」
お姉ちゃんの言葉に、まどか先輩は「いや、そんなつもりは無いけど……」と言って目を逸らす。
あー、これ、自覚あるなと思ったところ、お姉ちゃんも同じ印象を持ったようだ。
「目を逸らしたのが自覚のある証拠よ!」
ビシッとまどか先輩の顔に指を突きつける。
対して、まどか先輩が流れを変えるようとしたのか、キメ顔で「良枝、もしかして嫉妬?」と言い放った。
「バカじゃないの?」
そう言い放つと同時にまどか先輩の脳天にチョップが突き刺さり「いたっ!」と悲鳴が上がる。
「照れかく……痛いって、良枝!」
容赦なく、二の手、三の手を放つお姉ちゃんから、頭を抱えてまどか先輩は逃げ惑った。
「まったく……」
ようやく矛を収めたお姉ちゃんは腕組みをして大きく溜め息を吐き出した。
「ごめんね、加代ちゃん」
お姉ちゃんは抱き寄せて加代ちゃんの頭を撫でる。
「あ、あの、気、気にしてないので……」
加代ちゃんは恥ずかしいのか少し焦りながら言った。
「そう?」
お姉ちゃんは、あっさりと加代ちゃんを離して「加代ちゃんが本気なら止めない……いや、応援するけど、あれ、人たらしだから気をつけるのよ?」と言い聞かせるように言う。
「だ、大丈夫……です」
加代ちゃんは困り顔で俯いてまどか先輩を見た後で、何故か私を見た。
その視線に、何か言わなければと思った私は「加代ちゃん、まどか先輩は一見、いい加減に見えるけど、ちゃんと人のことみているからね。別に加代ちゃんを揶揄ってるわけじゃ無いと思うよ!」と訴える。
私の発言は加代ちゃんの望むものではなかったのか「う……うん」となんだか含みのありそうな反応が返ってきた。
「う……ん?」
私としても、響かなかったことに、何故だろうという気持ちが大きくなってしまって首を傾げる。
ここで、委員長が「はい、皆が入りづらいから、この話はここまで!」と言って、パンパンと手を叩いた。
「あ、うん、そうだね」
委員長の乱入に少し驚いたけども、その通りだなと思って頷く。
「思春期の女の子って、いろいろ複雑だもんね!」
私がそう言うと、何故かメンバーの多くから大きな溜め息をつかれてしまった。
「まさか、先輩の卒業が寂しいという話から、こう発展するとは、実に興味深かったですね」
オカルリちゃんが笑いながら言った。
「オイ、ルリ、辞めとけ、掘り返さない頃が良いこともあるんだ」
ユミリンがいつもよりも低めの声で言う。
「あーー、そうですね」
オカルリちゃんはそう言って頷くと、パッと明るい顔で「では、ここからは、私の話でも良いですか?」と尋ねた。
「なんだよ?」
直前に離していたのもあって、ユミリンが代表で返すと、オカルリちゃんは自分が背負ったリュックを指さしながら「ビデオカメラのことです」と言う。
「ビデオカメラ?」
首を傾げたユミリンに向かってオカルリちゃんは「はい!」と頷いてから私に視線を向けてきた。




