終わりと施錠
三様の舞いの振り付けをしていくなかで、私を含めて十人編成でフォーメーションを改めることになった。
前、中、後の参列の中で、私は真ん中のメンバーに加わる。
基本は三人が横一列に並ぶが、真ん中の列は四人となるので、菱形のフォーメーションをとり、お姉ちゃんと私が縦に並び、左にオカルリちゃん、右に茜ちゃんが付く形になった。
後列は左からユミリン、まどか先輩、委員長、前列は史ちゃん、千夏ちゃん、加代ちゃんという並びで舞う。
当初の案では、私と皆の振りは逆にするという話だったけど、フォーメーションが変わったことで、私の加わった真ん中の四人が元々の振りで、前列と後列の六人が左右を反対の振りで舞うことになった。
振り付けに関しては、私一人の方が目立つけど、四人に増えたことで説得力が増したように思う。
正直、一人だと、私が間違っているように見える気がするのだ。
「やっぱり、凛花ちゃんだけより、四人と六人に分かれた方が、チーム感が出るわね」
腕組みをして千夏ちゃんは満足そうに頷いた。
「まぁ、凛花ちゃんだけだとぉ、凛花ちゃんがぁ、一人だけぇ振りを間違ったみたいだもんねぇ」
私と同じ意見だったらしい茜ちゃんが言う。
自分でも思っていたことなのに、茜ちゃんの口から聞くと、なんとも言えないダメージがあった。
「やっぱり、私一人間違っているように見えるよね……」
思わずそう呟いてしまった私に、ユミリンが「大丈夫だ、リンリン。もう一人間違っているなんて思われなくなったから」と言って笑い飛ばす。
「そ、そうだね」
微妙に腑に落ちなかったけど、ユミリンなりにフォローしてくれているのには違いないので、少しぎこちなくなってしまったけど、どうにか頷いた。
「えっと、これはどうしたら良い?」
今日の練習を終えるタイミングで、具現化させたテレビに触れながら尋ねてみた。
すると、皆の視線が静かにオカルリちゃんに向く。
オカルリちゃんは「じゃあ、私が代表して、決めてしまいますね」と宣言してから、私に向かって「具現化を解除することは出来ますか?」と尋ねて来た。
「もちろん、出来るよ」
私が頷くと、オカルリちゃんは「じゃあ、また次回も具現化することは出来ますか?」と聞いてくる。
これにも頷いて「一度具現化したモノなら、再度具現するのは難しくないよ」と答えた。
「じゃあ、消してください」
「了解!」
即座に了承してテレビに手を置く。
「あ、凛花ちゃん、ストップ!」
少し慌てた様子で委員長が待ったを掛けたので「あ、うん」と頷いた。
「あーちゃん」
「おっけぇ~」
委員長と茜ちゃんは廊下の入口へと移動していく。
「千夏」
「りょーかい」
ユミリンと千夏ちゃんは、ソフト手素部が活動している窓の方へ移動していった。
それぞれが移動を終えたところで、オカルリちゃんが「皆さん、どうですか?」と問い掛ける。
「大丈夫よ」
「問題なしぃ~」
「こっちは良いぞ」
「私の方も大丈夫」
四人からの回答を聞いたオカルリちゃんは「凛花様、いつでも消してください」と言って笑顔を見せた。
早速、テレビに手を置いて意識を集中させた。
頭の中でテレビが白い発光体に変わるイメージを描く。
そのまま光の球へと変質させた後、具現化とは逆手順で、掌を通じて身体に、エネルギーとして吸収した。
頭の中のイメージで、具現化していたテレビが消え、手の間に出現していた光球も消失する。
消失を確認してからゆっくりと目を開くと、頭で描いたイメージ通りに、テレビも光球も消失していた。
パチパチパチパチと拍手されたので、視線を向けるとオカルリちゃんが「お疲れ様でした」と労ってくれた。
ここまでやりとりをみていたお姉ちゃんが「それじゃあ、制服に着替えましょう」と提案してくる。
「「「はーーーい」」」
お姉ちゃんの提案に自然に皆の声が重なった。
制服に着替え終えた私たちは、機材と空き教室の片付けに入った。
テレビは片付けたというか、具現化を解除しており、今回は未だ視聴覚室を借りていないので、オカルリちゃんの持ち込み機材を鞄にしまい直すのと、ラジカセの返却前準備が対象である。
教室の方は、全部の窓を施錠した後で、カーテンを閉じるのが一つ、もう一つは使用した机と椅子を元通りに積み直す作業だ。
私が返却のために、ラジカセを廊下に運んでる間に、皆は手分けして復旧を終わらせてしまう。
廊下で一息ついたときには、も物を持った皆が、教室から出てき始めていた。
「はやいね」
思わずそういった私に「帰り支度に時間掛けても意味ないしな」とユミリンが言う。
「まあ、確かに」
頷いた私に、史ちゃんが「凛花様の荷物は私が預かっておきますので」と満面の笑顔で言ってきた。
「じゃあ、行きましょう」
史ちゃんに返事をするよりも早く、委員長が教室に施錠して声を掛けてくる。
「あ、持つわ」
ラジカセを滑らかな動きで委員長にとられた私は、せめて自分の荷物をと思ったのだけど、史ちゃんに胸に抱きしめられて「預かります!」と言われてしまった。




