録画と練習
委員長の発言はちょっと気になったものの、その空気を読んでか、オカルリちゃんが流れを変えてくれた。
「それでは改めて、舞いを確認しましょう!」
オカルリちゃんの提案に、真っ先に委員長が「そうね、確認しましょう」と同意する。
委員長も流れを変えたかったのかもしれないと思った私は「全部見られるの?」とオカルリちゃんに聞いてみた。
「はい、接続は完璧ですし、ちゃんと映像見られてますから、再生できます」
オカルリちゃんが太鼓判を押してくれたのを切っ掛けに、テレビを中心に円形に皆が集まる。
皆がテレビに意識を向けたのを確認したオカルリちゃんが「それじゃ、流しますね」とビデオカメラを操作した。
「凛花だけ振りが逆になっているだけだけど、凄く目を惹くわね」
お姉ちゃんの感想に、委員長が「振りに迷いが無いですから、こういう振り付けなんだっていう説得力が大きいですね」と頷いた。
「こうなると、姫と他の面々は逆の振り付けをベースにする方が、姫が主役っていうのを強調できそうだね」
まどか先輩の言葉に、史ちゃんが「賛成です!」と控えめに手を挙げて同意を示す。
「私も、良いと思います」
「加代ちゃんに、同じぃ」
加代ちゃん、茜ちゃんも賛成を表明して、私の意見が出る前に方針は決定してしまった。
まあ、今更反対をするつもりはないんだけど、それでも、少しは聞いて欲しかったかな、なんてちょっと思ってしまう。
すると、そんな事を考えてしまったからだろうか、ユミリンが「リンリンは何か思うところはない?」と話を振ってきた。
直前まで、話が振られないことを嘆いていたのに、いざ振られた私は戸惑ってしまう。
頭の中で『主様……』とリーちゃんの呆れた声が響いた。
けど、そのお陰で、私はどうにか「私は皆が良いと思う方向で進めて貰うのが助かる……かも」と答える。
これに、千夏ちゃんが「任せて頂戴! そもそもの踊りを引き継ぐ凛花ちゃんが映えるように、私たちの舞いを調整してみせるわ!」と自信満々と言った様子で言い切った。
「凛花様の舞いはそもそも神様に奉納する伝統の神楽舞いですからね。テストのために今回は左右逆に舞ってくださいましたが、やはり元の舞いを貫いて貰うのが一番です。と、なれば、周囲を固める私たちの舞いを反転させた方が良いですね」
腕組みをして言うオカルリちゃんの言葉に、皆も大きく頷く。
「決まりね、凛花はともかく踊りを元通りにして貰って、私たちが調整しましょう」
お姉ちゃんの言葉に各々が同意の声を上げた。
「えっと、撮影係頑張ります!」
舞いが元に戻ると言うことは、振り付けを逆にする必要も、新しい振りを覚える必要も無いということで、単純に私の負担が減るということと同義だった。
というわけで、私は撮影係などを買って出ることにしたのである。
「凛花様、落ち着いてやれば難しくないですからね」
懇切丁寧に説明してくれたオカルリちゃんがそう言って笑顔をみせる。
私は頷きつつ「うん、ありがとう」と返し、ビデオカメラの録画ボタンに手を置いた。
三様の舞いは言葉通り、三人ずつ分かれ、三種類の舞いを踊る方針で固まった。
見栄えを考え、私と同じ身長が低めの、史ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃんが最前列、真ん中の列にお姉ちゃん、茜ちゃん、オカルリちゃんが付いて、最後列にメンバーの中では背が高いまどか先輩、ユミリン、委員長という構成でフォーメーションが仮決定している。
「それじゃあ、撮影を開始しますね!」
私の言葉に、了解の言葉が即座に返ってきた。
「行きます」
そう宣言して、まずは録画ボタンを押す。
続いてラジカセの再生ボタンを押した。
ここで私は皆に向かって、正しい振り付けで舞う。
皆はその私の動きを参考に鏡写しで舞いを踊り、それを録画して、ミスを確認して調整して行く予定だ。
元の世界では、スマホの録画機能を使って、ダンスの振りの確認をするのは、それほど珍しいことではない。
一方、この世界ではスマホはおろか、録画機材ですら、未だ一般普及していなかった。
つまり、この練習方法はかなり歴史を先取りしていると言える。
その効果の程は、すぐに実感できることとなった。
「自分がミスしやすい箇所がわかるのは良いわね」
お姉ちゃんが少し興奮気味に言った。
「腕の振りや角度は、言葉ではわかりにくいけど、こうしてみると違いがわかりやすい。調整がしやすいのは助かるね」
まどか先輩もかなり興奮気味に言う。
上級生でもあり、何かと自分たちより出来るイメージがあ流布タリの絶賛ぶりには、もの凄い説得力があった。
実際、二人の言っていることは、多かれ少なかれ皆が実感している。
それぞれが自分の振りを確認しながら、三様のチーム毎に、調整をし始めた。
まどか先輩、お姉ちゃんが後列、真ん中の中心となり、最前列は千夏ちゃんが中心となっている。
自然とチーム毎のリーダーが決まり、話し合いや調整が本格化していくと、私一人が取り残されることになった。
「これ……」
思わず呟いた私に、リーちゃんが『まあ、特別というのはそういうものじゃ』と言う。
ちょっと寂しく思いながらも、私は皆の熱の籠もった話し合いと調整を黙って見守った。




