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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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暴走

 まどか先輩の行動力は凄まじかった。

 私を抱き上げたかと思ったら、そのまま廊下に飛び出し、一気に速度を上げる。

 軽やかに廊下に溢れた生徒を躱して、私を抱きかかえているのに、まどか先輩のスピードは一切落ちなかった。

「まどか、待て、私の妹を連れ去るなっ!!」

 後ろからお姉ちゃんの声が飛んできたけど、今ここで変に暴れると、私はともかくまどか先輩が怪我をしかねないので、どうすることもできませんと、心の中で謝罪することしかできない。

 そうこうするうちに、進む先にある階段が目に入った。

「凛花ちゃん、私にしっかり抱き付いて」

 真剣な顔で言うまどか先輩に、私はつい素直に従ってしまう。

 まどか先輩の首に両腕を回してギュッと身体を押し付けると、すぐに「理解が早くて助かるよ」と嬉しそうな声が耳元で囁かれた。

 耳に掛かった熱を帯びた声に反応したからだが蕩けそうになる。

 この人は女の先輩で、私には東雲先輩がいるからと、念じて、気持ちを立て直そうとしたところで、急に重力に変化が起きた。

「えええええ!」

 絶対にこのタイミングで味わうはずのない浮遊感に、思わず声が飛び出てしまう。

「大丈夫、絶対に怪我なんかさせないからね、凛花ちゃん」

 またも耳元でまどか先輩の声が放たれた。

 その柔らかく宥めるような声音に、私はホッとしてしまう。

 結果、冷静さが戻ってきて、自分の状況を掴めるようになった。

 まどか先輩に抱え上げられた私は、どうやらかいだんを一気に飛び降りている。

 一階分の階段は踊り場を挟んでいるので、7段程度だけど、まどか先輩はそれを易々と飛び降りていた。

 普通、人を抱えてそんな事出来る訳がないし、むしろそんなことしたら、いろんな意味で非常識極まりないのに、安定感がありすぎるせいで、怖さがまるでない。

 そもそもまともに階段を降りていないので、あっという間に一階に辿り着いたまどか先輩は再び廊下を駆けて、渡り廊下へと飛び出した。


「ちーちゃん、急患です!」

 まどか先輩はそう言って、私を抱き上げたまま、保健室の扉を開いて見せた。

 保健室のドアはスライド式で、取っ手に手を掛けて開ける。

 両手が塞がっているまどか先輩は、その取っ手に器用に上履きのつま先を突き刺して、私を抱き上げた状態で体勢を崩さず流れ作業のように、あっさりとドアを開けてしまった。

 保険医の先生は「急患!」と慌てた様子を見せた後で、声の主がまどか先輩と気付いたからか「……って、天野さん……ね」と明らかに肩から力が抜ける。

 どうもまどか先輩は常日頃からやらかしてるんだろうなと言うのが、保険医の先生の反応だけでわかってしまった。

 複雑な気分になっていると「それで、急患って……」と様子を覗う保険医の先生は、まどか先輩に抱かれている私と目が合った瞬間「林田さん!?」と驚く。

 そんな保険医の先生に向かって「凛花ちゃんは大丈夫でしょうか、すぐに見てください」と言いながら、私を自分の身体に抱き寄せながらまどか先輩はつかつかと歩み寄った。


「だって、凛花ちゃんが私のせいで体調を崩したって思って……」

「だってじゃない、そもそももし本当に凛花が調子を崩していたら、逆効果になるかもしれないでしょうが!」

 保健室に備え付けられている丸椅子の上で正座というシュールな市仙仁を取らされているまどか先輩に、お姉ちゃんから正論が降り注いでいた。

 暴走気味なまどか先輩も、お姉ちゃんの発言を否定することは出来なかったようで「う、うぐっ」と言葉を詰まらせている。

 けど、沈黙を保てたのはほんのわずかな時間だけだった。

 限界を迎えたらしいまどか先輩は「だ、だって」と口に出すと、ブンブンと大きく腕を振り回して「凛花ちゃんに会えて凄く嬉しかったから、仕方が無いの!」と言い出す。

 対して、お姉ちゃんはどこまでもクールだった。

「そうやってすぐにおかしくなるから、うちに、出入り禁止にしたってわかってる?」

 まどか先輩はお姉ちゃんの言葉を聞いてピタリと動きを止める。

 表情が『そうだったの!?』と訴えていた。

 どうやら、わかっていなかったらしい。

「お、お姉ちゃん、まどか先輩も悪気があったわけじゃ……」

 フォローしようと思った私に、お姉ちゃんは「凛花、ダメよ」とピシャリと言い放った。

 思わず口を噤むと「凛花にもしものことがあったら、お姉ちゃん、おかしくなっちゃうわ」と言いながら私を抱きしめる。

 もの凄く恥ずかしくて、もの凄く嬉しい……そのせいで私は「うん」としか答えられなかった。


「まったく、保健室で何をしているんですか、あなたたちは」

 保険医の先生こと、水上千鶴子先生、まどか先輩風に言うとちーちゃんは苦笑をしながらそう言った。

 私も診ずカミセン製の立場なら同じ感想を抱いていたと思う。

「お騒がせしてすみませんでした」

 お姉ちゃんが謝罪すると、まどか先輩も続いて「ごめんね、ちーちゃん」と頭を下げる。

 私も「水上先生ごめんなさい」と謝罪すると、お姉ちゃんとまどか先輩は「「凛花ちゃんはいいの」」と声を重ねた。

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