具現と警戒
正直、答えに困っていた。
出来る出来ないで言えば出来る。
そもそも元の世界で、機械類は意外と具現してきた。
ただ、大きな問題点として、この時代基準のテレビは上手く具現化出来る気がしない。
なぜなら、この時代のテレビはブラウン管という液晶や有機ELとは違う形式の仕組みを使っていたのだ。
加えて、入力方式も違っている。
正直、最新式で開発中というオカルリちゃんが見せてくれたコード類も余り見覚えが無かった。
つまり、仮にテレビを出現させたとして、この時代にそぐわない物になるのは間違いなく、そもそもオカルリちゃんの持ってきてくれたビデオカメラの端子が接続できない可能性が高い。
となると、そう簡単に具現化できないのだ。
『お困りの様だの、主様』
頭に響く、リーちゃんの声に、私は思わず苦笑を浮かべてしまった。
リーちゃんが声を掛けてくれたタイミングの完璧さと、また独りよがりになりかけていた自分の浅はかさが恥ずかしい。
「オカルリちゃん、ちょっと、リーちゃんに相談してみるね」
私は先にオカルリちゃんに、そう伝えてから目を閉じて意識を集中した。
『具現化する、で、いいのじゃな?』
リーちゃんが私の意思を確認するために、そう尋ねて来る。
『サポート、お願い』
『うむ。心得た』
私の願いにリーちゃんが了承してくれた直後、頭の中にブラウン管テレビのイメージが流れ込んできた。
『ルリの持ってきた機材に合致する端子のもので、この時期には既に発売済みとなっているモノを選び出したのじゃ』
『ありがとう』
完璧なサポートに、思わず口元が緩む。
頭の中に必要な情報が入り込んできたのを感じ取った私は頭の中で『それじゃあ、やってみる』とリーちゃんに伝えた。
「あ、ストップ、ストップです、凛花様!」
急にオカルリちゃんに止められた私は、一旦具現化の集中を解いた。
「え、なに、どうしたの?」
私がそう尋ねると、オカルリちゃんは「凛花様は気にされないかも知れませんが、その力を使われるのであれば、少し注意をされた方が……」といって窓の外に視線を向ける。
視線を向けると、そこには部活の準備を始めるソフトテニス部の子達の姿があった。
ここは一回なので、見ようと思えば簡単に覗ける。
実際、ソフトテニス部の大野さんもこっちの視線に気付いたようで手を振ってくれた。
「確かに……ここで具現化は良くない……か」
元の世界では当然能力の使用には注意をしていたが、正直、ここでは自分は異邦人だという意識があるせいか、すこし緩くなっている気がする。
『少しではないの、ガバガバじゃな』
まったく反論できないリーちゃんの評価が頭の中に振ってきた。
「まあ、気をつけた方が良いわね」
お姉ちゃんに続いて、まどか先輩は「姫らしいとは思うキョ、その迂闊なところも、可愛いよね」と言った。
「う~~~ん、凛花ちゃんにダメって言うのはあんまり言いたくないけど、気をつけるべきだと思うわ」
千夏ちゃんは真剣な顔で言い、史ちゃんは「凛花様が傷つかないのであれば、私は積極的には反対しませんが……」と複雑そうな顔で言う。
「ま、事前にやらかしそうってわかっててやらかすのは、絶対駄目だと思うわ」
委員長の剛速球の正論に続いて、茜ちゃんからは「私もぉ、周りの目はぁ、気にするべきだとぉ、思うわぁ」となんだかもの凄く心に染みる言葉を頂いた。
加代ちゃんも「私も、リンちゃんの為にも余り知られない方が良いと思う」と言い、最後にユミリンが「結論は出たな」と言って立ち上がる。
「ユミリン?」
私がその名を呼びながら視線を送ると、軽く手を挙げて、窓とカーテンを閉め始めた。
「おや、どうしたの、秘密練習?」
カーテンを閉め始めたことに反応を示した大野さんが窓の外から声を掛けてきた。
「ちょっと、着替えようと思って、一応ね」
ユミリンの返しに、両手を合わせた大野さんは「おー、なるほど、これはお邪魔しました」と頭を下げる。
「正直、私は良いけど、ウチには姫がいるからな」
そう言ってユミリンが返すと、大野さんはこちらを見て「あー、確かに、それはカーテン閉めた方が良いわ」と頷いた。
「というわけで、着替え終わったら、開けるから」
ヒラヒラと手を振るユミリンに、大野さんは「まあ、暑いしね、風は入れた方が良いね」と返してコートの方へと離れて行く。
「じゃあ、廊下側を、ルリ、茜、任せた!」
ユミリンの指示に、ビシッと敬礼をして「了解です!」と返すオカルリちゃんと「はいはい~~了解ぃ~~」とかえす茜ちゃん、二人は手分けして廊下側の入口ドアを閉めに動いた。
「で、リンリンは、まず体操服に着替えてな」
「え?」
「一応、薫に説明しただろ、今」
カーテンの閉まった窓を指さしながら言うユミリンは苦笑気味の表情を見せる。
「そ、そうだね、大野さんに着替えるって説明してたね」
頭の中で話が繋がって頷くと「で、着替えたら、テレビだ」とユミリンは次を示した。
「あ、うん」
頷いた私は、一応、念のためにと、持ってきていた体操服に着替える。
皆も私のカモフラージュに合わせて着替えてくれたので、私一人が体操服と言うことにはなら無かった。




