最初の試験
月曜日、私たちにとって最初の定期試験の朝を迎えた。
とはいえ、受験まではまだまだあり、小学生から中学生になったばかりの試験でもある。
試験は難易度よりも、お試し勘と言うべきか、雰囲気を体感する意味合いが強いはずだ。
緊張せずにいつも通りが貫ければ、躓く事は無いと思う。
思うのだけど、正直私はもの凄く緊張していた。
思考に没頭する余り、皆からの声に反応が遅れてしまったほどである。
「もう、大丈夫、凛花ちゃん」
とても心配そうな目を向けて聞いてくる千夏ちゃんに、ようやく反応できた私は「だ、大丈夫」とかなり上擦った声で返した。
「こりゃ、重症だわ」
どこか呆れたような言い方をするユミリンだけど、千夏ちゃんの呼びかけに気付いて反応を返すまでに、名前を三回も呼ばれていれば、当然の反応だと、私も思う。
「だ、大丈夫、思ったよりも緊張してるだけ、だから」
説明する私の言葉に嘘はなかった。
ただ、一般的には自分の試験に対する緊張だろうと思われるだろうけど、私が気になっているのは、リーちゃんと共に提供した教材が役立つか否かについての方である。
特にお姉ちゃん達は受験生なので、この世界と現代の基準の違いで、二人を惑わしてしまっていたらと思うと、なんだかお腹が痛くなってきた。
『主様、大丈夫なように監修したからの。大丈夫じゃ』
そう言ってリーちゃんは太鼓判を押してくれる。
お陰で、今更悩んだところでどうしようもないと気持ちを切り替えることが出来た。
「それでは、国語のテストを開始する。問題用紙を一枚ずつ撮って後ろに回しなさい」
監督の先生は普段授業では係わらない先生だった。
先生の指示に従って、回ってきた試験問題をユミリンから受け取る。
試験の座席順は五十音順で、男女男女の順の配置になっていた。
まあ、未だ席替えのないこのクラスでは普段通りなのだけど、それでも普段見ない先生に、黒板に書かれた試験時間の表記、そして配られた問題用紙と、要素の重なりが増えるほど、いよいよ本番という気配が強まる。
「では、解答用紙を配るが、試験開始までは裏返しておくように」
問題に続いて解答用紙が先頭の人に渡され、バケツリレー方式で回ってきた。
振り返らずに肩越しで渡された解答用紙を受け取って、すぐに裏返す。
クラス全体を見渡していた先生が、自分の腕時計を確認してから「それではチャイムが鳴り次第、裏返して試験を開始しなさい。テスト中に、鉛筆や消しゴムを落とした場合は、先生が拾うので手を挙げるように、トイレに行きたくなったり、体調が悪くなった場合も手を挙げなさい」と注意事項が改めて告知された。
そうして、先生の説明が終わってほんの数秒後、スピーカーからチャイムが流れる。
「それでは、試験開始!」
手を叩いた先生のが出したパンという音と、皆が解答用紙をひっくり返す音が重なって、いよいよ最初の中間試験、最初の科目である国語の試験が開始となった。
試験が終わり、次の科目を前に生徒が取るのは大きく分けて三つだ。
トイレなどに行って、調子を整える者、次の科目に備えて見直しをする者、そして、何もせず自然体で備える者である。
中には直前の試験の答え合わせもする子もいるが、次の試験がすぐ始まるので、流石に少数派である。
いつもの仲間達の様子を見れば、史ちゃんや加代ちゃんは教科書やノートをチェックしているようだ。
オカルリちゃんは一生懸命鉛筆削りで鉛筆を削っていて、委員長と茜ちゃんは席にいないので、恐らく御手洗いに行ったんだと思う。
私の前に座るゆみりんはと言えば、かなり余裕な要で私に振り返って話しかけてきた。
「皆準備してるけど、リンリンはなにもしないのか?」
そう問われて、私は「ちゃんと集中してるよ」と答える。
「おう、余裕だねー」
「余裕ってワケじゃ無いけど、今更慌てても実力は変わらないからね」
私の返しに、ユミリンは「それでも、チェックしたりするんじゃ無いの?」と聞いてくるので「そう言うユミリンだって、何もしてないじゃない?」と切り返してみた。
「私は余裕ってワケじゃ無いよ」
はっきりと言うユミリンに「そうなの?」と尋ねると、苦虫をかみつぶしたような顔で「次は数学だからさ、諦めの境地だよ」といって肩をすくめる。
「まあ、ユミリンは苦手だもんね」
苦笑気味に私が言うと、ユミリンは「適材適所でさ、チームの誰かが出来れば良いじゃん? 個人成績じゃ無くて、チーム成績にしてくれ無いかなー」と無茶を言い出した。
「さ、猿がに、それは……」
私がそう口にすると、ユミリンは「そうなったら、体育は任せてくれ」と胸を叩く。
「そうだねー0,その時はお願いするかもー」
少し笑いながら返すと、ユミリンは「おう!」とい短く返してきた。
その反応に、悪戯心を刺激された私は少し意地悪を言う。
「でも、学期末試験はその保健体育も試験があるけど、大丈夫そ?」
私の問い掛けにユミリンは「体育の試験って何するんだ?」と困り顔で言うので、私は「お姉ちゃん達に聞いてみないとだね」と返すことにした。




