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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第九章 不通? 疎通?
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次と次

 警策による一撃は、朝の涼しさも相まって、骨身に染みた。

 悲鳴を上げずに堪えきったのは褒めてほしい。

 そう考えて、これが邪念だと思った私は、すぐに手を合わせて感謝の礼をした。

 まだまだ邪念が多いなと思いながら再び合わせた手を離してお腹の前で組む。

 そこからしばらく、何度か警策を受けたところで座禅行は終わりを迎えた。


「大丈夫、凛花?」

「ど、どうにか……」

 修行の間は集中してたお陰か、平気だったのに、本堂を出た途端、ドッと疲れ画押し寄せてきて、つい柱にもたれかかってしまった。

 お姉ちゃんがすぐに声を掛けてくれたのも、よほど私が消耗して見えたんだと思う。

 少しよろ付いたものの立ち上がった私に、委員長が「大丈夫? 初めてだからいたかったでしょ?」と声を掛けてくれた。

「んー、確かに、普段叩かれたことが無いから、響いたかもー」

「そりゃあ、悪かったの、凛花ちゃん」

 後ろから和尚様である茜ちゃんのお爺ちゃんに謝れてしまって、私は慌てて首を振る。

「いえ、気にしないでください。修行ですし、そもそも私がお願いしたことですから」

「そうかね?」

 申し訳なさそうな表情でこちらを見る茜ちゃんのお爺さんに、私は「はい。また、座禅させてください。次はもっと心を空っぽにして見せます!」と思いを込めて伝えた。

 すると、茜ちゃんのお爺さんは「ほっほっほ」と笑って「いつでもきなさい」と言ってくれる。

 私が頷くと、横からまどか先輩が「私もお願いしていいですか?」と手を挙げた。

「ふむ、もちろん構わぬが……お前さんは随分と精神統一が出来ていたと思うが」

 お爺さんの返しはもっともだと思う。

 何しろ一番警策のお世話にならなかったのが、まどか先輩だ。

 座禅の姿勢も一番綺麗だったと思う。

「そう思っていただけたのは光栄ですが、それでも私は自分が未熟だと思っています。今日の座禅行を体験して、自分を高めるのに向いているなと思ったんです。ですから、ご迷惑で無ければお願いしたく思います」

 普段は砕けた言葉が多いまどか先輩の丁寧な言い回しに、それほど本気なのだなと思った。

 そして、その気持ちは茜ちゃんのお爺さんにも伝わったようで「うむ。では、お前さんもいつでも来なさい」と頷く。

「では、あの、私も」

 そう言ってお姉ちゃんが手を挙げた。

 今度はクスリと笑って茜ちゃんのお爺さんは「回りに合わせることでも無いのかが?」と少し意地悪な言葉を返す。

 お姉ちゃんは少し慌てた様子で「た、確かに、妹と親友だけが参加することに、置いてかれたく無いとも思いましたけど、わ、私も精神統一が普段よりもできたと思いまして……」と訴えた。

 対して、茜ちゃんのお爺ちゃんは「すまぬ、すまぬ。意地悪を言ってしまった。凛花ちゃんのお姉さんが真剣なこともわかっておるよ」と少し申し訳なさそうに言う。

 お姉ちゃんはほっとした様子で「それじゃあ」と口にすると「うむ。いつでも声を掛けておくれ」と茜ちゃんのお爺さんは笑顔で頷いた。


 朝のお勤めから、宿泊場所へ戻ると、残った皆からはまだまだ起きる気配がしていなかった。

 私は『どうする?』と、視線で院長に尋ねる。

 委員長は「そうね」といって壁に掛けられた時計に目をやった。

「もう少し寝かせて上げましょうか」

 委員長の結論に私は「了解」と答えてから「あ」と声を上げる。

「どうしたの、凛花ちゃん?」

 私はその委員長の問い掛けに、下半身を指さして「ジャージ借りたままだった」と返した。

「そういえば、そうね」

 のんびりとした返しを見せた委員長に「あの、洗って返すから、このまま預からせて」と伝える。

 すると、委員長は「別に脱いだら返してくれるだけでいいわよ。選択なんて必要無いわ」と言って首を振った。

「でも、ほら、下着の上に直接履いているし」

 私の訴えに委員長は「それくらいどうってこと無いわよ?」と首を傾げる。

 正直、私が委員長の立場だったら、同じようなことを言ったかもしれないけど、それでもこのまま脱いで返すことに抵抗があったので「お願い、委員長」と頼み込んだ。

 私が折れなかったからか、委員長は苦笑して「そこまで言うならお願いするわ」と受け入れてくれる。

 その上で「替えも何着かあるから急がなくていいわよ」と言ってくれた。


 未だ皆を寝かして上げることにした私たちは、お寺のお勝手、台所に来ていた。

 印象で言うと、お寺というよりは旅館や料理屋の厨房といった感じだろう。

 何しろ、業務用ではと思わせる大人数向けの鍋や大きめな木べらにざるといった道具が置かれていて、棚も食器類専用のものから常温保存できる食品や食材がストックされた棚、道具類が陳列された棚など、多種多様な品が置かれていた。

 そこを取り仕切るのは茜ちゃんのお母さんでいる。

 私たちが合流するまで、一人で切り盛りしていたようでかなり忙しなく動き回っていた。

 そんな茜ちゃんのお母さんに手伝いを申し出る。

 すると、すぐに了承をしてくれたので、台所の箸に置かれていた白い割烹着を着て作業に参加した。

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