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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第二章 演技? 真実?
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劇物

「え、あ、え……」

 私の頭はパニックだ。

 何しろ、私はこの世界に来て二日目で、元々この世界にいたであろう私の記憶は無い。

 当然ながら、この抱き付いてきた先輩のことが全くわからないのだ。

 にも拘わらず、相手は知人として振る舞っているので、下手なアクションをすると問題が起こってしまう。

 本当に心の底から困ったところで、抱き付かれているせいで周りが見えなかった私の耳に頼もしい声が届いた。

「うちの凛花に何してんの!」

 頼もしい声に思わず「お姉ちゃん!?」と弾んだ声が飛び出る。

 直後、私に抱き付いていた先輩が消え去った。

 私のセーラー服の襟や胴周り、スカートと埃を払うように叩きながら、お姉ちゃんは「凛花、大丈夫だった!?」と声を掛けてくれる。

 余りに勢いがあったので、私は「う、うん」と頷くので精一杯だった。

「よかった……気をつけなさいよ……気付いてないかもしれないけど、まどかは女の子が好きな変態だから」

 真面目な顔で言うお姉ちゃんに、私は「へ、変態……」と耳にしたばかりの言葉を繰り返しながらその視線の先を追う。

 そこには、恐らくさっき抱き付いていた人だと思われる先輩が、お尻を上げた格好で床に倒れていた。

「あ、あの……その、まどか先輩は、大丈夫なんでしょうか……」

 多分、と言うかほぼ間違いなく、床にツッコんだまま動かない先輩の名前だろうと確信した私は、加害者であろうお姉ちゃんに遠慮がちに聞いてみる。

「りん……」

 お姉ちゃんが私に反応するより早く、私の肩がナニカに掴まれ、その場で身体を半回転させられた。

「へっ?」

 間の抜けた声が出てしまった私の目の前に、鼻息の荒い女生徒の顔が合って、背中が瞬時に寒くなる。

「凛花ちゃんっ! もう一回、もう一回言ってみてくれないかな? まどか先輩って!!」

 鼻息も荒く迫ってくる感じが、暴走状態の花ちゃんに見えたせいか、私はまどか先輩を前に妙に冷静になれてしまった。

 直前に感じていた背筋の冷たさも綺麗さっぱり消え去っている。

 未知な何かだったまどか先輩が、私の知る暴走中の人に変わったお陰だろうと、私の頭は冷静に判断を下した。

「まどか……せんぱい」

 ちょっとだけ上目遣いを意識して呼んでみたところ、効果覿面で、まどか先輩は「いい」とか言いながら至福の表情で崩れ落ちる。

 全く受け身を取る様子もないので慌てて手を伸ばしたのだけど、残念あがら私の方が小柄なこと、能力を使わなかったこともあって、まどか先輩に巻き込まれる形で床に引き倒されてしまった。

 床に転がるのを覚悟して目を閉じて、痛みに備えたにも係わらず、私の身体は柔らかなクッションに受け止められる。

「ん?」

 目を開けると、私の肩と腰に上が回されていて、私の体重のほとんどは、その主であるまどか先輩に掛かってしまっていた。

「ま、まどか先輩? た、ち、ますから、離して……」

 私は体重を掛けていることも申し訳なかったのですぐにどこうとしたのだけど、まどか先輩は暴走状態の花ちゃんみたいに、ギュウギュウと腕に力を入れて「折角可愛い後輩が愛を囁いてくれてるのに離したりはしないよ」と身に覚えの一切無いことを言い出す。

「こら、まどか、妹ちゃんが困ってるでしょうが!」

「凛花、大丈夫!? まどか、ちょっと離れなさいよ!」

 お姉ちゃんだけでなく、他の先輩も参加してまどか先輩の腕を解こうとしてくれているのに、どういうわけかびくともしなかった。

「私と凛花ちゃんを引き離す事は出来ないわ~~」

 まどか先輩はそんな事を言いながら、私の頭に顔をくっつける。

 私の頭皮に直接鼻息が掛かって、妙に生々しい熱が伝わってきた。

 それだけでもちょっと気持ち悪かったのに、まどか先輩の「髪の毛の匂いはお姉ちゃんの良枝と一緒なんだねぇ、さすが姉妹だねぇ」と妙にとろみのある声で言われて、背中を怖気が駆け巡る。

 思わず口から「ひぇ」と言う声が漏れた。

 そのタイミングで「凛花は、病院に寄ってきたばっかり何だから、無理させないで!」というお姉ちゃんの声が響いた直後、私は突然解放される。

「へ?」

 思わず瞬きしてる私から腕を放したまどか先輩はお姉ちゃんを含めた他の先輩方に腕を掴まれていた。

「凛花ちゃん、ごめんね、事情を知らなかったとはいえ、燥いで無茶させちゃったかもしれないね……本当に申し訳ない」

 急にしおらしい態度でまどか先輩に謝られてしまった私は目が点になる。

 まどか先輩が落ち着いたからか、お姉ちゃん達も他の先輩達もその腕を放すと、軽やかな動きで立ち上がった。

 更に、床に座り込んだ状態の私のお尻と肩に手を伸ばしてくる。

 お尻に触れた手の感触に、思わず声を上げそうになったのだけど、それは一瞬のことで、スカート越しに太ももの裏をなぞって膝裏に移動した。

 膝裏の手と肩の手でがっちりと身体を押さえられた直後、ふわりと浮遊感に包まれた後で、私の身体はあっさりとまどか先輩に持ち上げられてしまう。

「ええっ!?」

「とりあえず保健室に行こうか、私のせいで凛花ちゃんの身体に負担が掛かってなければ良いけど」

 真剣な顔で言うまどか先輩には、女子なのに男子のような凜々しさがあって、身近でその表情を目撃した私の思考は、どこかへ飛んで行ってしまった。

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