就寝と起床
「少し大人げない気はするけど、今日は勝たせてもらうよ」
まどか先輩はそう言って、一番最初に勝ち抜けた。
枚数がそもそも少ないので、最初の方こそカードがぐるぐると巡っていたが、揃い始めると進みは早い。
オカルリちゃんがまどか先輩に続いて勝ち上がると、史ちゃん、茜ちゃん、加代ちゃん、委員長、お姉ちゃんと勝ち抜けていった。
「もう、消化試合じゃないか?」
ユミリンが最後の一枚のカードを手に、千夏ちゃんにそう声を掛ける。
「そう思うのなら、素直に敗北すれば良いじゃ無い」
二枚のカードをシャッフルしながら千夏ちゃんはそう切り替えした。
「千夏に負けるのは、嫌なんだよなぁ」
「あら、奇遇ね、私も由美子に負けるのは嫌よ」
火花散る二人は本当に仲良しだなぁと思う。
ボーイッシュなユミリン、ガーリィな千夏ちゃん、身長もユミリンが高く、千夏ちゃんは低い……容姿の上では対照的な二人だけど、中身はかなりそっくりだ。
どちらもなんだかんだと人には優しい。
境遇が似ているというのも、似たような性格に繋がっているのかもしれないと私は思っていた。
白熱のカードの引き合いはいつまでも続いていた。
能力が拮抗しているのか、考え方が近しいからか、お互いに同じカードを握って、ジジである揃わないカードを繰り返し引き合っている。
既にあくびをし出した茜ちゃんや目を擦り始めた加代ちゃんは布団の中に潜り込んでいた。
そんな状況の中で、柱時計がボーーーンと大きな音を立てる。
「ふにゃっ!?」
うとうとしていたのもあって、加代ちゃんが飛び起きた。
既に何度もお昼間鳴っている音を聞いていた柱時計の鐘の音は、夜に聞くと印象が違って聞こえる。
夜中、寝静まった頃に聞いたなら、小学生の女の子なら逃げ出してしまうのも無理は無いだろう独特の迫力があった。
茜ちゃんちのお泊まり会が中止になったり、途中崩壊した一因は、柱時計の音なんじゃ無いかなと思う。
それほどに、雰囲気のある音だった。
「あ、九時を回ったし、申し訳ないけど、こっちのカードで決めよう」
鐘が九つ鳴り終わったところで、まどか先輩が結局使わなかった数字の書かれたカードを取り出した。
「大きい数字を引いた方が勝ちだ。1~9までの九枚しか入ってない」
そう言ってまどか先輩は、畳の上に裏返して数字を臥せられたカードが並べる。
流石に眠そうな子もいるし、九時も過ぎたこともあって、ユミリンと千夏ちゃんはルール変更を受け入れた。
もしかすると、このままだと決着が柄愛と思ったのかもしれないし、二人ももう寝たいと考えたのかもしれない。
いずれにせよ、最後の勝ち抜けを争う戦いは、別形式の勝負へとルールが改まった。
「じゃあ、灯りを消すねぇ~」
ルンルンという言葉が似合いそうなほど明るい声で茜ちゃんがそう宣言するとカチカチと音を立てて、灯りが消えた。
茜ちゃんは可愛らしい声で「よいしょぉ~」と言って布団に潜り込む。
その後、茜ちゃんが「みんなぁ、おやすみぃ~またあしたぁ」と言い、皆が返事を返して皆は眠りについた。
寝床は熱い戦いの末、千夏ちゃん、加代ちゃん、史ちゃん、オカルリちゃん、私、まどか先輩、お姉ちゃん、ユミリン、委員長、茜ちゃんという並びになった。
当初布団は九組だったので茜ちゃんは自室で寝るのかなと思ったら、茜ちゃんは委員長と二人で、自分の布団を持ってきて、端に敷いたのである。
茜ちゃんが一番端なのは、電気のスイッチを担当するからだ。
もう一つ、寝場所決めの試合に参加していなかったというのもある。
一応、寝床は試合結果順に選んだ結果だけど、茜ちゃんの隣は自分が良いということで、皆の承諾の下、元々一番端だったユミリンとその横の委員長が入れ替わった。
茜ちゃんがとってもテンションが上がっているので、幼なじみとして自分が横で様子を見た方が良いだろうと委員長が申し出たのである。
委員長が無理してないだろうかと思ったけど、取り越し苦労だったようだ。
目を閉じて数分もすると、すよすよと皆の寝息がそこかしこから立ち始める。
特に問題も起こらないだろうと思った私は、眠りに身を任せた。
合宿二日目は、委員長に起こされて始まった。
「おはよぉ」
声を潜めて、委員長に挨拶をすると「一応、全員希望だったから、起こすけど、起きない子もいるかも」と周りを見渡しながら苦笑する。
私は頷いて布団から起き上がると、早速着替えた。
昨日、折角お寺に泊まるので、修行体験を申し出たのだけど、参加できそうなメンバーは少なそうに見える。
委員長に起こされて、お姉ちゃん、まどか先輩は起き上がってきたけど、他の子達は眠そうだ。
私たちは頷き合って、子例訴状は起こさないことにして四人で修行体験に挑むことにする。
着替え終えた四人で部屋を抜け出すと、夏が近いとは言え、未だ外は薄暗かった。
柱時計が示すのは四時少し前なので、脱落者が多いのは仕方ないと思う。
というか、きっちり起こしてくれた委員長に尊敬してしまった。




