感謝と入浴
お姉ちゃんに喜んで貰ったお陰で、今回は大成功だなと、ちょっと得意な気分になった。
しかも、まどか先輩ももの凄く喜んでくれたのである。
「姫! ありがとう」
ギュウッとまどか先輩に抱きしめられて、少し照れてしまった。
まどか先輩は私を抱き留めたまま「もし良ければ、この先も作ってくれないかな?」と言う。
意外なお願いに私は思わず「まどか先輩?」と名を呼んだ。
私が戸惑っているのを感じてくれたのか、まどか先輩は「いや、こんな風に試験問題を作ってくれたり、リーちゃんに恐竜臆して貰えれば、これまでよりも勉強に割く時間を減らせると思って」と言ってから溜め息を零す。
その後で、少し間を開けてから「……なんだか、身勝手なお願いだね」呟くように言った。
「あ、いえ。気にしないでください。私もまどか先輩の役に立てるなら嬉しいですし!」
慌ててそう言うと、まどか先輩は苦笑で受け止めてくれたが、何も言わない。
そんなまどか先輩に変わってお姉ちゃんが「まどかは音楽学校の受験を考えているから、学習塾は通わせて貰う余裕がないのよ」と、足りなかった情報を沿えてくれた。
私はなるほどと思う。
音楽学校の受験となると、歌やダンスのレッスンが必要になるのは知っていた。
この世界の時代だと、音楽学校に特化したレッスンスタジオがあるのか無いのかもわからないが、もし無いのであればそれぞれ個別にレッスンを受ける必要がある。
だとすると、学習塾をその他に通わせて貰うのは大変に違いないと思った。
「そういうことなら、余計協力させてください。力になれるなら、むしろ嬉しい限りです!」
私がそう言うと、まどか先輩は遠慮がちに「いいのかい?」と聞いてくる。
大きく頷いて「もちろんです!」と返すと、まどか先輩はほっとした表情で「ありがとう」と言った。
ムードメーカーでもあるまどか先輩のテンションがやや低めに見えたので、ここで私は場を和まそうと一言沿える。
「それに、頑張るのはリーちゃんなので気にしないでください!」
笑いを巻き起こせると思った発言だったが、皆ぽかんとしてしまった。
「あ、あれ?」
思わず動揺でオロオロしてしまった私に、ぬいぐるみのリーちゃんが軽やかに頭に飛び乗ってくる。
『主様、主様はセンスがズレて折るのだから、笑いを巻き起こそうなど、無茶をするでない』
リーちゃんの窘めるような発言に、今度は皆が噴き出した。
「凛花ちゃん、休憩しよぉ、休憩ぃ~~」
私が不機嫌そうな顔をしていたからか、ホストである茜ちゃんがそう言って声を掛けて来た。
このまま無視をしてしまうのは簡単だけど、そんな子供みたいな真似は大人げない。
不満ややるせなさも込めて眺めに息を吐き出したから「そうしますか」と返すと、皆が一斉にわっと湧いた。
次の瞬間には、史ちゃんが「ゴメンなさい、凛花様」と頭を下げてくる。
それを切っ掛けに、千夏ちゃん、加代ちゃんと謝罪の輪が広がっていった。
流石に謝罪祭りを望んでいたわけじゃないので、私も慌てて「ゴメンナイさ。私も意地になってた」と謝罪する。
茜ちゃん切っ掛けで、鉾の収めどころを見つけられた私たちは、お互い無理に保っていた態度を改め、苦笑し合った。
茜ちゃんのお家のお風呂は宿泊する檀家さんもいることもあったそれなりに広かった。
私を含め小柄なメンバーが多いので、全員でお風呂に入ることも無理ではない広さである。
そんなわけで私たちは皆でお風呂に入ることになった。
お互いに洗い合って、ワイワイと盛り上がる。
入浴しながら聞いたところによると、この大きめのお風呂は普段は使わないらしかった。
普段は一人というか、一般的な家庭と同じタイプの浴室が別にあって、茜ちゃんたち家族はそこを使うらしい。
今日のようなお泊まり会や檀家さんが泊まったり、宿坊にお客さんがいるときなど解放されるのだ。
茜ちゃんと委員長から話を聞いてるウチに、髪も洗い終えた私たちは大きな湯船に並んで浸かる。
未だシャワーが一般家庭に設置されるようになってから時間が経ってないので、風呂桶で浴槽のお湯を掬ってシャンプーやリンスを掛け流して貰うのは、違う時代に来たんだなということを強く感じさせた。
足を伸ばしてお湯に浸かるのは気持ち井というところで、温泉や銭湯にも行ってみたいという話が出たところで、茜ちゃんがネガティブになってしまう。
皆が訴えたお陰で、茜ちゃんの家のお風呂が嫌なわけじゃ無くて、いろんなところを体験してみたいということなのだと納得して貰うことが出来た。
それで話は終わりでも良かったのだけど、私は茜ちゃんに一言沿えることにする。
「今度、お風呂を使わせて貰うときは、茜ちゃんたちが普段使ってる家族のお風呂にも入ってみたいかもと伝えると、思いの外茜ちゃんは大きめの反応をした。
「ええっ!?」
驚きの声と共に茜ちゃんが急に立ち上がったせいでお湯に波が生まれる。
ジャパンじゃ波と生まれた波が顔に当たるのを味わいながら「無理にじゃないからね」と言えば、すぐに茜ちゃんから「是非ぃ使ってぇくださいぃ」と手を包むように握られて、とびっきりの笑顔を向けられた。




