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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第九章 不通? 疎通?
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電話報告

 いろいろあったものの、社会のとりまとめはどうにか一段落が付いた。

 そのタイミングで、私たちの借りている広間に、茜ちゃんのお母さんが「皆頑張ってるけど、休憩の時間よ」と言いながらポットとお菓子を持ってきてくれる。

 私たちは手分けして、部屋に備え付けられていたお茶碗に、持ってきてくれたポットのお湯で入れたばかりの煎茶を注いでリレー方式で配っていった。

 仕切りは委員長、それを加代ちゃんが手伝う形で、茜ちゃんのお母さんが手を叩くほど、とてもスムーズな連携を見せる。

「そんな、拍手するほどじゃないですよ」

 委員長が困り顔で言い、加代ちゃんは「私は委員長手伝っただけですから」とあくまで主体は自分じゃ無いと主張した。

 そんな二人を見て、茜ちゃんのお母さんはクスリと笑うと「皆、頑張ってね」と残してから茜ちゃんに手招きをしてから部屋の外に出て行く。

「ちょっとぉ、行ってくるねぃ」

 お母さんに手招きされたのは皆見ているので、私は茜ちゃんに「帰ってくるまで再開しないから、慌てなくていいよ」と伝えた。


「うん、そう。ええ、わかったわ」

 チンと音を立てて、お姉ちゃんが使っていた受話器が黒いダイヤルの付いた古い電話機に置かれた。

 古いと言っても、この時代だと当たり前のものなので、お姉ちゃんには驚きも戸惑いも無い。

 けど、私にとっては目にするのはこの時代に来て初めて見たモノだったし、実際に使っているところは初めて見たのもあって、小さな感動があった。

 この電話機は一般的に黒電話と言われるもので、なんと電源コードがなく、繋がっている電話線から流れてくる電気を利用しているらしい。

 ボタンを押すプッシュ式の電話機と違い、1~9,0と10個の穴の開いたダイアルを電話番号通りに合わせて回転させて、信号を送るそうだ。

 ザックリと解説をしてくれたリーちゃんの話によれば、当然ながら電話帳機能のような電話番号を記録する仕組みなんて当然無くて、この時代の人はよく使う番号を暗記したり、手書きの電話帳を使っている。

 実際、茜ちゃんの家では、電話機回りに、電話番号の書かれた本や電話帳、それにウチのクラスの連絡網などが置かれたり掲示されたりしていた。

「ほら、凛花、千夏ちゃんも、お母さんから許可は貰ったから交代よ」

 マジマジと電話機とその回りを観察していた私に、お姉ちゃんが声を掛けてくる。

 私の横にいた千夏ちゃんが「いつもお世話になってます」と少し申し訳なさそうに頭を下げた。

 実は先ほど、茜ちゃん経由で、夕飯を食べていかないかと茜ちゃんのお母さんに声を掛けて貰ったのである。

 そこで、私たちはお母さんに連絡をして許可を貰ったのだ。

 家が近い委員長は確認しに一端自宅に戻り、オカルリちゃん、史ちゃん、加代ちゃんはすでに電話を澄ませて許可を得ている。

「由美ちゃんも自宅に電話するでしょ?」

 お姉ちゃんに声を掛けられたユミリンは、困り顔で「一応」とだけ返してから「茜、電話借りてもいいかな?」と茜ちゃんに尋ねた。

 茜ちゃんは「もちろん~」と大きく頷く。

 皆が夕飯まで食べていくことになったのが嬉しいらしくて、茜ちゃんはもの凄くウキウキしていた。

「じゃあ、借りるわ」

 ユミリンが電話を使うので、私たちは避けてユミリンに道を空ける。

 電話番号の最初、『0』と書かれた穴に人差し指を入れたユミリンは、そこで眉を寄せた。

 その小さな変化だけでも、自宅に電話をするのも嫌なんだろうなと言うのが伝わってくる。

 ユミリンは目を閉じて、フッと短く息を吐き出すと、そこからは素早い動きでダイヤルを回していった。

 ただ、自分の指で回せる行きと違い、ダイヤルの帰り、戻る時は電話機任せなので、なんだか勿体ぶるような遅い速度で『ジ~~~』と音を立てながら逆回転をする。

 それを見詰めているユミリンの表情が少し苛立っているように見えて、親友として何か声を掛けたい気持ちで胸が一杯になった。


 最後の番号を回し終えたユミリンは、硬い表情で耳に受話器を当てた。

 私と同じような居たたまれない気持ちになっているのか、いつの間にか私の手を握っていた千夏ちゃんの手に力が籠もる。

 何かしたいのに、何もできない歯がゆい気持ちで、見守っていた不動のユミリンが、しばらくしたところで溜め息を吐き出しながら、受話器から耳を離した。

 そのまま、ほんのわずかな時間も空けずに、受話器を電話機の上に置いて、カチャンと音がする。

 こちらに振り返ったユミリンは、ホッとしたようなでも少し寂しそうな顔で「いえ、誰も居なかったわ」と報告してくれた。

 そんなユミリンに何の言葉も掛けられなかった不甲斐ない私と違って、お姉ちゃんは「大丈夫よ、お母さんが、帰ってきたら伝えておくって言ってくれてたから」と言って笑いかける。

 ユミリンはバッと頭を下げて、そのまま顔を上げずに「いつもありがとう」と言い、お姉ちゃんは「ユミちゃんも大事な妹の一人だもの、気にしないで、お母さんも、きっと娘の一人と思ってるわ」と言うなり踵を返して部屋の方向に歩き出した。

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