先輩流の活用法
まずは自分の復讐も兼ねて、社会科、地理の試験問題から予測することにして、教科書をベースに、自分のノートのメモを参考に、出題されそうなワードを抜き出した。
自分自身のためという部分もあるけど、皆の参考になりたいという思いも大きいのでしっかりと正式名称で書き出している。
皆自分の勉強の手を止めて、私の手元を見ているので、苦笑交じりに「皆、予想問題ができあがるまで、時間かかるよ?」と告げた。
対して、皆からはわかっているという旨の返事が来るだけで、私の手元から皆の視線は離れない。
仕方が無いので「あのー、見られていると、集中出来ないというか……」と、少し遠慮がちに言ってみたのだが、じゃあ、一端自分の勉強に戻るという声は上がらなかった。
これはお願いするしか無いかと、カードを切る直前、お姉ちゃんが「凛華先生、将来、先生になるには周りの目が合っても集中出来るようになった方が良いんじゃ無いかしら?」と言う。
その一言は、さすが身内と言うべきか、しっかりと私の胸に突き刺さった。
「し、しかたないので、見てていいです」
私がそう言うと、さっきの申し出とは真反対の盛り上がりを皆が見せる。
「皆、姫のやり方に興味があるんだ。作業を見させて貰うことを許しててくれて嬉しいよ、ありがとう」
そういったまどか先輩に続いて、皆からもありがとうの声が上がり、私は「じゃあ、ちゃんと役立ててくださいね」と少し唇を尖らせて言えば、綺麗に「「「はいっ」」」と皆の返事の声が揃った。
「名称を問う問題では、気候帯の名前とか、緯度や経度の意味とかが特に出やすいと思うの……地理……地球のことを学ぶ基本にもなるからね」
抜き出しの仮定から見られるならと、私は抜き出して後でまとめるという方法から、ワードを抜き出しながら解説を交えて行く方式に改めた。
真っ先にメモを委員長が取り始めて、それを見たオカルリちゃん、茜ちゃん、加代ちゃん、千夏ちゃん、史ちゃん、ユミリン、更にお姉ちゃん、まどか先輩へと広がっていく。
一年生の皆はともかく、お姉ちゃんとまどか先輩はそもそも学年が違うので「お姉ちゃんとまどか先輩は、今更メモを取らなくても良いんじゃ無いかと思うんですが……」と言ってみた。
すると、まどか先輩は「いや、私は用語をメモってるわけじゃ無いよ。姫が重要と言って抜き出した単語って、教科書だと太字だけど、全部を抜き出してる分けじゃ無いから、どんな基準で選んでいるのか予測しながらメモを取っているんだよ」と言いながらメモを見せてくれる。
実際目にしたまどか先輩のメモは、言葉通り、私の考え方の考察になっていてそれはそれで恥ずかしかった。
けど、直後、より恥ずかしさを感じることになってしまう。
まどか先輩が軽く笑いながら「天才の思考方法を勉強できる良い機会だからねぇ。私の役作りの糧になって貰いますよぉ、姫」と言い加えたのだ。
「て、天才は止めてください!」
慌ててそう願い出た私に、まどか先輩は意地悪な笑みを浮かべて「じゃあ、私より頭の良い子の思考に改めておこうかな」と言う。
「なっ」
言葉に詰まった私に代わって、お姉ちゃんが「ちょっと、私の妹で遊ぶのは、やめてくれないかしら?」と間に入って、私の頭を抱きしめた。
対して「可愛い子にはちょっかいを出してしまうものじゃないか」と悪びれも無く言い返す。
その上で「でも、姫に嫌われたら困るから、ここは引き下がるよ。ごめんね、可愛い姫に意地悪したくなってしまったんだ」と言い残して距離を取った。
何も言えず、呆然としていることしか出来なかった私に、お姉ちゃんが頭を抱きしめたまま「凛華」と声を掛けてくる。
「え、あ、なに、お姉ちゃん?」
頭が上手く回っていなかった事もあって、反応があたふたモノになってしまった。
お姉ちゃんは私の頭を撫でながら「私は復讐に役立てようと思ってるのよ」と言いながら自分のメモを見せてくれる。
「ほら、高校受験の範囲って中学で学ぶこと全部でしょ? 復讐に丁度良いなと思ったのよ」
普段と変わらない口調で言ってくれたからか、私は自然と「なるほど」と頷くことが出来た。
そして、自然と「お姉ちゃんの役に立てるなら嬉しい」という思いがそのまま言葉になる。
お姉ちゃんは「もう」と言いながら私の頭を撫でる手に力を込めた。
大きく頭を揺らされて、私は「うわぁ~」と声を上げる。
そこで私の頭を大きく動かしていることに気付いたらしいお姉ちゃんが「あ、ごめんね、凛華」と謝って来た。
お姉ちゃんの手が離れた頭に自分の手を乗せて、軽く髪の毛の流れを整えながら「もう」と抗議のの声を上げる。
対してお姉ちゃんは両手を合わせて「つい力が籠もっちゃったの、ごめんね、凛華」というので、私はわざとらしく大きな溜め息を吐き出してから「お姉ちゃんは、しょうが無いな~」と言って話を切り上げることにした。
誰も私とお姉ちゃんのやりとりにツッコミも茶々も入れない。
その代わり、なんだか背中がもぞもぞとするようなくすぐったい視線を私たちに向けていて、どうにも居心地が悪くなってしまった。




