迂闊な高揚
私の手を取りながらいうオカルリちゃんは「でも、凛花様、何かあったら相談してくださいね、私力になります!」と言った。
「あ、ありが……」
私が返事仕切る前に、史ちゃんがぬっと顔を突き出すと同時に「わ、私も凛花様を支えますから!」と言ってくれる。
二人がそう言ってくれたことが切っ掛けになって、その輪は千夏ちゃん、委員長、茜ちゃん、お姉ちゃん、まどか先輩、そしてユミリンと広がっていった。
正直、嬉しい気持ちはあった者の、気恥ずかしさが全ての感情を上回ってしまったせいで「あ、ありがと……みんな」と少し辿々しいモノになってしまう。
そうして、密集状態になったのだけど、もう間もなく梅雨時を迎える庫のタイミングでは、少し暑かった。
とりあえず、いろんな者を保留にして……というよりは、本来の目的が試験勉強だったことを思い出して、それぞれ勉強に励むことになった。
とはいえ、お姉ちゃんとまどか先輩以外は、一年生、つまりは中学生になって初めての定期試験なので、そもそもどういうモノかというイメージが無い。
そんなわけで事前にお姉ちゃんにお願いしていた過去問を見せて貰うことにした。
わら半紙という素材の繊維が表面に浮き出た少し緑と代々の混ざった薄いグレーの用紙に問題が印刷された問題用紙に皆の注目が集まる。
「これが、試験問題かぁ」
加代ちゃんがマジマジと問題を見詰めながらそう声を漏らした。
お姉ちゃんはその反応がおかしかったのかクスリと笑ってから「もちろん、この問題が毎回出るわけじゃ無いわよ」と言う。
「毎回、試験前は準備で大変らしいよ……まあ、聞いただけで、流石に問題を作ってるところは見せて貰ってないけどね」
苦笑交じりに言うまどか先輩の言葉を聞いて、オカルリちゃんが「なるほど、だからテスト期間前の職員室は立ち入り禁止なんですね」と手を叩いた。
オカルリちゃんの言葉に、「ん?」と言いつつ首を傾げたユミリンに、千夏ちゃんが「ホント大馬鹿ね、由美」とわかりやすく大袈裟に溜め息を吐き出せてみせる。
「ぁん?」
馬鹿にされたのを感じ取って、自分を睨み付けてくるユミリンに、千夏ちゃんは「つまり、試験問題を職員室で作っているから、生徒が問題を見て不正をしないように、立ち入り禁止になっているって話でしょ?」と顎を上げて見下すような視線を向けた。
「そ……それくらいわかる!」
不機嫌そうに返すユミリンに、千夏ちゃんは「じゃあ、何でアンタ首を傾げたのかしら?」と容赦なく追い打ちを掛ける。
「き、聞いてなかったんだよ、職員室立ち入り禁止なんて」
もの凄く悔しそうな顔でそっぽ向いて言うユミリンに、千夏ちゃんは「大事な連絡を聞き逃していたんですか?」とわざとらしく挑発を掛けた。
このままだと衝突に張ってするんじゃ無いかと思った私は「はい、ストップ、そこまで! 折角お姉ちゃんが、昔の試験問題持ってきてくれたんだから、その話をしよう」と言って割って入る。
すると、真っ先に史ちゃんが「そうですね。じゃれ合って貴重な時間を削るのはどうかと思います」と、角が立ちそうな言い回しで話に乗ってきた。
同時に表情を険しくして、空気をピリつかせる千夏ちゃんとユミリンを完全無視して、委員長が私のノートを手に取りながら「なるほど、先生が繰り返し授業で触れたことが出題されやすいから、メモを取ってるわけね」と言う。
「どういうことぉ?」
委員長の発言に不思議そうに首を傾げながら、茜ちゃんが説明を求めた。
「自分で問題を作るわけだから、授業で多く触れた単語は先生の中でも覚えてほしい単語なワケだから、試験に出やすいってコトよ……実際、そう言ってた先生もいたしね」
委員長の返しでは足りなかったのか、茜ちゃんの首が反対に傾く。
その反応を確認した委員長はめんどくさがることも無く「凛花ちゃんのノートのメモって、試験問題を予想するのに役立つってこと」とかなりかみ砕いて説明した。
対して、これを聞いた茜ちゃんは「じゃあ、問題もわかっちゃうってことぉ!?」と興奮気味に目を輝かせて私を見る。
多少気圧されながら苦笑を浮かべた私は「教えてくれてる先生が問題作成も担当するとは限らないから、あくまで目安にしかなら無いけど、先生が重点的に説明した内容に関する問題は出題される確率は高いと思うよ」と返した。
一応、この世界では私も、初めての定期試験なワケで、知ったかぶりに近い発言だった筈なんだけど、茜ちゃんは「さすがぁ、凛華先生だねぇ」としみじみ言う。
「せ、先生」
思わず繰り返してしまったのは、私にとってその継承が特別だったからに他ならなかった。
二人に分かれたとはいえ、やっぱり自分の中で教師は憧れの職業であり『先生』と呼ばれることはずっと思ってきた夢だったのである。
なので、どうしても反応……いや、浮かれた気分になってしまうのだ。
「ま、まあ、出やすそうな問題は多少予測出来ると思う」
なので、つい気分の高揚に押されてそう宣言してしまったのも仕方の無いことだと思う。
結果、お姉ちゃんやまどか先輩まで加わった皆に、予想問題を作ってみてほしいと言われた私は勢いと浮かれた気持ちに背中を押されて「やってみる」と安請け合いしてしまった。
しばらくの間、予定が立て込んでしまったため、更新が不安定になるかも知れませんが、更新可能な日は16時に掲載しますので、予めご了承ください。




