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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第九章 不通? 疎通?
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経験と学習法

 試験勉強を開始すると、真面目な子ばかりなので、それぞれ自分の教材に集中することになった。

 私はまずは一番問題の多い地理のお復習いをしている。

 元の世界と比べて教わる内容に大きな変化が出てくるのが社会系の科目で、一年生の範囲は地理だ。

 日本一高い山や流域面積、あるいは最長の川、最大の湖、二番目、三番目といった自然物の順序が変わることは無いが、建物の日本一などは、建築技術の進化により変化が起る。

 この昭和64年の世界、元の世界だと平成元年では、日本一高い建物は東京池袋のサンシャイン60だけど、この二年後に新宿都庁庁舎に塗り替えられるのだ。

 トンネルであれば、この世界で一年ほど前に青函トンネルが使用開始になっている。

 クイズでは無く、地理の試験問題なので『日本一で一番ほにゃららなのは?』なんて問題は出題されないだろうけど、農作物の産出量などは問題に出されやすいので、そこら辺が私の頭にある知識とどう違うかを認識して、覚え直さないといけないのだ。


 そんなわけで、私の試験勉強は、教科書やノートに取った板書を確認しながら、出題されそうな当たりを予測して書き出す形だ。

 集中して作業をしていたせいで気付かなかったのだけど、一端手を止めたところで、私の手音をのぞき込む目がいくつもあることに気が付く。

 ゆっくりと顔を上げると、委員長が「なんだかもの凄く手慣れているわね」と口にした。

 一応、大学卒業までは果たしているし、教育実習も教員免許も持っているので、自分流ではあってもそれなりの経験はある。

 なので、委員長が手慣れてるというのも、ある意味当然かなと思った。

「もしかして、私立中学の受験とか目指してた?」

 委員長は単純に疑問を口にしただけだと思うのだけど、返し方に詰まってしまう。

 単純な事実として、私立受験ということは無かったはずだ。

 何しろ、部屋の中にそういったたぐりのモノはなかったし、話題に出たことも無い。

 もちろんこの世界の私が受験に失敗して、皆が触れないようにしているだけかもしれないので、絶対ではなかった。

 確実ではないせいで、反応に困ってしまったのだけど、ここで助け船が出る。

「凛花は中学受験はしてないわ」

 お姉ちゃんが委員長にそう伝えると、委員長は「そうなのね。流石ね」と深く頷いた。

 経緯が経緯なだけに、少しズルしているような小さな後ろめたさがあるけど、納得して貰えたことに、正直ホッとしている自分がいる。

「でも、こんなに綺麗なまとめ方、誰かに教わったの?」

 委員長は純粋に興味があるらしく、真っ直ぐに私を見て尋ねて来た。

「自分で考えたんだけど……」

 私の言葉に嘘はない。

 けど、私なりに十年以上の時間を経て形になったモノなので、やっぱりちょっとズルした気分になってしまうのだ。

 そんな私の前に両手をついた委員長が「凛花ちゃん、凛花ちゃんも勉強があるのに、こんなことお願いするのは駄目だとはわかっている……と言うか、こんなこと言えば、凛花ちゃんは良いよって言っちゃうとわかってて言うのは、スゴく卑怯でズルイと思うけど、私に勉強の仕方を教えてくれないかな」と言う。

 私は真剣な表情の委員長に「もちろん、いいよ」と返事した。

「そ、そんな、簡単に……」

 何故か承諾したのに、委員長の方が困惑してしまっている。

 まあ、口ぶりからしてもの凄く後ろめたいお願いだったんだろうけど、正直、勉強し直すなんて地理くらいで、他の科目は確認程度である程度こなせるのだ。

 つまり余裕がある私にとって、委員長に協力するのは当たり前なのである。

 自分の評価の底上げに、私のこれまでで培った技術が含まれるのはモヤモヤするけど、誰かのために活用するなら何の問題も無いのだ。

 むしろウェルカムである。

 というわけで、即答で承諾したんだけど、委員長が珍しく動揺してしまっていた。

「自分の勉強もあるでしょう?」

 目を丸くして言う委員長に「委員長、誰かに教えると、それは復習にもなるんだよ。それに、一応だけど、私の方が教えるって形になるけど、教えた時に、委員長がもっと良くなる方を思い付くかもしれないし、そうなれば、私の得になるでしょう?」と言って微笑む。

 すると、委員長は視線を下に下げて、盛大に溜め息を吐き出すという予想外の行動を返してきた。

 思わず目が丸くなってしまった私の顔を見上げるように、顔を上げた委員長が「本当にできる人って、そういうものなのね」と苦笑する。

 すると、お姉ちゃんが溜め息交じりに「凛花は自覚がないだけで、昔から優秀なのよ」と言い出した。

 ユミリンも「リンリン、小学校の時も、プリントで90点以下取ったの、見たこと無いもんなー」と続く。

 即座にユミリンの言葉を否定したかったが、あいにく過去について私は知らないせいで、何も言えなくなってしまった。

 結果、私が否定しない、イコール、事実となったのだろう。

 皆の口から「へぇ~」という声が上がった。

「じゃあ、私も姫に教えて貰おうかな~」

 冗談交じりに言ってくるまどか先輩に、私は「流石に三年生の勉強は教えられないです!」と、強めに切り消す。

 対して勘の鋭いまどか先輩は、本当は()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかと思わせるほど含みのある笑みを浮かべて「ほんとかなぁ?」と目を細めた。

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