求める関係は
『リーちゃん、脅しかな?』
目を閉じ直して布団を引き上げながら、そう尋ねるとリーちゃんは『そうじゃな』と返してきた。
思わず絶句した私に『主様は、心優しい故、わらわの思いを裏切ったりはせぬじゃろうなぁ~』と追い打ちを掛けてくる。
私はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着けてから『いい性格してると思う』と言うと、リーちゃんは『主様は知らぬかも知れぬが、わらわがお仕えしておるお方は、想像も付かぬような突拍子も無いことをする方でのぉ、わらわもよく驚かされている故、それが経験として蓄積され、影響を受けたのでは無いかのぉ』と切り返してきた。
思わず『随分、言うじゃない』と言うと、リーちゃんはシレッと『事実じゃからなぁ』と言う。
その返しにモヤっとしたのだけど、リーちゃんから『本当に、主様は気持ちだけで行動を起こしてしまうからのぉ、こちらは気が気ではないのじゃ』と言われてしまい、何も言えなくなってしまった。
加えて『本来の世界でも、こちらの世界でも、多くの者に慕われているというのに、自分の身を軽んじているとしか思えぬほど、行動が短慮で浅はかすぎるのじゃ』と追撃までされてしまう。
何も言えなくなっている私に、リーちゃんはこのタイミングで『まぁ、皆、そこも主様の魅力だと思っておる……わらわもな』と続けた。
更に間を開けてから『故に、主に行動を改めろとは言わぬじゃろ?』と囁くような声色で言う。
『ただ、心配する周りの者もおることを覚えておいてほしいのじゃ』
リーちゃんのまとめに、私は『気をつけます』としか言えなくなってしまった。
頭の中でのリーちゃんとの会議は終わった。
けど、考えさせられる内容だったのもあって、上手く眠れそうに無い。
リーちゃんは話しかければ相手をしてくれるんだろうけど、明日、学校もあるし、付き合って貰って話し込むと取り返しが付かないことになるのは簡単に想像が付くので、ギュッと瞼に力を込めて、頭の中で羊を数えてみることにした。
結局そのまましばらくの間眠れないままだった私に、リーちゃんから『主様』と声がかかった。
『……なに?』
私が反応を見せると、リーちゃんは『主様の試している方法は西洋発祥らしくての……そもそもは羊がシープ、眠りがスリープと音が近いからだとか、羊を飼う広大な牧草地が身近にあって、その風景を想像することで脳波に安らぎの色が現れるから効果がある……と、いうことだそうじゃ?』と、暗に私の努力の方向性が間違っていると指摘してくる。
冷静な突っ込みに、ちょっと不満を抱いた瞬間、リーちゃんから『わらわとしては主様のタスカになりたいだけじゃ。故に、ダメ出しをしたいわけでは無く、手助けをしたいのじゃ』と言われた。
『手助け?』
訝しむように聞き返すと、急に頭の中に小川のせせらぎといった感じの水の流れる音が響き出す。
『水の音は母親の胎内に居た頃を想起させたり、あるいはそもそも人の身体の八割が水という親和性からリラックス効果を引き出せるようじゃからな。この方法の方が良いと思うのじゃ』
リーちゃんの考えが正しいと示すかのように、直前よりも身体の力が抜けてきているのが自覚できた。
確かに羊を数えるよりは遙かに効果的だなと思う。
私は大人しく、リーちゃんが手配してくれた水音に身を任せることにした。
次に気が付いた頃には、お姉ちゃんが布団から起き上がるところだった。
私も千夏ちゃんやユミリンを起こさないように気をつけながら身を起こす。
お姉ちゃんが私の動きに気が付いて視線をこちらに向けてきたので、私は軽く手を振ってみせた。
それを見て目を細めたお姉ちゃんは、笑みを深めて手を振り返してくれる。
なんだか嬉しく思いながら、私は布団から抜け出して、立ち上がった。
音を立てないように気をつけながら、洗面所のある一階への階段を降りる最中、私は頭の中で水音でサポートしてくれたことを、リーちゃんに感謝した。
改めて、自分がリーちゃんに沢山助けて貰っていることに思い至ったことも付け加える。
真面目に返されると恥ずかしいので、私はリーちゃんからの返答が来る前に、もっと早く素直に相談していれば良かったと伝えた。
独走しがち……というのは、結局、最初に相談を考えない自分が原因なんだと、一晩経って、ようやく気付く。
もっと早く、リーちゃんに聞いていれば、良かったと自分の浅はかさが情けなかった。
そう思考した私に対して、リーちゃんは『即断即決自体は主様の優秀さの現れじゃ。良きことではあれ、悪きことでは無いのじゃ』と言う。
昨日と矛盾していないかなと思ってしまったのだけど、リーちゃんは『……きっと、皆、頼って貰いたいだけで、主様に代わって欲しいわけじゃないのじゃ』と言った。
リーちゃんの言葉を聞いた私はなんだかむずむずした気持ちになる。
私のあり方を否定しているわけじゃ無くて、認めた上で、それでも求めてくれているんだと思うと、誇らしさと同時に嬉しさと少しの気恥ずかしさが湧いてきた。
『それはリーちゃんもかな?』
恥ずかしさを誤魔化すように尋ねる。
対してリーちゃんは『まあ、そうじゃな』と少し素直じゃ無い言い回しで肯定した。
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