離脱と推測
オリジンと連絡が付くようになったのは、私をかなり前向きにさせてくれた。
私の状況が伝わらずみゅくえふめいになんてことになれば、お父さんやお母さんに申し訳ない。
何より、東雲先輩に余計な心配を掛けてしまう可能性が減ったことにホッとしていた。
もちろん、緋馬織の皆にも心配は掛けたくないので、その点での懸念は解決されたのは大きい。
ただ、こちらと外に、大きな時間の流れの違いがあるので、向こうの考えを受け止められるのはそれなりに先のことになるのが少しもどかしかった。
とはいえ、確実にその日が訪れることがわかっているので、気持ちに余裕を持つことは出来そうだ。
『ところで、リーちゃん』
『何じゃ、主様?』
『思ったことがあるんだけど、いいかな?』
質問というか、疑問というか、可能性の確認というか、ともかく頭に浮かんでいたモノについて、リーちゃんの考えを聞きたいと思ったわ退社、そう切り出した。
リーちゃんは『無論じゃ』と、即座に受け入れてくれる。
『今、ここで私が元の世界に戻った場合、どういうことが起ると思う?』
元の世界に戻って、みんな……東雲先輩に再会したい気持ちが日々募ってきてはいるけども、未だ我慢できるレベルなので、今、余裕があるうちに、相談というか、意見を聞いておきたかったのだ。
そもそも『抜け出せるのか?』についても未知数ではあるのだけど、私の中にはなんとなくそちらは出来るような感覚がある。
質問の間に考えていることは、リーちゃんも読み取れるからだろうか『ふむ』と口にした後で、最初に『主様はこの世界を出られないとは思ってないのじゃな』と言った。
思考を読まれているし、否定する理由もないので『確証があるわけじゃ無いけど、出来るって言う気がするんだよね』と返す。
リーちゃんは『主様が出来ると感じているのならば、まあ出来ると考えて間違いないじゃろうな……わらわが今持っておる情報と、把握しておる主様の能力からは、行使される術式のロジックは見当が付かないのじゃが……まあ、世界の法則程度ねじ曲げるんじゃろうな』と言った。
なんだか諦めたような口ぶりのリーちゃんだけど、私の能力そのものが、科学的に分析や再現できないのが一番の原因らしい。
私の生み出したドローンなどを通じて収集した映像データから、情報蓄積をし続けては居ても、具現化や現象発生そのもののメカニズムが科学的に解明できていないし、そもそもその原動力となるエネルギーの正体も解き明かされていないのだ。
機械の身体を持つオリジンやリーちゃんたちからしたら、理屈はわからないけど、思い描いたイメージを現実のモノにする私という存在は、理不尽以外の何物でも無いらしい。
結果、リーちゃんは私の能力に係わる話になると、投げやりのような形になってしまうようだ。
『と、ともかく、話を戻してもいいかな?』
私がそう話を振ると、リーちゃんが『うむ。そうじゃな』と同意してくれた。
『この世界から、私が離れた場合、世界はどうなると思う?』
リーちゃんは少し間を置いてから『これまで蓄積した情報から、この世界の『種』は主様に何かの役割を担って貰おうとしておるのでは無いかと思うのじゃ』と言う。
そこは私も同意するところなので『私もそんな気はする』と返した。
『で。あるならばじゃ……主様がこの世界を離れた瞬間、この世界の時間は止まるのでは無いかのう』
リーちゃんの推測に対して、私はなるほどと思いながら『私が見てないと『種』の目的が果たされないから……って、コトだよね?』という考えで良いのか確かめてみる。
『うむ』
リーちゃんが肯定してくれたことで、元の世界の人にどうしても会いたくなった時は、この世界を離れても良いんだと考えることが出来た。
『ま、待つのじゃ!!』
慌てた様子でリーちゃんがストップを掛けてくる。
さらに、リーちゃんは『可能性が高いと言うだけで、絶対ではないのじゃ! 予測と異なり時間の経過は止まらず、観測せねばならない事態を見逃す恐れもあるのじゃ!!』と少し強めの声で続けた。
『わ、わかってるよ。大丈夫、いざという時、気持ちが折れる前に、一端、離れる選択肢があるってことに安心しただけで、今のところは脱出しようとは思って無いから……その、肝心なところを見逃す可能性は、私にも推測してたことだしね』
そう私が返すと、少し間を開けてから、リーちゃんは何か含みを感じる『う……む』と言う。
これは抜け出しかねないと思っているなと察した私は、そこは否定せずに『もしも切羽詰まった時は、行動する前に、リーちゃんに相談するから』と誓った。
リーちゃんはまたも少し間を開けてから『わかったのじゃ』と受け入れてくれる。
『気持ちの上で、切れるカードがあると、気持ちに余裕が生まれるでしょ?』
なんとなく、気持ちが落ち着かなくて、自分でも言い訳くさいかなと思って、そう言い加えた私に対してリーちゃんは『主様、大丈夫じゃ』と言ってから、少し間を置いて放たれたなんだかもの凄い含みを感じる『信じておるからの』という言葉に、思わず布団の中で閉じていた目を開いてしまった。
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