夜の情報確認
「お姉ちゃん、ユミリン、千夏ちゃん、ありがとう、ご苦労様」
帰ってきた皆に労いの言葉を掛けると、すぐに、お姉ちゃんから「凛花、体調が悪化したりいしていない?」と聞かれてしまった。
それどころか、ユミリンにも「私たちが行くから、リンリンはお母さんのところで待ってなよ」と言われてしまうし、千夏ちゃんにも「動かずにジッとしてないと、私たちが心配になるよ」と困り顔をされてしまう。
「だ、大丈夫だよ、学校から歩いて帰ってこられたんだし……」
皆に掌を向けて宥めるようなジェスチャーを添えながら、そう伝えるも、皆からは自覚やら警戒心が足りないという言葉を返されてしまった。
夕食、入浴を終えて、布団に入ったところで、私は頭の中で、リーちゃんとの会議に入った。
『オリジンとの連絡はどの程度取れているの?』
私がそう尋ねると、リーちゃんは『まず、情報のやりとりはできるようになったのじゃ』と答えてくれる。
『それって、どのくらいの涼の情報を送れるの?』
少し踏み込んで尋ねると、リーちゃんは『既に、こちらの世界に入ってからの主様の行動履歴、これまでに起きた不可思議な現象、後は主様が使った能力についてはまとめて伝えてあるのじゃ』と情報を追加してくれた。
なんだか、やらかしを報告されてしまったようで、少し落ち着かない気持ちになったモノの、軽く深呼吸をして気持ちを立て直した私は『オリジンからはどんな情報が?』と尋ねてみる。
『オリジンからは、特に報告は無いの。実際、主様がこちらの世界に来てから向こうでは未だ数分程度しか経過しておらぬゆえ、報告自体はオリジンが上げてはおるが、それに対する反応となると、今少しかかるじゃろうな』
リーちゃんの推測を含んだ報告に、私はなるほどと心の中で頷いた。
いくら優秀な雪子学校長や月子お母さん達でも、事案発生から数分程度では、状況の認識すらままならぬだろう。
対策を考案するには更に時間は経過してしまうはずだ。
恐らくこちらが夏を終える方が早い気がする。
おおよその推測とは言え、そんな感覚で間違っていないだろうと考えていると、リーちゃんから『現時点では、この状況に対する指示を仰ぐことが出来無い故、わらわとオリジンは協議の上、情報のすりあわせをすることにしたのじゃ』との言葉が告げられた。
『情報のすりあわせ?』
聞き返した私に『うむ』と返事をしてから、リーちゃんは『こちらの世界で主様に接触してきた人々に関しての情報収集じゃ』と続ける。
『そもそも、同じ名前の人物が実在しているのか、存在しておるならば、元の世界での経歴、現住所など、元の世界で進行形の情報をオリジンに集めて貰ってるのじゃ』
リーちゃんの説明に、私は『なるほど』と返した。
この世界は過去の世界を忠実に再現して組み上げられている……と、思われる。
実際、私との関係は変わってはいるモノの、良枝お姉ちゃんの年齢自体は正しいのだ。
この点だけで断言は出来ないけど、他の人間関係や出来事についても過去にあった事実をベースに組み上げているのなら、記録通りの可能性が高い。
今居るこの世界の現在と元の世界の過去をすりあわせた時に、異なる箇所があれば、そこに何らかの意図、もしかすれば『種』への繋がりが垣間見えるはずだ。
加えて、こちらの世界の人々が将来どうなっているか、つまり元の世界での現在を知ることが出来れば、こちらとアチラのミッシングピースを埋めることが出来る。
それによっても、ある程度『種』の意図や目的について、絞り込める可能性もあるのだ。
私がそうやって考えをある程度まとめ他ところで、リーちゃんの『そういうことじゃな』という肯定の言葉が響く。
相棒の肯定の言葉に、安堵と間違っていないという確信を得ることが出来た。
『それで……情報収集が終わるまで、どの程度かかりそう、なの?』
私は目安を付けるためにも、オリジンの作業に必要な時間を聞いてみた。
すると、リーちゃんは『オリジンとしてはある程度まとめてから、こちらに情報を流す予定だった様じゃが、情報の精度より、早さを優先して貰ったのじゃ』と言う。
『早さ……』
『うむ。多少、情報に正確さに欠けるモノが紛れるかも知れぬが、検索に引っかかり次第、こちらに送って貰うことにしたのじゃ』
リーちゃんが正確さより早さを優先したのは、この世界が過去世界のコピーである以上、時間経過と共に元になった世界、つまり過去に起きた出来事をなぞる可能性を考えたからでは無いかと思った。
何か大きな事があるとわかっているならば、前もって備えることが出来る。
準備が出来ていれば、事前の情報収集や状況発生時の余裕に繋がるのだ。
『そういうことじゃな』
改めて私の思考を読んだリーちゃんは肯定の言葉をくれる。
今日一日、相棒の不在に心細さを感じていたけど、いや、居たからこそか、こうして肯定して貰えると、もの凄く自分の考えに自信が持てるようになって、それがなんだかおかしくて、私は布団の中でニヤついてしまった。




