報告
今と昔の光景の違いを教えて貰いながら歩く通学路は、とても楽しかった。
この世界では未だ二度目だし、初の往路ということもある。
特に目を惹かれたのが自動販売機だ。
まず、ペットボトルが無い。
それも一切全くなかった。
他にも、自販機で売っているコーラが瓶だったり、購入できるラインナップ閲覧が一列しか無かったり、お酒が変えたり、お札を入れられるものが殆ど無かったりもする。
それどころか、本屋さんの横にあった自販機では新聞や雑誌が売られていた。
元の世界では無くなってしまったり、減ってしまっているものばかりなので興味深い。
飛んで行って観察しなかったのは、お母さんがいたからだ。
一人だったら道草で学校に辿り着けなかったかもしれない。
そう考えると、お母さんに付いてきて貰ったのは大正解だったみたいだ。
中学校に着くと、丁度二時間目の授業中だった。
授業の途中で乱入するのは先生にも、生徒にも迷惑なので、学校についた報告を兼ねて職員室に向かう。
「来客者のスリッパなんて、初めて履くわ」
何故か楽しそうに言うお母さんは、金字で『来客用』と書かれた緑のスリッパを履いていた。
そんなお母さんに、自分の足下を見ながら「私も、初めてかな」と返す。
生徒である私は昇降口に、自分用の下駄箱があって、上履きもそこに置いてあるのだけど、一番南の棟に行かなければならなかった。
まずは職員室にお母さんと一緒に報告しに行くことにしたので、校舎に入るのに来客用のスリッパを借りたのである。
もちろん、教室に戻るときには履き替えるつもりだ。
そんなわけでお母さんとおお揃いのスリッパを履いた私は二階にある職員室に向かう。
校舎はコンクリートと木造で、印象が随分違うものの、職員室の場所は変わらないとお母さんは笑っていた。
「あの、1年F組の林田凛花と申しますが……」
ちょっとだけ開いた職員室のドアから顔を覗かせて、一番近くの席の女性の先生に声を掛けた。
すると、私の声に気が付いた背院生は振り向きながら「1年F組……あ、綾川先生のクラスの子ね」と笑みを返してくれる。
私は頷きながら「えっと、今日は病院に行ってきたので、途中登校になってしまったんですが……」といえば、女性の先生は席から立ち上がってこちらに歩み寄りながら「あらあら、大丈夫?」と心配そうに聞いてくれた。
「はい。それで、母が同行してくれて、説明をしたいそうなので……」
私の言葉の途中で「まあ、そうなのね」と言った女性の先生は、私から私の入ってきたドアの向こうへと視線を動かす。
恐らく私が話に出したお母さんを探しているんだろうと思い、私はドアの前から一歩引いて、廊下で待機していたお母さんに視線を向けた。
私の声を掛けた女性の先生は、廊下までやってくると、お母さんを見つけてすぐに頭を下げた。
「家庭科を担当しています。浜野と申します」
「ご丁寧に。林田凛花の母です」
軽く挨拶を交わしたところで、お母さんが、私が昨日二回ほど保健室にお世話になったこと、それ故に念のため近くの医院で診察して貰ったこと、特に異常が無いと診断されたこと、念のため血液検査をして結果が出るのが数日後であることなど手短に説明する。
まさに流れるような淀ミオ内接目に、私は素直に凄いと思って、尊敬の目を向けてしまった。
一方、説明を受けた浜野先生は「事情はわかりました。担任の綾川先生は、今授業中ですので、後ほど私から連絡しておきます」と言ってくれる。
お母さんは「わかりました。お願いします」と頭を下げた後で、私に視線を向けた。
それに遅れて浜野先生も私を見る。
二人に視線を向けられたまま、反応できずにいると、浜野先生が「それじゃあ、林田さん」と私の胸の名札を見ながら声を掛けてきた。
「はい」
私が返事をすると、浜野先生は「それじゃあ、林田さんは今の授業が終わるまで保健室で待機して貰って良いかしら?」と首を傾げる。
授業の途中で参加するので半句次の時間から参加するようにと言うことなんだろうと理解した私は「わかりました」と頷いた。
ここでお母さんが「保険医の先生にもお伝えした方が良いですか?」と尋ねる。
浜野先生は少し考える素振りを見せてから「もし、ご負担でなければお願いしても良いですか?」と問いで返した。
お母さんは「はい」と答えてから「それじゃあ、早速向かいます。行きましょう、凛花」と話を進める。
私はお母さんに頷いてから浜野先生に「それじゃあ、よろしくお願いします。ありがとうございました」と伝えて頭を下げた。
職員室を離れた私とお母さんは、すぐに保健室に向かって移動を開始した。
単純に、もう二時間目も後半なので、説明の時間を考えると少し急いだ方が良いとお母さんは判断したらしい。
完全には位置を把握しているお母さんの後について、昨日目覚めたこの世界で最初の場所、保健室へと私は戻ってきた。
お母さんは金属扉の鈍い銀色をノックしてからゆっくりと扉を開いた。
「失礼します」
お母さんがそう言って扉の先、保健室の中へと視線を向けたタイミングで、丁度立ち上がった白衣の女性がこちらへ振り返る。
「あ、林田さん」
昨日顔を合わせたばかりなので、私を見て笑顔を見せてくれた保険医の先生は、お母さんを見て「林田さんのお母様ですね」と声を掛けた。




