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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第九章 不通? 疎通?
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心配と監督

 流れ出した曲に合わせて、私は振り付け通りに最初の一歩を踏み出した。

 立ち位置として私は黒板の目の前、その後に、千夏ちゃん、ユミリン、委員長が列になっていて、その後ろには、史ちゃん、加代ちゃん、茜ちゃん、オカルリちゃんが並んでいる。

 一番後ろはお姉ちゃんとまどか先輩という並びで、皆が黒板を向いているので、私からは皆の舞いが見えない状況だった。

 なので、皆の動きを確認することは出来無いけど、トン、トンと上履きが床を踏むことで立てる音が重なって聞こえている気がする。

 それだけ揃っているんだと思うと心強さ、嬉しさ、そして、私が足を引っ張るわけには行かないという思いがこみ上げてきた。

 リーちゃんがいない分、より丁寧に、頭で次の動作を思い浮かべながら、きっちりとカウントを取って身体を回転させる。

 まるっと一回転するので、皆の様子を確認する時間はとても短かったけど、ビックリするくらい皆の動きは揃っているように見えた。

 それだけで、気持ちが高揚してくる。

 後から始めた皆のお手本になれるように、舞衣を待っていると、急にパンパンと手が叩かれた。

 反射的に音がした方に目を向けると、こちらを見て立つ皆の姿が目に入る。

「あれ?」

 思わずそう口にした私に、委員長が「凛花ちゃん、そこまで私たちは進めてないわ」と言われて、ようやく自分がいつの間にか練習した範囲を超えていたことに気が付いた。


「リンリンは集中力すごいからなー」

 呆れの若干混じったユミリンの苦笑を前に、恥ずかしくなってしまい頬が熱くなった。

「練習でも一切手を抜かない。凛花ちゃんの凄いところよね」

 ユミリンを押し退けながら千夏ちゃんがそう言ってフォローしてくれる。

「その通りです。常に全力だからこそ、憧れるのです」

 うんうんとお大きく何度も頷きながら史ちゃんも、ユミリンを押し退けるようにして前に出てきた。

「お、おまえら!」

 押し退けられる形になったユミリンが不満を口にするモノの、千夏ちゃんと史ちゃんはがっちり組んだ上で、スルーに徹している。

 最初こそ押し合っていたユミリンだったけど、二人に根負けして「たくっ」と言って笑みを浮かべながら引き下がった。


「中瀬古先生、ありがとうございました」

 感謝を伝えた私に対して、中瀬古先生は苦笑しつつ「いや、僕はスイッチを押しただけだから」と首を振った。

「でも、スイッチを押してくれる人が居ないと、誰かが、押してから列に戻らないといけなくなりますから」

 私がそう返すと、中瀬古先生は少し考えてから「それなら、なるべくこちらに顔を出そうか?」と言う。

「え?」

「大事な伝統の継承に係われるなら、僕としては嬉しいからね」

 にこやかにそう言ってくれる中瀬古先生を前に、素直にお願いしても良いのか迷ってしまった。

 そんな私に代わって、委員長がまるで考えを読み取ってくれたかのように「参加してくださるのはありがたいですが、その、負担になりませんか?」と質問してくれる。

 対して、中瀬古先生は「もちろん、いつでも顔を出せるわけじゃないけど、活動日に時間を作るくらいは出来るよ。他の先生方も顧問をされているだろう?」と柔らかな表情で返した。

 委員長はそんな中瀬古先生の返しを聞いた後で、私に視線を向けてくる。

 気付けば、お姉ちゃんを含めて他の皆が私を見ていた。

 多分……というか、ほぼ確実に、私に判断を委ねたと言うことなんだろう。

 私は軽く目を瞑って少し考えた。


「先生に負担のかからない範囲で、立ち会ってくれると助かります。音楽出しだけじゃ無くて、伝統文化の専門家としての見解を聞かせて欲しいですし、何より、私は身体が強い方ではないので……」

 私は考えた内容を真っ直ぐと目を見て、中瀬古先生に伝えた。

 対して中瀬古先生は少し困ったような表情を浮かべて「今日も天野さんが保健室に運んだって聞いている……流石に、大人の男の僕の方が、力はあるだろうから、いざという時も役に立てるかもしれないね」と頷く。

 中瀬古先生の返しを聞きながら、私はやっぱり、そこがポイントなんだなと思った。

 顧問として名前を出している以上、生徒に無いかあれば監督責任が生まれてしまう。

 保健室に運ばれたり、病院に運ばれかねない生徒というのは、目の届く範囲に置いておきたくなるのは、とても自然だ。

 皆も反対意見は無さそうだし、私は「では、お手数をおかけしますが、監督しに来てくれると嬉しいです」と伝える。

「小野先生も同じ意見だから、交代で参加するようにするよ」と返した中瀬古先生は、皆を見渡しながら「皆も、それで良いかな?」と確認してくれた。

 お姉ちゃんは皆に軽く視線を巡らせただけで、直後、皆とばっちりタイミングを合わせて「「「お願いします」」」と頭を下げる。

「そ、そんなに大袈裟にしなくても良いよ」

 少し慌てた様子でそう返した中瀬古先生は、大きな手で自分の首の後ろを掻いた。

 私としては、そんな中瀬古先生の反応よりも、視線だけで統率してみせたお姉ちゃんから受けた衝撃の方が大きい。

 受けたビックリの部分が薄まってきたところで、私はお姉ちゃんみたいにリーダーシップを発揮できるようになりたいと思った。

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