ままならない思い
それぞれに分かれて何度か練習をした後で、練習は一旦休憩となった。
「みーちゃんはぁ、しーちゃんが大好きなのにぃ~妙に意地を張るんだよねぇ」
しみじみと言う茜ちゃんに、委員長は「こ、か、勝手に、ひぇんなこといわないで!」と文句を言うも、その声は裏返ってしまっている。
直後、委員長の顔は一気に赤みを帯びた。
下手に声を掛けても可愛そうと思った私は、委員長に助け船を出せない。
他の人達はどう考えたのかはわからないけど、微妙な表情を委員長に向けて黙ってしまっていた。
「はぁ……」
思いっきり大きな溜め息を吐き出した委員長は、顎を上げて天井を見上げるような姿勢で固まった。
目を閉じているので、天井を観察しているわけではなく、気持ちを落ち着けているのだろう。
そこからしばらく間を置いて、顎を下げた委員長は同時に目を開いた。
「あんまり認めたくないけど……憧れてたのよね、しーちゃんに……」
頬を僅かに赤く染め、どこか不貞腐れたように委員長は語る。
「小さい頃から見てきたのよ……普段は抜けてルナッ仮で、下手したら私よりも失敗の多いしーちゃんが、あの舞台で……神楽舞いの時だけ、すっごく綺麗で、なんだか夢みたいに輝いていて……」
遠くを見るような目で、委員長は柔らかく微笑んだ。
「でもぉ、みーちゃんはぁ、認めたくなかったんだよねぇ」
後ろから委員長に抱き付きながら、ああ金ちゃんが茶々を入れる。
露骨に嫌そうな顔をみせた委員長は、その顔のままで「その通りよ」と口にした。
「正直、少しは委員長の気持ちがわかるわ」
ユミリンが不意にそう言った。
委員長の視線が自分に向いたのを合図に、ユミリンは言葉の先を口にする。
「負けたくないって思ってるヤツのスゴいところをスゴイと思っても、それを相手に知られたくないし、かと言って、素直に認められない自分の小ささも嫌だしって、なるわ」
ユミリンはそう口にしてから委員長に向かって「まあ、委員長の状況とはちょっと違うかもしれないけど」と言って締めた。
対して、委員長は少し困った顔をして「大きくは変わらないわ」と言う。
そのまま視線を下に落としたい院長は、少し間を開けてから「……でも、わざわざそんな事を言うなんて、由美子さんは思ったよりもお人好しみたいね」と言い出した。
ユミリンは委員長の物言いにムッとした表情を浮かべる。
が、それも顔を上げて、自分を見ながら口にした晴れやかな表情の委員長の「ありがとう、自分だけじゃないって知れただけでこんなにも心が軽くなるのね」という言葉を前に、苦笑に変わった。
「いやぁ、青春だねー」
場の空気を茶化すように、まどか先輩が戯けていった。
「なんだか微笑ましい光景ですけど、こう、なんというか、むずむずしますね」
オカルリちゃんが腕組みをしながらそんな事を言い出す。
すると、茜ちゃんが「みーちゃんはぁ、自分で出来ちゃう事が多いからぁ~案外人の話を聞かないのよねぇ~」とわざとらしく溜め息を吐き出した。
「できる人にありがちだねー」
茜ちゃんの話に頷きながらまどか先輩はこちらに視線を向けてくる。
更に、まどか先輩の視線に誘導されて、他の皆の視線も私に向かってきた。
その目が『私も出来る側だ』と言っている気がして、慌てて首を振る。
「私は出来るヒトじゃないですから、その目は止めてください!」
皆にはっきりと宣言した結果、場に沈黙を呼び込んでしまった。
どうやら私は選択肢を間違ったらしいと頭ではわかっても、打開方法が思い付かなかった。
そんな中、千夏ちゃんが「まあ、凛花ちゃんは出来無いところもあって、そこは凄く可愛いわよ」と真面目な顔で言い出す。
「確かに、緋芽は何でも出来る完璧人間という感じではないね」
直前にまどか先輩の目から感じていた指摘が、自意識過剰な勘違いだと、その言葉で察した私の全身から羞恥の熱が噴き出した。
そのまま身体が硬直して、全身が熱く、グンと世界が遠ざかったような感覚に、身体を動かせなくなってしまった私の目の前で話は進んでいく。
「凛華様の場合は、心境や心情を隠されるところがありますね」
史ちゃんの発言に、加代ちゃんが「聞いた人の迷惑になるかもとか、気分を害するんじゃないかって方に意識が向くんだよね……私も、リンちゃんほどじゃないけど、そういう風に思ったりするから、わかるよ」と言って、優しい目を向けてくれた。
「凛華は自分の気持ちを抑え込んだ方が上手くいくって考える悪い癖があるからね」
お姉ちゃんが加代ちゃんの話に乗ってそう言うと、今度は委員長が「凛花ちゃんは優しすぎるのよ」と言い出す。
すると、皆がほぼ同時に「「「そうね」」」と頷いた。
頷いた内容も、皆に意見が合致したことも、何もかもがもの凄く恥ずかしくて、目が回り始める。
「凛華様はもう少しわがままであるべきだと思いますよ」
困った顔でそういう史ちゃんに、他の皆もそれぞれ頷いた。
予測もしていない方向から気を遣われてしまったことで私の混乱はより一層強まる。
完全にキャパシティオーバーしてしまった頭では、冷静を取り戻すことも出来ず、私はその場でひっくり返った。




