気付いたら
「それで、凛花ちゃん、私へのアドバイスはあるかしら?」
千夏ちゃんが一応の納得をしてくれたところで、委員長に声を掛けられた。
表情を見る限りで言えば、アドバイスがあっても無くても構わないといった風に見えるけど、三人中二人には何かあって、自分にはないというのは気持ちの良い物ではないと思う。
別に私の感想が要らなければ、話を振ることすら無かったんじゃ無いかと気付いた。
なので、委員長に掛ける言葉を真剣に考える。
今までかなりリーちゃんに依存していたんだなと実感しながら、観察した委員長は、期待と困惑と不安が少しだけ、いつもの平然とした表情から覗いてる気がして、より一層何かを伝えなければと言う気持ちになった。
改めて思い返した私は、委員長の舞いからは千夏ちゃんに似たような印象を受けていたことを思い出した。
ただ、あくまで似た様なであって、同じではない。
そこに鍵がある気がして、更に詳しく思い返してみた。
「あっ、そうか」
私の呟きに対して、委員長がすぐに「どうかした?」と少し不安げな顔で尋ねて来た。
「委員長に感じていたものが何かに気付いたんだよ」
そう私が返すと、委員長の表情は少し不安から、困惑の強いものに変わる。
委員長の困惑は「……えっと……」と発した声にも滲んだ。
もう少ししっかりと吟味してからと言う気持ちはあったものの、このまま舞って貰う方が委員長の負担になるなと考えた私は、気付いたものをそのまま伝えることにする。
「その……私の感じたままだから、違うかもしれないんだけど……」
私の前置きに対して、委員長は「ええ」と言って頷いた。
受け止める準備が出来たんだなと捉えた私は「まず、私は委員長の舞いを観て、千夏ちゃんに感じたものに似たものを感じたんだ」と伝える。
「私に似たもの?」
首を傾げた千夏ちゃんに頷いて、私は「千夏ちゃんは私の演技をしていたでしょう?」と返した。
千夏ちゃんは委員長に視線を向けながら「じゃあ、委員長も凛花ちゃんを真似てる……演じてるってこと?」と反対に首を傾げる。
委員長は千夏ちゃんの言葉に、眉を寄せて困惑の色を強めた。
それが私の考えを肯定しているように思えて、思い切って思ったことを口に出してみる。
「演じてるというか、模倣しているというか……委員長が自覚しているかどうかはわからないけどね」
私の言葉に、委員長は自分の掌を見て考え込む素振りを見せた。
おそらくだけど、私の指摘を受けても真似ているという自覚はないんだと思う。
だから、もう少し踏み込むことにして「あ、ちなみに、委員長が真似てるのは私じゃないよ」と口にしてみた。
千夏ちゃんは、私の発言に対して目を瞬かせる。
きっと意味がわからなかったんだと思うけど、一方の委員長はハッとした表情を見せた。
きっと私の考えと同じ結論に至ったんじゃ無いかなと思うけど、敢えて誰を真似ているのかを指摘してみる。
「委員長が真似てるのは、志津さん……多分だけど、ずっと見てきたから、無意識に倣ってるんじゃ内意かな?」
私がそう指摘した直後、委員長はピクッと身体を震わせて動きを止めてしまった。
そのまま反応のなくなった委員長を見ていると、数秒ほどの間を挟んで今度は急にプルプルと震え出す。
「い、委員長?」
震えるのは想定していなかったのもあって、思わず声を荒げてしまった。
その成果、委員長はバッと私に背を向けて上で、そのまま膝を抱えるようにしてしゃがみ込んでしまう。
「え!? 委員長?」
どうしたんだろうと重い声を掛けるものの、対して委員長は、両手を耳を塞ぐように当てて、更に丸まってしまった。
「い……」
心配で更に声を掛けようと思った私を、ユミリンが「はい、リンリン、ストップ」と羽交い締めにしてくる。
「ユ、ユミリン?」
驚いた私に、ユミリンは「大丈夫だから、少し時間をおいてあげようね」と諭すように言った。
何が何だか訳がわからない私に、今度は顔を近づけてきた千夏ちゃんが耳元で囁く。
「委員長は、志津さんの真似をしてたって事が、恥ずかしかっただけだから」
千夏ちゃんの言葉を聞いた私は思わず瞬きを繰り返した。
「そ、そん……」
なこと、と続ける前に、千夏ちゃんに手で口を塞がれてしまう。
シッと自らの唇に空いた手の人差し指を当てて、続きを言わないように促してきた千夏ちゃんに、私は小刻みに頷いて、従う意思を伝えた。
すると、千夏ちゃんは再び私の耳に口を近づけてくる。
「人によって恥ずかしいと思うつぼは違うんだから、深掘りはダメだよ」
千夏ちゃんの指摘に、私は自分が何も考えずヅカヅカと踏み込もうとしていたことに気付かされた。
いつの間にか私を解放してくれていたユミリンも頷いているので、千夏ちゃんと同意見なのだろう。
元の世界で大人で、教師だったは図の自分が、こうも察しが悪かったり、配慮が出来無かったりすることに恥ずかしさを感じた私は、全身から吹き出る羞恥の熱を押し込めるように、思わずその場にしゃがみ込んで身体を丸めた。




