絞り出した感想
私の組の担当はそれなりに出来ているユミリン、委員長、千夏ちゃんの三人なので、舞いながらでも様子を見る余裕があった。
自分のリズムで、振り付け通りに動く私と違って、タイミングを合わせた上で動きも伴わせるのは難しいとは思う。
けど、三人とも多少慣れていないといった感じがするだけで、タイミングはバッチリで、舞いながら、私が教える事なんて無いんじゃ無いかと思えて仕方なくなった。
教えた範囲の振り付けを通しで待ったところで、三人とも期待の籠もった『どうだった?』と言わんばかりの目を向けてきた。
正直、私としては『問題ないよ』で終わらせたいところなのだけど、皆の向けてくる期待の目が、それではダメだと訴えているように思えてくる。
なので、無理矢理それっぽいことを言おうと考えて、まずはユミリンを見た。
「ユミリンは……」
私がそう切り出すと、ユミリンが軽く頷く。
「正直動きすぎないようにしすぎてて、小さくまとまってる感じがした」
ユミリンと私だと普通に身長差がそこそこあるので、一歩踏み込むだけでも腕を振るだけでも、動く範囲にかなりの差が出てしまっていた。
どうも、周りとのバランスを考えてそれを小さくしているようで、逆にそのせいで窮屈になっているように思えたのである。
そんな私の言葉は上手く伝わらなかったのか、ユミリンは「うーん」と唸ってしまった。
「まずはのびのびと、神様に見て貰う舞いだから、自然体でやってみた方がいいと思うんだよ」
私がそう言って言葉を足すと、ユミリンは「確かに、考えすぎていたかも知れないな」と頷いてくれる。
話が伝わった嬉しさに背中を押されて、私は「回りとバランスを取るのはフォーメーションが決まってからでもいいと思うんだよ!」と少し強めに訴えた。
すると、ユミリンは「わかった、一回あまり考えずにやってみるわ」と受け入れてくれる。
それが無性に嬉しくて、自然と口元が笑みの形に動いてしまった。
ユミリンに考えを伝えたのもあってか、千夏ちゃんからの私にも言って欲しいという気配がもの凄く強まった。
視線から感じる圧に気圧されつつも、どうにか何かを言わねばと、私は懸命に頭を回転させる。
その間も期待に満ちた上目遣いで、千夏ちゃんは無言の催促をしてきていた。
「しょ、正直、千夏ちゃんは完璧だと思うよ」
私が苦し紛れにそう言うと、千夏ちゃんは納得出来なかったのか、もの凄くがっかりした顔を見せる。
このまま黙り込んでしまうと、明らかに空気は悪くなるので、多少ムリヤリだけど言葉を続けた。
「完璧だなとは思ったけど……千夏ちゃんらしくないと思うんだよ」
私は言いながら、自分が口にしたとおり、違和感があったことを思い出す。
「……私らしくない?」
首を傾げる千夏ちゃんに、私は頷きながら、違和感をどう解析したら伝わる言葉になるのか更に思考を巡らせた。
結果、一つの単語が閃く。
「演技」
私の言葉を、千夏ちゃんは「えんぎ?」と驚いた様子で繰り返した。
千夏ちゃんに頷いた私の口から、考えをまとめる前に、頭に浮かんだ言葉が飛び出る。
「私には千夏ちゃんが演技しているように見えた」
おかしなことだけど、そう口にしたことで、私の中で急速に考えがまとまった。
しっかりと千夏ちゃんを見て「えっと、間違ってるかもしれないけど、千夏ちゃんは私を演じてるんじゃないかなと、思う」と自分なりにまとめたことを口にする。
対して、千夏ちゃんはあっさりと頷いた。
「うん。凛花ちゃんをそのまま再現しようと思ってた」
考えが間違ってなかったことで、気持ちが一気に軽くなった私は「だからじゃないかな!」と次に発した声が想像よりも大きくなってしまう。
すこし……いや、かなり恥ずかしかったので、それを誤魔化すように、行きおぴを付けて言葉を継ぎ足した。
「だ、だよね。なんだか、千夏ちゃんらしさを感じなかったから、そうじゃないかと思ったんだ」
私の言葉に対して、千夏ちゃんは「でも、凛花ちゃんが一番うまく出来るんだから、真似るのは、演じるのは良いことじゃない?」と切り返してくる。
真似られるのは、私が恥ずかしいという感情的な部分を置いておけば、確かにとは思ってしまった。
単純にダンスならそれで良いとも思うけど、これは奉納の舞い……だからこそ、真似ではいけない気がする。
もちろん、それは私の勝手な考えでしかないので、押しつけになってしまうんじゃないかと思うし、なにより私が言い出せば千夏ちゃんなら自分の気持ちを差し置いて、頷いてしまうだろうなと思うと口に出来無かった。
「凛花ちゃん?」
黙った私に対して少し不安そうな顔で千夏ちゃんが声を掛けてくる。
何か応えなきゃと思った瞬間、思いもよらない言葉が閃いた。
「これは私のわがままだけど、千夏ちゃんの舞いが見たい! だから、私の真似じゃなくて千夏ちゃんなりの舞いを舞ってほしい!」
無茶苦茶身勝手な私の発言に対して、千夏ちゃんは一拍すら間を置かずに「任せて、凛花ちゃん!」と胸を叩く。
やる気に満ちた表情を見せた千夏ちゃんを前に、結局自分の考えを押し付けてしまったことに気が付いて、私は激しく自己嫌悪した。




