組み分け
オカルリちゃんの話に目を輝かせたまどか先輩は興奮気味に話を聞いていた。
芸能界を目指しているまどか先輩にとって、映像の編集や加工に興味があるらしい。
元の世界ではデジタル化だったり、スマホやパソコンなどの高スペック化、記録メディアの大容量化などの背景があるお陰で、一般人でも動画の編集や加工をできる人もそれなりに居た。
リーちゃんの補足情報が無いので、断言は出来ないけど、この時代は未だ録画機器やその再生機器ですら未だ大衆化していないようなので、テレビでやるような編集が出来るというオカルリちゃんは、まどか先輩にとってはとんでもない宝物を抱えている様に映っているんだろう。
まどか先輩の質問攻めは留まることを知らず、オカルリちゃんも調子が乗ってきたのか、スゴく丁寧に密度の高い答えを返し始めた。
「えーと……練習しようか?」
二人の世界に突入したまどか先輩とオカルリちゃんから目を逸らして、皆にそう声を掛けると、委員長が「そ、そうね」とぎこちなく頷いた。
一方、お姉ちゃんは「まどかはルリちゃんに任せて、こっちはこっちで進めましょう」と軽く手を叩いて皆の視線を集める。
「最初は、凛華の舞っている舞を皆で覚える……で、いいのよね?」
私に向けて首を傾げながら聞いてきたお姉ちゃんに「その予定」と答えてから、一応、確認のために委員長に「だよね?」と念押しで確認してみた。
委員長は私に軽く頷いてからお姉ちゃんを見て「ええ。まずは基礎の舞いを覚えるのを念頭に置こうと思っています」と説明してくれる。
お姉ちゃんは「じゃあ、なにからはじめればいいかしら」と言って私を見てから「凛華先生」と言って笑みを浮かべた。
「えっと、それじゃあ、最初の動きは、右足で軽く前に踏み出すところから始めます」
皆の前に立って、実際に前に足を踏み出して見せた。
加代ちゃん、茜ちゃんがすぐに動きをなぞって足を踏み込んでくれて、千夏ちゃん、史ちゃんがコクコクと頷いてくれている。
ユミリン、委員長、お姉ちゃんはジッと私の前震を見詰めたまま、瞬きすらしていなかった。
とりあえず、このまま続きを見せようと「ここから回転を交えながら手を伸ばすよ」と宣言してから、右手を胸元から肩の延長線上へ、ゆっくりと腕を真っ直ぐ伸ばす。
これに腰の回転を合わせながら「二、三、四」と拍を数えた。
皆がここまでの動きを見てくれているのを確認した上で「ここからは四拍使って、右腕をたたみながら逆回転で正面を向きます」と動きを伝える。
そのままの流れで「一、二」と拍を数えながら腕と腰を動かした。
「ここまで、私が拍手するのでやってみよう」
私がそう呼びかけると、お姉ちゃんがノリノリで「はーい、凛華先生!」と返してきた。
お姉ちゃんの悪ノリに完全にペースを乱される前に「い、いきますよー」と呼びかける。
すると、急に「いつでも良いよ、凛花ちゃん!」と声が飛んできた。
「え、まどか先輩!?」
私が驚きでその名を呼ぶと、まどか先輩は明るい表情で「ちゃんと、振り付けは見ていたから、いつでも良いよ、凛花ちゃん……じゃない、凛華先生!」と言ってウィンクを繰り出してくる。
更にその後ろからオカルリちゃんが「私も多分大丈夫だと思います、よろしくお願いします」と言って加わってきた。
説明には加わってなかった二人が出来ると言うので、追加の説明はしなくても良いかと判断した私は「それじゃあ、改めて始めます」と宣言する。
「「「はいっ」」」
皆が声を揃えて返事をしてくれたのに頷いて、私は「じゃあ、三、二、一出始めますね」と宣言した。
全体の半分までの振り付けを、細かいブロックに分けて、何度も繰り返し練習することにした。
流石と言うべきか、お姉ちゃんやまどか先輩は二回目くらいでほぼ完璧に覚えてしまっている。
委員長、千夏ちゃん、ユミリンは、動き自体は小さいものの、タイミングや動きは完璧に近かった。
茜ちゃん、加代ちゃんは、足が止まりがちになるモノの腕や上半身の動きはスムーズで、逆に史ちゃんとオカルリちゃんは足さばきが完璧で、上半身の動きが多少ぎこちない。
だいたいの傾向がわかったので、私の見ていた感想を伝えると、委員長とお姉ちゃん、まどか先輩がすぐに話し合いを始めた。
三人の話し合いの末、まどか先輩が茜ちゃん、加代ちゃんのバックアップに、お姉ちゃんが史ちゃんとオカルリちゃんのバックアップに入ることになった。
私は委員長、千夏ちゃん、ユミリンの三人がもっとのびのびと舞えるように指示出しをする。
組み分けがおおよそ決まったところで、教室の正面に私たち四人、窓側の後方にまどか先輩の組、廊下側にお姉ちゃんの組という配置に分かれた。
「じゃあ、一緒に舞いながら、気になったところは言っていくね」
私の言葉に「りょーかい」とユミリンが頷いた。
委員長は「よろしくお願いします。先生」と笑みを見る。
千夏ちゃんは両の拳を握って「頑張ります」と宣言した。




