教材ならば
「お任せくださいっ!! 全力を尽くさせていただくとお誓い申し上げますっ!!」
思ったよりも過剰なオカルリちゃんからの返答に、自分で振っておきながら、強めの公開をしていた。
「ダビング! ダビングというのがありますよね! それをお願いしたいです!!」
私が気圧されて目している間に、史ちゃんがもの凄い勢いでオカルリちゃんに歩み寄る。
対してオカルリちゃんは怯むどころか、同じような勢いで「お任せください! ダビング機材もありますからいくらも複製できますとも!」と胸を叩いて見せた。
それを見ていた茜ちゃんが、委員長に「ねぇ、みーちゃん、だび……ってぇ?」と少し困惑気味な表情で尋ねる。
委員長は苦笑を浮かべながら「だび、じゃなくて、ダビングね。要するにカセットテープの複製のことよ。それをるりさんは映像のテープでも出来るみたいね」と言いつつ、視線をオカルリちゃんに向けた。
「え!? 凛花ちゃんの舞姿を~録画した映像を貰えるってぇ、ことぉ?」
ビックリした様子で問う茜ちゃんに、委員長は「まぁ、そういうことね」と頷く。
「るりちゃん、私もぉ、私もぉ欲しいですぅ」
オカルリちゃんに向かって手を挙げながら自分も欲しいと主張し始めた茜ちゃんに委員長は「あーちゃん、ビデオデッキ内と見られないわよ?」と伝えた。
「え?」
ショックを受けたのがわかる悲しげな表情を見せた茜ちゃんに、委員長は「うちで良ければ、使って良いわよ」と優しく声を掛ける。
「い、良いのぉ?」
上目遣いで尋ねてくる茜ちゃんに、委員長は柔らかく頷いた。
「やったぁ~~」
嬉しそうに飛び跳ねる茜ちゃんを見た上で、委員長はオカルリちゃんに視線を向けて「というわけで、追加お願いしても良いかしら?」と声を掛ける。
「もちろんです!」
まったく躊躇いもなく頷くオカルリちゃん……やりとりしているのは未だ収録していないけど、私の舞姿なので、せめて声を掛けて欲しかった。
けど、まあ、聞かれても許可を出すしかないので、わざわざ口を挟んで流れをおかしくする必要も無いなと考えて口を閉ざす。
そんな事をしているうちに、加代ちゃんや千夏ちゃんも欲しがり、オカルリちゃんは承諾しながら、メモを取り始めた。
「オカルリちゃん、それ何のメモ?」
思わず聞いてしまった私に、オカルリちゃんは笑顔で「受注票です」と答えてくれた。
「受注票!? 大袈裟じゃない?」
私の返しに、オカルリちゃんは「凛華様がご存じかはわからないですけど、実は映像用の録画テープには複数の規格があるんですよ。なので、必要な本数やダビングする規格をちゃんと抑えておかないと、貴重な凛華様の舞姿の収められた録画テープが無駄になってしまいますからね」ともの凄く真面目な顔で語る。
「そ、そうなんだね」
この時代の録画機器や録画テープの値段や希少性はわからないのもあって、返事がかなり曖昧になってしまった。
「ところで、撮影する映像は体操服姿と巫女装束とどっちになるの?」
一段落したかと思ったら、千夏ちゃんが真剣な顔でそう切り出した。
対して、真っ先に委員長が「足さばきや手の動きをしっかりと把握するには体操服の方が良いんじゃないかしら、一応、巫女装束での舞いはしーちゃん……先代の舞手の映像があるからね」と返す。
真面目なテンションの委員長の言葉に「確かに、そうかも」と加代ちゃんが頷いた。
「手足の動かし方を勉強するには確かにしっかりと見えていた方がいいですね」
史ちゃんもそう言って頷いた後で「でも、やはり巫女装束を着たらどうなるかも欲しいですね」と言いつつ、視線をオカルリちゃんに向ける。
史ちゃんの話を聞いて腕を組んで「う~~~~ん」と唸りだしたオカルリちゃんに、私は「どうしたの?」と声を掛けた。
腕を解いたオカルリちゃんは、私をチラリと見てから史ちゃんに視線を向ける。
「どちらも撮影するのは問題なく出来ますけど……」
話ながらオカルリちゃんが何回もこちらに視線を向けてくるので、私は渋々だけど「私の舞いが皆の練習に役立つなら」と撮影を承諾した。
オカルリちゃんは「ありがとうございます!」と輝かしい笑みを見せる。
その後で、オカルリちゃんは千夏ちゃんに顔を向けて「なので、どちらも撮影してダビングすることが出来ますね」と告げた。
「そうなのね!」
もの凄く嬉しそうに笑む千夏ちゃんに、オカルリちゃんは「ええ」と頷きで応えた上で「それでですね、一つ考えたんですけど……」と言い加える。
その付け足された発言に、なんだかわからないけど、嫌な予感がした。
確かに嫌な予感はしたのだけど、自分でも理由がよくわかっていないので、そこから行動に繋げることが出来無い。
そうこうしているうちに、オカルリちゃんが「それで、練習の教材をするならと言うことですが、画像を編集して、体操服姿と巫女装束姿を並べて映したら、スゴく参考になるんじゃ無いかと思ったんです」と言い出した。
「そんな事が出来るのかい!?」
真っ先に食いついたのはまどか先輩の目は好奇心で煌めいている。
「一応、編集機材もありますから、出来ると思います」
オカルリちゃんがそう返すと、まどか先輩は「迷惑でなければ、その辺週から立ち会っても良いかな? 編集にも興味があるんだ」と早口で訴え出た。
対してオカルリちゃんは「では、素材……凛華様の舞姿を撮影したら、皆で我が家に来ますか?」とまどか先輩を服も興味深そうな顔をする皆に提案する。
当然の流れと言うべきか、皆が即座に同意してしまい、私の意見を言う前に比較映像の作成までが確定してしまった。




