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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第八章 準備? 不備?
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役割

「史ちゃん、私も手伝うからね!」

 純粋に助けになりたいと思っていっただけなのだけど、史ちゃんは今にも泣きそうな顔で「凛花様」と熱っぽく私の名前を呼んだ。

 喜んでくれているのが伝わってくる反応に、つい口元が緩んでしまう。

 そこに、オカルリちゃんが「機材については私もそれなりにお手伝いもアドバイスも出来ると思うので、言ってください!」と名乗り出た。

「じゃ、じゃあ、私はお裁縫……衣装とか、手伝えると思うよ!」

 オカルリちゃんに触発されたと思しき加代ちゃんが、胸に手を当てて主張する。

「力仕事は任せな、フミキチ」

 ユミリンもそう言って自らの胸を叩いた。

 すると、委員長が「じゃあ、私はスケジュール管理とか、サポートできるかしらね」と言う。

 なるほど得意分野そうだと思ったのだけど、茜ちゃんが「ねえ、みーちゃん。本番の裏方仕事にスケジュール管理っているの?」と、鋭い問いを投げつけた。

「え、そりゃあ……」

 委員長はそこまで言って黙してしまう。

 多分だけど、断言できなかったのだ。

 大道具、小道具、衣装、音楽や照明などの準備や演出など、立案して本番までに落とし込んでいく裏方作業はいくらでもあるし、当然ながらスケジュール進行は必須なのは間違いない。

 そして、委員長が恐らくそういった管理に長けているのも確実なはずだ。

 けど『本番の』と枕詞が付くと、話が変わってくる。

 準備段階の進行と、本番の進行では多分意味合いが違うし、そこを管理する必要性は素人考えだとなさそうに思えた。

 私がそんな風に考えていたところで、千夏ちゃんが「必要よ」と言い切る。

 話の流れもあって、皆の視線が千夏ちゃんに集まった。

 皆の視線を受け止めた上で千夏ちゃんは「タイムキーパーといって、秒単位の進行管理する役目があるのよ。舞台だと、何秒後に音楽を流すとか、何秒後に照明を当てるとか、緻密に計算して実行するからね。とっても重要な役割なのよ」と語った。

 その話を聞いて、私は「あー、聞いたことあるかも」と咄嗟に口にする。

 自然と視線がこちらに向いたので「私の知ってるところは、舞台じゃなくて、テレビ、それも、生放送の番組の話だけど、秒刻みで動きが決まっていて、それを管理するのも、タイムキーパーさんって名前だったと思うよ」と自分の知識を伝えた。

 知識の出所は、元の世界のドキュメンタリー番組で、番組制作のスタッフに密着したモノだったので、この時代と少し違うかもしれないという少し不安な部分がある。

 けど、私の知識の出所へのツッコミはなく、代わりに茜ちゃんが「それなら、ミーちゃんに向いてるかもね」と頷いたことで、話は決着した。


 と……思ったのだけど、加代ちゃんが「本番ってなると、私はあんまり役に立たないかも」と不安そうな表情を見せた。

「まあ、加代ちゃんはベス役もあるから」

 私の言葉に、加代ちゃんは「そう、だねぇ」と頷いてくれたモノの、納得したという風ではない。

 どうしようかと、次の手を考えはじめ駆けたところで、千夏ちゃんが「いや、スゴく重要な役割があるわよ」と言った。

 驚きにほんの少し希望の混じった表情を浮かべた加代ちゃんが千夏ちゃんを見る。

 千夏ちゃんは視線が自分に向いたのを切っ掛けに「例えば、本番で衣装に不具合……破れちゃったり、縫い目がほつれたりして、不測の事態が起った時、加代ちゃんの裁縫の知識があれば、どこを補修すれば良いか、より的確にわかると思うのよ」とかなりの早口で言う。

 勢いが良かったのもあって、少し気圧されたような様子で加代ちゃんは「補修」と千夏ちゃんの言葉を繰り返した。

「ええ、そう」

 頷いた千夏ちゃんは、更に「流石に本番中に縫ったりは出来無いだろうけど、衣装が分解しないように、テープとか安全ピントかで止めて、一時的にやり過ごすなって事があるのよ」と言う。

 少し驚いた表情で話を聞く加代ちゃんに、千夏ちゃんはウィンクをしながら「服の構造や、着た時にどう見えるかを熟知しているなら、ぱっと見わからないように、テープや安全ピンでの補修が出来るでしょ?」と笑みを向けた。

 千夏ちゃんの言葉を聞いた加代ちゃんは少し興奮気味に目を輝かせて「そうだねそれなら、私でも出来るところがありそうかも」と返す。

 加代ちゃんの反応に嬉しそうに頷いて、千夏ちゃんは「むしろ、加代ちゃんだから出来るサポートは多いと思うわよ」と告げた。


「こうなってくると、私が一番役立てそうにないかも」

 つい思ったままを口にしてしまった私だけど、それを聞いた皆がこちらを見た直後、タイミングを合わせていないはずなのに、ほぼ同時に溜め息を吐き出した。

 会話もなく、動きをリンクさせた皆に対して、戸惑いで「え? なに??」と尋ねる。

 すると、史ちゃんが「凛花様は、精神安定剤ですから、居てくれるだけで十分に決まってるじゃないですか」ともの凄く真面目な顔で言い切った。

 冗談でしょと笑って終わらせることも出来そうにない真剣な空気に、私は「えーーと……」と言葉に困窮する。

 そんな私に、委員長が「凛花ちゃんは皆の中心、精神的支柱なんだから、元気でそこに居てくれるだけで、十分ってことよ」と言い、皆がそれに合わせてほぼ同時に深く頷いた。

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