配役決定
「それじゃあ、残りの役を決めるためのオーディションを始めます」
春日先輩の宣言で、四姉妹以外の配役を決めるオーシションが始まった。
若草物語は、四姉妹が物語の中心なのもあって、その他の登場人物というとそれほど多くない。
四姉妹の両親、お隣の家族やそのメイド、学校の友人などだ。
台本は可能な限り原作に習っていて、残る配役には男性役が多い。
ここで、私には男性役は無理という先輩方の判断が大きく影響することになった。
「えーと、凛花ちゃんは、クラスメートAとB、それにメイドのハンナね」
春日先輩から振られたのはその三役だった。
学校の友人役は男子生徒はいないので、AもBも女子生徒という設定で、演じやすいように担当が決まってから役名を決めるらしい。
ハンナはマーチ家のメイドで、四姉妹やその母であるマーチ婦人を支える役どころだ。
物語ではハンナの描写は少ないので、逆手にとって、配薬された人に合わせて年齢を調整してきたらしい。
なので、演じた年によっては、ばあやとして老婆だったり、マーチ婦人の親友としてお母さん世代だったり、メグより少し年上のお姉さんだったりといった具合だ。
ちなみに女性の訳として四姉妹のお母さん、マーチ婦人、四姉妹の大叔母という役どころもあるのだけど、こちらは四姉妹と見た目の年齢差に無理があると言われてハズされてしまっている。
まあ、見た目と違和rてしまっては仕方が無いので、与えられた役に集中しようと、意識を切り替えた。
私は与えられた三つの役の中で、一番考察が出来そうなハンナの考察とイメージ付けに意識を集中することにした。
ハンナを選んだのは、クラスメイトの二役を軽んじているわけじゃない。
単純に、クラスメイトは情報が少ないのだ。
登場シーンが少ない上に、セリフからは正確も四姉妹との関係も読み取りにくい。
要は、キャラクターを考察するための情報が乏しいのだ。
これは、配役された人が演じやすいように、逆に色を付けてないんじゃないかと思う。
実はハンナ自体も年齢層がずらせるなど、近しい調整はされているのだけど、登場シーンはそれなりにあるので、クラスメイトよりはイメージがしやすかったのだ。
そんなわけで、オーディション開始までは、ハンナのイメージを膨らませる。
四姉妹とはどんな関係だろうか、マーチ婦人をどんな風に支えるだろうか、考えを進めるほどに輪郭がしっかりとしていくハンナ像に、準備を進められているという実感を得ることが出来た。
オーディションは春日先輩が指定した時間通り開始されることになった。
四姉妹は仮でA組、B組に別れている。
A組が二年生の先輩方に、千夏ちゃんを加えた経験者構成、B組は一年生構成だ。
オーディションはA組、B組それぞれと指定されたシーンを演じる。
例えば、ハンナ役を二組とやってみて、A組のハンナは合格で、B組のハンナは不合格みたいに相性も見て決めるそうだ。
もちろん、両方不合格、両方合格もあるらしい。
そんな春日先輩の説明が終わり、いよいよオーディションの本番を迎えた。
オーディションの結果、お姉ちゃんから「じゃあ、凛花は、A、Bどちらの組でもハンナ役ね」と指名を受けた。
直前までハンナの考察をしていたのもあって、報われたような気がする。
少し誇らしい気持ちで「頑張ります」と返すと、皆から拍手を貰うことが出来た。
照れくさいけど、それ以上に嬉しい。
拍手をして貰いながら、私はもっと役を掴んで本番までにもっと上手くなろうと心に誓った。
「どっちの組の公演でも、凛花ちゃんはハンナ役だねー」
笑顔で言う千夏ちゃんに頷きつつ「多分、お姉ちゃん達が、一つの役に集中出来るようにしてくれたんだと思う」と私なりに思い至った理由を伝えてみた。
千夏ちゃんも同意見だったようで「うん、そうだねー」と頷いてくれる。
「四姉妹役を貰ってる皆は、メインの役どころに加えてもう一役だから、本当に大変だと思うよ」
私がそう言うと、茜ちゃんが「つまり、私が一番楽という事だね!」と笑みを見せた。
「え? 茜ちゃんは三役でしょ? 十分大変だと思うよ?」
茜ちゃんは私の切り返しに「でも、脇役も脇役だから」と言う。
そこに、史ちゃんが「では、私ですね。一番重荷を抱えていないのは」と手を挙げた。
「いや……確かに、史ちゃんは二役だけど、照明とか音響の手伝いもするんでしょう?」
私の言葉に、史ちゃんは頷きつつ「凛花様や皆を支えられるのは、願ったり叶ったりです」と言って微笑む。
実は、今年の一年生は、私たち以外に兼部の人が何人か居るけど、基本は演劇部の方がおまけなので、裏方を先輩から引き継ぐ人が居なかった。
オカルリちゃんも立候補してくれていたのだけど、エイミー役があるので、本番では史ちゃんが裏方の一年生の主力になる。
しっかり者で真面目な史ちゃんなら、春日先輩みたいに頼れるお姉さんになるんだろうなと私は思っていた。
なので、皆を支えることを望んでいるという頼もしい言葉を言ってくれた史ちゃんを私なりに支えようと誓う。
その思いは私だけでなく他の皆も思ってくれたようで、頷き合うことでお互いの気持ちを確認し合うことが出来た。




