同好会
「ただいま、戻りました!」
教室に入るなり、オカルリちゃんはそう言って声を掛けた。
「お帰りなさい! 待ちかねていたわ!」
真っ先に顔を出した千夏ちゃんは、私たちの同行者に大野先生と中瀬古先生がいることに気が付いて吃驚した顔をする。
千夏ちゃんがそのままの流れで明らかな警戒の色を見せる前に、私は少し大きめな声で、二人の先生を紹介してしまうことにした。
「えっと、こちらは神楽舞いの練習の監督というか、顧問をしてくれる大野先生と副顧問の中瀬古先生」
私の紹介を聞いて、近寄ってきていた加代ちゃんが「顧問?」と首を傾げる。
ここで委員長が「校則で学校の行事以外で、何かの集まりをする場合、部活じゃないとダメってことになっているのよ」と説明を始めた。
「ただ、部活には部費が付く関係で、簡単に設立が出来ないの」
委員長の説明に、茜ちゃんが「う~~~ん?」と唸りながら首を傾げる。
その後で「部活じゃないとダメなのにぃ、部活は簡単に作れないってことぉ?」と真由と眉の間に深めの皺を作って反対に首を傾げた。
「その通り」
大きく頷いた委員長は「ただ、それだと今回の神楽舞いの練習のような試みは出来ない事になりかねないので、特例として、同好会という組織の結成は許可されているのよ」と言う。
その説明をオカルリちゃんが引き継いで「同好会は部活と違って部費や活動費などの金銭的援助は、提供されませんが、活動場所は提供して貰えるんですよ」と続けた。
「まあ、顧問と結成人数が五名という条件はあるんだけどね」
元の世界では同好会なんてシステムが無かったのもあって、いろいろと初耳の私の驚きが、気付くと声になって飛び出してしまう。
「え!?」
そんな私の驚きに、委員長はスッと目を逸らしてから、数秒動きを止めた。
僅かな沈黙の後、委員長は「凛花ちゃんには事後報告になってしまったけど、神楽舞いの練習の為に、穂波神社御神楽保存同好会を結成しました」と断言した。
思わず、視線を大野先生に向けると、いつものにこやかな顔のまま「私はその同好会の顧問、中瀬古先生は副顧問と言うことになりますね」と言い切る。
正直、道すがら大野先生からは、練習の監督をする顧問のようなモノだと思って欲しいとは言われていたけど、まさか文字通りの役職が存在していたとは思ってもいなかった。
ただ、こうなってくると同好会結成は、本当ということになる。
そうなると、五名のメンバーは誰なのかと委員長を見れば、無言の頷きが待ち構えていた。
「えー……と……」
言葉に詰まった私に、委員長は「部活と部活の掛け持ちが許されているということは、同好会との掛け持ちも許されているわ」と笑顔で言い切る。
「つまり?」
瞬きを繰り返しながら、そう尋ねた私に、委員長は「ここに居るメンバーに、良枝先輩、まどか先輩、外部顧問として神主の神子さん、指導員にしーちゃんが所属しているわ」と説明してくれた。
「正直、いつの間にって思ったけど……」
途中で止まった私の呟きの先が気になったのか、ユミリンが「思ったけど?」と先を促してきた。
「必要なことだったのはよくわかる……勝手に学校の施設を使うのは問題だもんね」
そもそも神楽舞いは地域交流とか、伝統文化に携わることで学習になるとすることは出来ると思うが、学校の行事の一環というわけではない。
そんな集まりが施設を借り受けるなら、学校側が許容できる組織を立ち上げるのはとても理に適っているし、むしろ設立しない方がダメってことになるのは間違いなかった。
だから、設立自体に否はないのだけど、やっぱり、私が設立の説明をされていなかったという点が非常に引っかかる。
私のそんな思いに対する委員長からの説明は『演劇部のオーディションに集中して欲しかった』と言うモノだった。
どうやら、私は複数のことを同時にこなせるような器用な人間じゃ無いと思われているらしい。
加えて、どうやら委員長ではなく、大野先生が主体となって動いていたようで、委員長をはじめとした皆は、同好会の主旨を聞いて参加しただけだったようだ。
その際に、私を含めなくても設立に必要な人数に達していたので、皆の創痍として、オーディションに集中して貰おうと配慮してくれたらしい。
結果として、オーディションに落選したことで、神楽舞いに、私が全力投球できるようになったので、正式に同好会が活動を開始したというのが、今、ということだった。
「ちなみに、同好会の会長は、私が務めるから、何かあったら、私に言って頂戴」
自信に満ちた委員長の言葉に、私は頷いて「委員長、頼もしいよ」と伝えた。
その上で、私は顧問に就いてくれた先生方や皆にもお礼を言う。
「大野先生、中瀬古先生も、顧問に就いてくれてありがとうございます。皆も参加してくれてありがとう」
そんな私の言葉に対して、皆から返ってきたのは、神楽舞いは凛花だけのことじゃなく、同好会全体で挑むことだから、一人で抱え込まないようにと言う言葉だった。




