練習のために
窓を開けた後、入口のドア、廊下に設置されている窓も開けて空気の流れを作ると、風が抜けて、一気に空気が入れ替わった。
カーテンも一端全部開けたので、教室の床が差し込んだ太陽の光に照らし出される。
ただ、今まで締めきりだったせいか少し埃っぽい気がした。
とりあえず、掃除かなと思って周りを見ると、既に加代ちゃんは手に箒を持っている。
ウチの教室と同じく、入ってきたのとは反対の、奥にある入口横に設置された縦型の大きなロッカーが掃除用具入れのようだ。
加代ちゃんはそこから箒を取り出したらしい。
「少し埃っぽいから、掃除しちゃおう!」
笑顔で言う加代ちゃんに「そうだね」と頷いた時には、既にユミリンはモップを手にしていて、オカルリちゃんは姿を消していた。
茜ちゃんはチリトリを、史ちゃんは箒を手にしている。
「拭き掃除します~」
そう言って戻ってきたオカルリちゃんの手には水の入ったバケツとぞうきんが握られていた。
「凛花ちゃんも、拭き掃除で良い?」
いつの間にかオカルリちゃんの横に居た千夏ちゃんが笑顔で、二枚持っているぞうきんの一枚を私に差し出す。
どうやら、出遅れたのは私と本調子じゃない委員長だけだったようだ。
「ありがとう」
千夏ちゃんからぞうきんを受け取って、オカルリちゃんが汲んできたバケツの水で湿らせた後、軽く窓のサンや備え付けの空っぽの棚などを拭いていった。
教室自体はがらんどう状態なので、拭き掃除も掃き掃除も手早く終えてしまう。
掃除の間に復活した委員長はテキパキと動いて、ゴミをゴミ箱に集めると、さっさと焼却炉まで捨てに行ってしまった。
お供を申し出たのだけど、委員長は茜ちゃんだけで良いと言って、残る皆は掃除道具を片付けて欲しいと言われ、そのように動く。
そうして一段落経ったところで、コンコンと窓が叩かれる音が聞こえてきた。
「おーーい!」
窓を叩いたのは、ウチのクラスの体育委員を務める大野さんだった。
「大野さん?」
窓に近づいて外を見ると、そこには半袖の体操服にブルマという体育の時と変わらないスタイルの大野さんがこちらを見上げている。
この教室は一回にあるモノの、建物と地面とは廊下分高さに違いがあるので、私の方が見下ろす形になっていた。
「林田さん、どうしてこの教室にいるの?」
首を傾げる大野さんに、私は「実は、神社で神楽を舞うことになって、その練習で使わせて貰うことになったの」と応える。
「え、そうなの!? って、かぐら?」
大きなジェスチャーで驚いた後、ハッと表情を浮かべてから、大野さんは首を傾げた。
確かに、神楽は聞き慣れないかなと思い、私は簡単に説明をする。
大野さんは私の話に何度も頷いて、何度も「なるほどー」を繰り返した。
「えっと、ところで、大野さんはなんでここに?」
私の問い掛けに大野さんは「あ、部活だよ……ここ、女子のコート」と言って後ろを指さした。
そこには、露出した土と白いラインが引かれている。
元元私が北時代には無かったけど、、そのラインが引かれたコート中央にはネットが張られていた。
「えっと、大野さんはテニス部?」
私の問いに、大野さんは大きく頷いてから「正確にはソフトテニス部だね」と言ってから、ラケットと白いボールを見せてくれる。
「いま、ランニングと筋トレの途中で、他の子が終わるのを待ってたんだけど、見知った顔が見えたから声を掛けたんだよね」
「なるほど」
私がそう言って頷いたところで、ユミリンが「大野、あれ、お前を呼んでない?」と横から大野さんの後ろを指さしながら言った。
振り返った大野さんは「あ、ホントだ」と口にしてから「ユミ、さんきゅー」と言って手を振る。
「皆もまたー、あ、林田さん、また今度、かぐらのこと教えてよ、しばらくお隣さんでしょ?」
ニッと歯を見せて笑った大野さんは、それだけ言うと、呼んでいたと思われる体操服姿の生徒の方へ駆けていった。
委員長と茜ちゃんが戻ってきたので、改めて、これからについて話すことにした。
「広さ的には、神楽舞台より少し広い位だから、練習には丁度良いと思うわ」
「うん」
私が頷くと、オカルリちゃんが「練習場所として、広さは確保できたので、次は凛花様が借りた映像を確認するための機材と、音楽を流す機材が必要ですね」と言う。
「映像は見られなくても良いけど、音楽は欲しいかな」
「そう? 映像もあった方が良いんじゃなぁい?」
私の返しに、茜ちゃんは創痍負って首を傾げた。
「確かに、あれば良いとは思うけど、機材もそんなに簡単に用意できるモノじゃないだろうから……」
そのまま映像は諦めると続けるより先に、オカルリちゃんに「じゃあ、私が手配します」と言って微笑む。
更に「録画機材も手配するので、凛花様の舞いを撮影して、皆で検証しましょう」と言い加えた。
「いや、そんな、私の為に……」
断わろうとしたのに、オカルリちゃんは「あ、大丈夫です。演劇の助けに演劇部に貸し出す分とは別に手配しますし、ウチとしては使って貰った方が検証になって助かるので」と言う。
一石二鳥なのでと締められると、私は断わることも出来ず「じゃあ、お願いします」と受け入れるしかなかった。




