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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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不安

 この時代の小森医院は、自分の知るものより薄暗くて、なかなかに雰囲気がある建物だった。

 緋馬織の学校もかなり古い建物を改築して使い続けているので、かなり趣というか雰囲気があったのだけど、ここは病院だからか、雰囲気はかなり上回っているような気がする。

 診察の受付はお母さんが大まかな説明をしてくれたので、私は看護師さんから何か聞かれることはなかった。

「待合室でお待ちください」

「はい」

 受付の看護師さんに返事をして、お母さんは背もたれの無いソファの並んだ待合に向かう。

 私は「お願いします」と軽く会釈だけして、お母さんに続いた。


 待合には他に何組か患者さんが座っていた。

 パッと見た感じではお年寄りばかりで、私たちは浮いてしまっている。

 お母さんの横に座ったところで、その中の何人かのおばあさんがこちらに来て話しかけてきた。

「お嬢ちゃん、中学校の生徒さんかい?」

 私は答えても良いだろうかと、反応に迷ってチラリとお母さんに目をやる。

 軽く笑みを浮かべて、止める気配が無かったので、私は頷きながら「はい、そうです」と頷いた。

「あたしの孫も、中学生なんだよ。ふぇっふぇっふぇ」

 もの凄く嬉しそうに言うお婆さんの様子から、私は「お孫さんが大好きなんですね」と思ったままを口に出す。

 するとにこやかだったお婆さんの顔がより一層輝きだした。

「そうなんよぉ、ウチの太一は、ジイサンにていい男なんだよぉ」

 懐かしむような視線が混じる褒め言葉に、なんとなくだけど、お爺さんがもういないんじゃないかと感じてしまう。

 あくまで私が勝手に感じ取った印象な上に、尋ねるのには失礼な内容なので、流石に声には出さなかった。

 ただ、お婆さんに合わせて頷き合う。

 すると、突然、何の脈略も無く、お婆さんが「お嬢ちゃん可愛いし、ウチの孫の嫁に来るかい」と言い出した。

 以前の私なら、そんな事を言われたら答えに球威していただろうけど、今の私は違う。

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私には心に決めた人がいるので」

 はっきりとそう言い切ると、お婆さんは目を丸くしてから「ふぇっふぇっふぇ」と笑い出した。

 どういうリアクションか、判断しかねているとお婆さんは「そうかえ、そうかえ大事な人がいるんか」と頷き出す。

 私は大きく頷いて、東雲先輩を思い浮かべながら「います」と言い切った。

 お婆さんは「そうか、いいねぇ」目を細めて笑みを深める。

 そこで一段落と思ったのだけど、新たに別のお婆さんが会話に参加してきた。

「お嬢ちゃん、中学生で、もう好きな人がいるんだね」

「え、ええ、まあ」

「最近の子はおませだね」

「お、おませ」

 次々とお婆さん四人に囲まれた私は最初の余裕を失いつつある。

 どうしようかと思って、助けを求めてお母さんに視線を向けた。

 すると、お母さんは私を見て「凛花ちゃん」とちゃん付けで私の名前を呼ぶ。

 嫌な気配を感じながら「な、何? お母さん」と返事をした。

「凛花ちゃんが心に決めた人に、お母さん凄く興味あるんだけど……多分お父さんも興味があると思うんだけど」

 顔はニコニコしているのに、纏う気配に微笑ましさは存在していない。

 とはいえ、東雲先輩のことを言えば良いだけなので、怯む必要は無い……と、思ったんだけど、ここが元の世界じゃ無いことを思い出した。

 つまり、ここには東雲先輩はいない。

 それはただの事実なのだけど、何故かもの凄く心がざわついた。

 キュウッと心臓が締め付けられるような苦しさがじわじわと体中に広がっていく。

 続いて、\手が勝手に震えだした。

 これは不安の表れなんだと、私の中の冷静な部分が判断を下すものの、解消する手立てを思い付くことが出来ない。

 どうしたらいいのか輪か輪r図うずくまりそうになったところで、お母さんの声が耳に飛び込んできた。

「凛花!」

 返事をすることも出来なかったけど、どうにか顔だけはお母さんに向けることに成功する。

 直後、視界が黒一色に染まった。

 それは、私がお母さんに抱き寄せられたからで、意識を失ったわけでは無い。

 視界はお母さんの胸に埋もれているせいで黒一色だけど、頬からは温もりが、鼻には柔らかな香りが伝わってきていた。

 それだけで、落ち着きを取り戻せた私はお母さんの背中をポンポンと叩く。

 お母さんはゆっくりと身体を離して、心配そうな表情を浮かべて、私の顔をのぞき込んできた。

「大丈夫……お母さん、落ち着いた……ありがとう」

 そう伝えると、お母さんはホッとした表情を見せてくれる。

 お母さんの反応に私もホッとしたところで、話しかけてくれていたお婆さん達が、それぞれ謝ってくれた。

 私の反応が過剰だったせいで、何か深い事情があると思ったらしい。

 大丈夫ですからと伝えて、心配あっけて申し訳ないと謝ったのだけど、余計に励まされてしまった。

 そこからは恋愛話は皆が控えてくれて、代わりにお婆さん達からの話題は今の学校ではどんなことを習うのかとか、学校が楽しいかという当たり障りの無い問い掛けに変わる。

 ただ、異邦人の私としては、それはそれで神経をすり減らす質問の数々だった。

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