表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
4/414

違和

「ちょっと、リンリンどういうこと!?」

 授業が終わるなり振り返った前の席に座る根元さんが、開口一番そう言い放った。

「え、えーと……」

 何か不満があるというのはわかるのだけど、その何かが思い当たらない。

 加えて、自称お目付役の誰かさんと同じ呼び名に驚いてもいた。

「リンリンとは、ユミリン、リンリンって呼び合うって約束したじゃない!」

 花がぶつかりそうなくらい顔を近づけてきた根元さん改めユミリンに、私は真面目な顔を取り繕って「授業中だったから……ごめんね」と言う。

 私の答えにユミリンは目をパチクリさせてから「そういう事なら仕方ないか……新倉先生なら起こらなそうだけど」と言いながら引き下がってくれた。

 ユミリンの話の流れからして、どうも先ほど数学の授業をしていたのは新倉先生というらしい。

 このまま世間話風に、情報収集を続ければ、かなり現状を把握出来るはずだ。

 そう考えて、私はもう少しユミ林から情報を引き出せないかと考える。

 東雲先輩が姫檻を出て行ってから中学に上がるまでの間に、積んできた経験が活かせるのではないかと思うと、ちょっとワクワクしてきた。

 私は結構特殊な経歴で女子小学生をしていたので、原因不明の超常現象が起きている小学校などへの潜入調査の可能性があるということで、月子お母さんの指導の下、いろいろ勉強はしていたのだけど、幸か不幸か、実行する機会が無かったのである。

 想定外の状況とはいえ、自分の積み上げてきたものを実践する機会に恵まれたことには違いなく、情報収集は必須なので自重の必要も無いわけで、自分のもてる全てをぶつけられるという状況に、高揚感を抱いてしまっていた。


「あの、ユミリン?」

「なぁに、リンリン?」

 私の呼び方が改まったのがよっぽど嬉しかったのか、弾むような声でユミリンは返事をしてくれた。

 明るい反応は嬉しいので、私は自然と笑顔になる。

 そんな私の反応をどう感じたのか、少し驚いた様子で「どうしたの?」とユミリンは目を瞬かせた。

「えっと、今日って何日だっけ?」

 ど忘れしちゃったのという気持ちを込めて、そう尋ねると、ユミリンは「ぼけちゃった?」と少し深刻そうな顔で聞いてきたので、私は笑顔を残したままで「寝ぼけちゃったかも」と切り返す。

 すると、ユミリンは「あー、そうだった」と言ってから、顔を近づけてお腹をさすりながら「大丈夫?」と声を潜めて聞いてきた。

 私は「大丈夫」と頷いてから、ユミリンの耳に口を寄せて「寝不足だって」と囁く。

 ユミリンは私の答えに「なんだ」と口にしてから明るい声で笑った。

 その後で「今日は4月26日だよ。ほら黒板」と黒板の端に書かれた日付を指さす。

 日付には漢数字で「四月二十六日(水)」と書かれていた。

 私が目覚める前も同じ4月26日だったけど、金曜日だったので、完全に曜日が違う。

 少し冗談ぽく「何年の?」と聞いてみた。

 ユミリンは私の問い掛けに笑いながら「昭和64年だよ」と返してくる。

 私は一瞬、その返しに戸惑ってしまった。

 というのも、私の知識というか、記憶では昭和は64年まであるのだけど、天皇陛下が崩御されたことで7日間で平成に切り替わっている。

 つまり、ユミリンの答えが『平成元年』という返しなら、単純に過去に来てしまったと捉える事が出来たのだけど『昭和64年』となると、二つの仮説が立ってしまうのだ。

 一番問題が少なそうなのは、ユミリンがぼけたのか、ふざけたのか、平成になっているのに昭和の年数を言ったパターンなのだけど、もしも、そうでは無く、本当に『昭和64年』が続いてる、つまり、7日間で終わらなかった世界だとしたら、私の居た世界と繋がらない世界に迷い込んだことになってしまう。

 その事実に背筋が寒くなってきた私は、ともかく新聞で確認しようと方針を定めることで、自分の視点を無理矢理遠くに放り投げた。


「ところで、次って国語だよね?」

 少し強引に年数の話から、次の授業の話に切り替えたけど、ユミリンは「ミヤちゃん先生だね」と笑顔になった。

「今日はどんな服かなぁ」

 そんなことを言いながら、ユミチンは自分の机から国語の教科書とノートを取り出し始める。

 どうやら黒板横の掲示板に貼られた時間割通りに、今日の授業は進むようでホッとした。

 ちなみに、ユミリンの話からして、ミヤちゃん先生は女子中学生が憧れるようなファッションセンスの先生で、多分だけど、この『1-F』の担任の先生ではない。

 ちゃん付けだから、中学生(私たち)に年齢が近い若い先生なんじゃないかと予測を立てたけど、思い込みになるといけないので、それ以上は踏み込んで考えないことにした。

 ユミリンに習って、国語の教科書とノートを机から取り出したところで、スピーカーから予鈴が流れ出す。

「よし、ご飯まであと一時間! ミヤちゃんの授業で良かったよぉ~」

 両手をギュッと握ってそんなことを言うユミリンに「頑張ろうね」と声を掛けるとタイミング良く、噂のミヤちゃん先生が教室前方のドアを開けて、教室の中へ入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ