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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第七章 偶然? 必然?
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探り合って

『結局、現状維持……か』

 そう考えたところで、自然とため息が漏れ出てしまった。

『主様が世界に干渉する方向で動き出せば、間違いなく変化は起こるじゃろうが、それを良しとしないのであれば、のう……』

 リーちゃんが歯切れの悪い言い方になるのは、原因の根幹が私にあるからだろう。

 私がアクションを起こすことに消極的なのだから、流れは『種』の意図したものになり、で、あるならば、明確な変化は起こらないはずだ。

 リーちゃんもそう考えているからこそ、私が動かなければと言うのだと思う。

『……もう少し思惑がわかれば……』

 私は建前でもある一つの、そうしない理由を口に出した。

 ある程度私の思考を読めるリーちゃんには、バレてしまっているだろう。

 けど、真の理由を口に出すのには抵抗があった。


『わらわからは何も言わぬよ』

 それが、私のしまい込んだ本心を知った上でのリーちゃんの判断だった。

 可能性や判断材料を示してくれるリーちゃんだけど、意思決定は私に任せてくれる。

 だからこそ、この選択は私の身勝手(エゴ)なのだと強く自覚できた。

『ありがとう、リーちゃん』

 私がそう伝えると、リーちゃんは少し間を開けてから『わらわは主様の意思を尊重する……が、わらわが護りたいのは、他の何でもなく、ただ主様だけじゃ……ゆえに、最悪の場合は主様の意思に反することになっても、主様を守るつもりじゃ』と言う。

 真剣さの込められた言葉は、聞くだけでそれが揺るぎのない信念のもと放たれたのだと理解することができた。

 そして、同時に何を置いても私が一番だと言いきる裏に、自分自身ですら一番には及ばないと言っているのも伝わってくる。

 リーちゃんは、私の思考がそこに至ったタイミングで『優しい主様は、童を犠牲にしたくないであろう?』と言った。

 それは自分を守るタイの奈良、自分の実も守る動き方をしろと言う脅し文句に他ならない。

 私は大きく溜息を吐き出してから、大事な相棒にたっぷりと皮肉を込めて『初めて知ったよ、主を脅す眷属がいるなんて』と言ってみた。

『おや、知らぬのか、主様』

『ん?』

『相棒と称される優秀な眷属は、主様の御身だけでなく、御心も守るもの……そのための進化は常に欠かさないのじゃ』

 リーちゃんはそこでおかしそうにクククと笑ってから『そうして進化したわらわが、緻密な計算の上に導き出した対主様用の最良の手段を用いたにすぎぬ』と言い添える。

『主様を守るためなら手段は択ばぬ。何しろわらわは人ではなくキツネ(けもの)故な』

 悪びれることなく堂々と言い放たれたリーちゃんの言葉に、私は呆れの混じった溜息を洩らした。

 けど、自分の身を人質にしても、私を引き留めようとしてくれる気持ちが嬉しい。

 何よりも私を底の底まで理解してくれているのだということが、何よりも心強かった。


『お陰で、悩んでも無駄だって思えたよ』

『重畳じゃな。考えたところで、状況を変えられないのであれば、考えない方が、思考にリソースを回せるからの』

 ものすごく合理的な意見に、私はまたも苦笑するしかなかった。

 けど、リーちゃんはそんな私に『まあ、主様は、思考停止したり、パニックに陥る癖がある故、確保したリソースが緊急事態に、十全に役立てられるかどうかという問題があるがの』とチクリと刺してくる。

『おのれ、言いたい放題』

 もっともな指摘に腹は立つ……が、私自身もそう思っていることだけに、何が言えるわけでもなかった。

 だから、リーちゃんがなぜそんなチクリと刺さるような言葉を続けたのかに考えが至らない。

 結局、気付いたのは、リーちゃんが続けて放った『その時は、わらわに意志決定を委ねるとよいのじゃ』という言葉を聞いた後だった。

 それを聞いて、私は、あぁ、と思う。

 頭が真っ白になってしまった時、リーちゃんに身を委ねるというのは、緊急手段として自分を利用しろという誘いだ。

 でも、私はその先のことにも気づいてしまったのである。

 すなわち、その決断が、とてもひどい……誰かを、あるいは世界を壊すような決断だった時などには、わらわ(リーちゃん)のせいにしろと、自分に押し付けろと言う事なのだ。

 私の心が壊れないように、深い傷が記憶に残らないように、もしもの時の免罪符(切り札)として、自分を使えと言うことなのである。

 どこまでも優しく献身的な眷属に、私ははっきりと告げることにした。

『私の選択は私のものだから、結果もすべて私のもの、リーちゃんには譲らない』


 私の返しに、リーちゃんからの反応がないまま、少しの時間が過ぎ去ってから『いらぬところで思考が回るというのはどういうことなのじゃ』と盛大な溜息と共に不満の声緒が漏れ出てきた。

『私が背負うべきものを横取りなんてさせないよ』

 リーちゃんの言葉に揺るがず、はっきりとそう言い切る。

『難儀な主様の眷属で幸せじゃよ』

『私も、難儀な眷属を持てて光栄だよ』

 お互いそう言い合った後で、タイミングよく重なった溜息に、リーちゃんも私も同時に吹き出して、そのまま心の中で笑い合った。

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