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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第七章 偶然? 必然?
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恐るべき可能性

 リーちゃんは『そんなに複雑な話でもないのじゃ』と口にしてから、丁寧に説明してくれた。

『わらわだったからというのもあるかも知れぬが、主様は素直すぎるというか、疑うことがなさ過ぎると思うのじゃ』

『そんなことは……』

 無いと言おうとした私の言葉を遮るように、リーちゃんは『この世界に着てからその傾向が強くなっておる』と言い切る。

 更に『自覚があるのではないかのう?』と尋ねてきた。

 そう言われてしまえば、確かにと思えてくる。

 リーちゃんはその私の考えの変化に対して『そういうところじゃ。話を聞くのも相手の考えを受け止めるのも良い子とじゃが、それは流されているということでもあると思うのじゃ』と指摘してきた。

 その指摘にすぐ反応することが出来なかった私に、リーちゃんは更に『主様、元の世界とこちらの世界では、明らかに人の発言に対する警戒度が下がって折るのじゃ……何故かと考えた時、主様の中に『種』を刺激しないために、波を立てないという意識があるからなのだろうと推測は立つのじゃが……』と含みを感じる言い回しで言葉を続ける。

 誘導されているなと思いつつも、聞かずにいられなかった私は『何か、思うところがあるのね?』と続きを求めた。

 リーちゃんは何かを逡巡するかのように、少し間を開けてから『あくまで、可能性の話じゃが……主様の意識にこの世界の『種』の思惑が、干渉しておるからではないかとも、思うのじゃ』と言う。

 リーちゃんの考えに、私は即座に判断を下すことが出来無かった。

 まず、無いと言えないのが大きい。

 加えて、この世界の流れが私を中心に動いている……他ならないこの世界の『種』がそう言っていた。

 それが真実かどうかは断定は出来無いけど、状況やこれまでを考えれば、真実である可能性が高いと思う。

 だからこそ、リーちゃんの言う『種』の干渉という言葉が引っかかった。


 世界の中心という言葉から、私にプラスになるように世界が変化していくのだというイメージを抱いた。

 実際に、物語の主人公のように、私は持ち上げられていたし、皆が好意を示してくれている。

 そこから生まれるのは、私の思惑や願望に世界が応えてくれているという万能感に近い感覚だ。

 けど、そこに落とし穴があるのでは無いかと思う。

 私の願望に世界が応えるから、都合良く事が運ぶのだと、私はそう理解したし、実際にそうなっている場面ばかりだった。

 けど、『世界の中心(その言葉)』が巧みな罠、目眩ましだとしたらどうだろう。

 私が望んでいるというのが錯覚で、本当は誰か……恐らく『種』の思惑に流されていて、自分が欲していると誤認させられている可能性だ。

 リーちゃんが口にした『種』の干渉が『私が世界の中心だという納得出来る理由』の下に隠れていたとしたら、今の状況自体、良いモノか悪いモノか判断することも出来ない。

 ただ、そうであったなら、確実に言えるのは『種』の掌の上で、その意図に乗せられて踊っているということになるはずだ。


 恐ろしい考えに至ったせいか、酷く喉が渇いてきた。

 心臓がもの凄く鼓動を早くして、布団にくるまっているのに、もの凄く寒い。

 そのまま身体が震えだしたところで『主様』という私を呼ぶリーちゃんの声が頭に響いた。

 私を心配しているのだとすぐにわかるリーちゃんの呼びかけのお陰で、身体の震えはピタリと止まる。

 寒気も薄れたし、喉の渇きも弱まった。

『リーちゃん、一人じゃ無いって言うのは、心強いね』

 浅い呼吸を繰り返し、どうにか気持ちを立て直しながら、心強く思った声の主に感謝の気持ちを沿えて、そう伝える。

『ついてきた甲斐があるというものじゃ』

 リーちゃんの返しに、自然と口角が上がった。

 寒気で丸まっていた身体を伸ばし、横向きだった身体を仰向けに変えた私は、グロウランプのほのかな灯りを遮るように右腕を目の上に乗せる。

 そうして今度は長く息を吐いて、ゆっくりと空気を吸い込んだ。


『この世界の『種』はこの世界でなにをしたいのか、正直、まったく見当が付かない』

『うむ。これまで遭遇したり、あるいは過去に確認された個体とは違うことは間違いないのじゃがな』

 私はリーちゃんの返しを黙って吟味してから、この先の指針を決めるためにも、リーちゃんに意見を求めることにした。

『……今の、状況に身を任せるという方針は、危険だと思う?』

 少しの沈黙を挟んで、リーちゃんは『どちらとも判断が付かない……が、現時点での結論じゃな』と言う。

 正直、私も同意見だ。

 現状わかっているのは『種』が何らかの意図を持ってこの世界を作り出し、維持しているという事実だけしかない。

 状況に流される、受け入れる姿勢をとり続けるのは危険かもしれないが、だからといって撮れる手立てが他にないのだ。

『……いっその事、世界を壊してみる……とか?』

 私の言葉に、リーちゃんは『主様が、かの?』と返してくる。

 そのままお互い何も思わず教務の時間が過ぎていった。

 結局、根負けしたのは私で『しない……というか、できそうにない』と返す。

 リーちゃんは『まあ、主様ならば、そうじゃろうなぁ』と言って、大笑いを始めた。

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