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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第七章 偶然? 必然?
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舞手の練習

「それじゃあ、やってみるよ」

 私はそう宣言して気合を入れた。

 気持ちが乗ってきたのを感じた私は「お姉ちゃん、お願い」と視線を向ける。

「ええ、行くわよ」

 お姉ちゃんは大きく頷いて、ガチャリと音を立ててラジカセの再生ボタンを押した。

 ガチャガチャと音を立てて、機会のモーターが動き出す音がする。

 ラジカセはカセットテープという磁気式のテープから読み取った情報を、機械に通して音に変換し、スピーカーから放つ仕組みの機械だ。

 元の世界で一般的なデジタル方式ではなく、アナログ方式で、このため、音が掠れたり音質が下がったりと、多少のロストがあり、徐々に廃れてしまった技術に基づいている。

 音の出だしが、再生ボタンから少し遅いのもその表れだ。


 ジジッと少しノイズが走った後で、独特の曲が流れ出した。

 神楽で使われる曲で、和楽器で奏でられている。

 音質が良くないというのもあるけど、リズムが少し取り難いのだけど、私にはズルい切り札があった。

『主様、間もなくじゃ』

 私のズルイ切り札、それはリーちゃんにリズムを取って貰うという手段である。

『三、二……』

 リーちゃんのカウントに合わせて、私は右足を踏み出した。


 独特のしなやかな手の動きは、まだ、細部まで再現は出来無かったけど、大まかな動きはそれなりにこなせていた。

 一方、足さばきは、未だ映像で見ただけな上に、先代の舞手である志津さんの巫女装束はくるぶしまで丈があるので、予測を立てているだけの部分が多い。

 なので、まずは足さばきそのものにはこだわらず、腰を落としたり、つま先立ちをしたりといった大きめの動きを念頭に置いて舞うことにした。

 もちろん、練習の場が居間で、スペースに制約もあるので、映像通りに舞えるわけもなく、あくまでさわりを頭に入れるのが目的である。

 加えて、頭に叩き込んだ映像を元に、リーちゃんが組み上げてくれた3Dのモデルをお手本に、動きとしてフィードバックするズルもしているので、それなりに形にはなるはずだ。


 少し息が上がってしまったけど、それなりに身体は動かせたはずだ。

 そんな小さな達成感を胸に「どう……だった?」とお姉ちゃん達に出来栄えを尋ねてみる。

 どんな答えが返ってくるのか、おっかなびっくりで身構えていたのだけど、皆黙り込んだままで感想を口にはしてくれなかった。

「あ、あれ?」

 あまりのリアクションの無さに、私は不安と焦りを覚える。

 すると、ユミリンが私の変化お前に「あ、あれだ、なんというか……」と、何かを言おうと動いてくれた。

 自然と視線を向けるとユミリンは「窮屈そう……かな?」と言う。

 無理矢理ひねり出したのだおわかるユミリンの表現に、私は「そ、そうだね」と返した。

 まあ、本来は神社の神楽殿で踊るような舞いなので、一般住宅の居間で再現できるような規模のモノではない。

 なので、ユミリンが窮屈と評するのも頷きるところだ。

 私自身はそう思っていたのだけど、ここで千夏ちゃんが「この、バカ由美!」と、なんと、思いっきり、フルスイングでユミリンの腕を引っ叩く。

 パシィンという大きめの音も合わさって、ビックリした私は、思わず「うぇっ」と声を漏らしてしまった。

「窮屈って何言ってるのよ、動きは完璧だったじゃない! まずはそこを伝えるべきでしょうが!」

 身長差もあって、下から睨み挙げるような格好になった千夏ちゃんは、全身から怒りのオーラを放ちながら、ユミリンを怒鳴りつける。

 ユミリンはそんな千夏ちゃんに対して、心底申し訳なさそうに「な、なんか言わなきゃと思って、そ、そうだな、千夏の言うとおりだ」とビックリするほど素直に頷いた。

 その後で私の方へ視線を向けて、手を合わせ「リンリンもゴメン、千夏に言われたからじゃなくて、迷いもなく動くし、タイミングもしっかりとれてたし、気になったのが、踊ってる場所が狭そうってところだったんだ」といって頭を下げてくる。

「あ、いや、その、気にしないで?」

 ユミリンの謝罪んび、なんだか落ち着かなくなってしまって、無理矢理返した言葉に、私自身、納得していなかったのか、無意識に疑問符が付いてしまった。

 

「正直、スゴいんじゃないかしら?」

 お姉ちゃんは腕組みをして、そう評してくれた。

「ですよね!」

 千夏ちゃんは我がことのように嬉しそうにお姉ちゃんの言葉に頷く。

「まあ、舞台で舞う時とは違うだろうし、細かな動きはまだまだ磨く必要はあると思うけど、序盤の動きは頭に入ってると言って良いと思うわ」

 真剣な顔で頷くお姉ちゃんを見ていると、リーちゃんの協力がカンニングのように思えて、罪悪感が湧いてきた。

『わらわも、主様の能力のうちじゃ。自分の力なのだから、後ろめたいと思う必要は無いのでは無いかの?』

 リーちゃんはそう言ってフォローしてくれるのだけど、不正をしているという気持ちを拭い去ることは出来無い。

『主様も、強情よのぉ』

 呆れたように言うリーちゃんに、私はその通りと頷くしかなかった。

 でも、私の性格なのだから仕方の無いことである。

 そう考えた私に、リーちゃんは『大事なのは本番でしっかりとした舞いを奉納することなのじゃ、本番でわらわの手を借りなければ良いのではないかの?』と、ハッと思う程、痛快な考え方を示してくれた。

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