お返し
ユミリンの着地点に対して、それを否定する意見は出てこなかった。
大人なのに、大人ぶっているのにそれが出来ていないという評価に意を唱える人が居ないということに強い屈辱を感じる。
ただ、ここで強く否定してはドツボにハマることは理解しているので、納得は出来ないものの、敢えて意を唱えないことにした。
結果、誰もしゃべらない時間が訪れる。
ややあってから、ユミリンが「大丈夫だ、リンリンは立派なお姉さんになれるから!」と言い出した。
ユミリンにジト目を向けたところで、史ちゃんが「私は出来ていると思いますよ、凛花様。真由ちゃんと話されていた凛花様はとてもお姉さんでした」と言ってくれる。
「そうだね。真由ちゃん、お姫様のお姉ちゃんにあえて嬉しかったみたいで、毎日凛花ちゃんのことを話してるって!」
史ちゃんの言葉に、加代ちゃんが頷きながら真由ちゃんの近況を教えてくれた。
このタイミングで報告されてしまうと、ユミリンへの不満をぶつけ続けるわけにもいかない。
そもそも話題に出た真由ちゃんの話を聞きたいと思ってしまった。
私は目を閉じて、ユミリンへの追求を心の中で諦める。
その後で目を開いてから、加代ちゃんに「真由ちゃんは、元気なの?」と尋ねた。
加代ちゃんによると、真由ちゃんは私との出会いをスゴく喜んでくれていて、神楽舞いも見に来たいと言ってくれているそうだ。
多分、演劇部の舞台の方も見たいと言ってくれてそうだなと思ったけど、まだ私が役を貰えていないので、そこは史ちゃんも加代ちゃんも敢えてスルーしたんだろう。
もの凄く気を遣わせてしまっているのが申し訳ない……けど、少しだけ嬉しくもあった。
私が真由ちゃんの話を聞いているうちに、校門へと辿り着き、待っていてくれたお姉ちゃんやまどか先輩と合流する。
話の流れで真由ちゃんの話をしながら私たちは帰路についた。
「四姉妹の役が貰えなかったのは残念ではあるけど、私は器用でもないし、逆に良かったかもしれないと思う」
そう私が口にすると、皆の目がこちらに向いた。
「私は器用じゃないから、主役級の演技もやって、神楽舞いも覚えてなんて、皆が想像したとおり、パンクしちゃうと思う」
まあ、実際のところ、神楽と舞台だけなら、どうにかこなせたとは思うけど、私には『種』対策もある。
私がそれなりにマルチタスクをこなせるとはいっても、世界そのものが相手の役割がある以上、避けるリソースの投入先は限定するべきだ。
そんな私の結論に、リーちゃんが『う、うむ。その通りじゃ』と同意してくれる。
相棒が同意見なら、間違いないだろうと、私の中で方針に対する自信が強まった。
そうなれば、やることは一つである。
「委員長。委員長は役を貰ったから、劇に集中しないとだけど……その、サポートお願い出来るかな?」
申し訳なく思いながらも、私は委員長にそう話を振った。
「大丈夫よ、私自信が直接で津田得なくなる時もあるだろうけど、あーちゃんも居るし、しーちゃんをこき使うから」
委員長の見せた晴れやかな笑顔に、何故か、背中がひゅっと寒くなる。
原因と志津さんの運命は考えないことにして「ごめんね、負担を掛けて」と告げた。
その後で「でも、凄く心強いよ」と続ける。
すると、委員長は「頼って貰えて嬉しいわ」と言って深めた笑みからは、先ほどと違い寒気を感じることはなかった。
「ちょっとぉ~~名前だけ出してぇ、放置は良くないと思う~」
ぷくっと頬を膨らませて茜ちゃんが割って入ってきた。
委員長はクスッと笑ってから「あら、じゃあ、あーちゃんは凛花ちゃんに協力してあげないの?」と澄まし顔で問い掛ける。
「え? 全力でぇ補助するけどぉ?」
瞬きをしながら言う茜ちゃんに、委員長は破顔して「そうよね、さすがあーちゃん」と頷いた。
なんだか微笑ましい二人の空間ができあがった気がするけど、このまま流されるのはいけないと思って、敢えて割って入るように「茜ちゃん、協力ありがとう!」と告げる。
「あんまりぃ、神様に協力するのもぉ、問題かもだけどねぇ~」
苦笑しながら言う茜ちゃんに、私は「なら、お寺の行事も手伝わせて!」と申し出た。
「え?」
「神社の神楽みたいに、お寺にも行事があるでしょう?」
「あ、あるけどぉ……」
「それ、役に立てるなら絶対手伝いたい!」
私の言葉に、茜ちゃんは目を丸くして「お、お寺だよぉ?」と言う。
「手伝えるなら、行事じゃなくても良いよ? 庭の掃除とかも大変だよね?」
続けた言葉が悪かったのか、茜ちゃんは瞬きを繰り返すだけになってしまった。
少し考えて一つ思い当たった私は「あ、お寺のお勤めは、お寺の関係者じゃないとダメかな?」と聞いてみる。
けど、茜ちゃんは思考停止でもしてしまったのか、固まったまま動かなくなってしまった。
それを見て委員長は何かを囁きながら茜ちゃんの肩を叩く。
ハッとした表情を浮かべた茜ちゃんは泣きそうな顔で「い、いいのぉ?」と聞いてきた。
断りの言葉を考えていたわけじゃ無さそうだとホッとした私は笑顔で頷く。
それから「もちろんだよ、茜ちゃん」と胸を張って言葉を添えた。




