合流と衝撃
「凛花様!」
昇降口で待っていてくれた史ちゃんが、私の姿を見るなり大きく手を振って呼びかけてきた。
「史ちゃん、皆、待っててくれてありがとう」
軽く手を振り返しながら、昇降口で待っててくれていた皆に向かって頭を下げる。
皆から、気にしないでとか、一緒に乖離対だけだからと言って貰えたところで、ここまで付き添ってくれていたお姉ちゃんが「それじゃあ、私も靴を履き替えてくるから、校門でね」と言って去って行った。
お姉ちゃんを見送って、靴を履き替えながら、私の体調に問題は無かったことを伝える。
ただ、体調に問題ないと伝えたせいか、委員長、オカルリちゃん、千夏ちゃんや加代ちゃんが心配そうな顔を浮かべた。
私はその顔ぶれを見た瞬間、表情の変化の理由に思い当たる。
「皆、役を貰えなかったからって、気が遠くなったりしないよ」
笑いながら最初にそう宣言してから、私は「そもそも、四姉妹じゃなきゃ嫌とも思ってないし、今の実力とか技術とか足りてないものも多いし、そもそも新人戦には向いていないんだから、当たり前の決断だと思ってるんだよ」と続けた。
本心を言葉にしたつもりだけど、皆の表情が余り晴れていないのは、私が無理をしているように見えているんだろう。
そう考えた私は「考えてもみて、もう既に神楽舞いで主役を務めるんだよ? 短期間で主役をいくつも熟したら、私はおかしくなる自信があるよ」と言い加えた。
すると、何が響いたのかはわからないけど、まず委員長が「確かに、凛花ちゃんの場合、責任のある仕事を引き受けすぎるとパンクしちゃいそうではあるわね」と深く頷く。
「んー、言い難いけど、凛花ちゃんは全部引き受けちゃいそうだもんねー」
千夏ちゃんは困り顔で笑いながら私を見て溜め息を吐き出した。
「さすがというか、先輩方はそう言う凛花様の性格を見越して配役決めに反映していたんでしょうね。さすが、凛花様のお姉様ですね」
オカルリちゃんは腕組みをしながら、うんうんと頷く。
「まあ、別に役に選ばれなかったからって、その役をしちゃいけないって事は無いからなー」
ユミリンの言葉に、加代ちゃんはハッとした表情を浮かべてから、私に振り向いて「あ、あの、リンちゃん! も、もし良かったらだけど、その相手役をして貰っても良いかな?」と尋ねて来た。
「え、あ、うん」
急に話を振られたのもあって、少し戸惑い気味の返事になったせいで、加代ちゃんは「や、やっぱり、迷惑かな?」と表情を思いっきり曇らせてしまう。
私は慌てて「そんなこと無いよ、急に話を振られて反応がおかしくなっただけ!」と返した。
するとすぐに史ちゃんが「凛花様は人を羨ましがったり、嫉妬したりはしないと思いますよ。急なことに反応するのが苦手なだけで」と加代ちゃんに言ってくれる。
まさしくその通りなんだけど、なんだか腑に落ちない史ちゃんの発言に、微妙な気分になっていると茜ちゃんが「史ちゃん~。凛花ちゃんにはぁ、史ちゃんの指摘のにぃ、心当たりが無いみたいよぉ?」と言い出す。
すると、史ちゃんは私にグイッと顔を近づけて「凛花様、こうして一緒に過ごさせて貰うようになってから、まだ、ほんの少ししか経ってませんけど、凛花様が誰かに嫉妬を抱いている姿を見たことがないですよ。まあ、できる人を羨ましく思っていることはあったかも知れませんけど」と言い切った。
史ちゃんの言葉に対して、私が何か言う前に、千夏ちゃんがはいっと手を挙げて「私も凛花ちゃんが、同情よりも共感してくれるのを知ってるよ。それって、相手の立場にすぐに立てるって事だよね?」と、目をのぞき込みながら聞いてくる。
「それは、何というか、年の功というか……」
思わず返した言葉に、ユミリンが「リンリンは同い年だろ」と大きな溜め息を吐き出した。
どれを切っ掛けに笑いが起る。
ちょっと、納得のいかないところはあるけど、空気がかなり柔らかくなったので、私は抗議しておくのは控えることにした。
「でも、スゴくしっくりくるのよね、凛花ちゃんの言葉」
委員長が呟くように言い、皆の視線を集めた。
注目されることになれているのであろう委員長は動揺することもなく自分の考えを口にし始める。
「年の功……って言うのは、ちょっとおかしいけど……ただ、大人びてるって思うのよね。余裕があるというか……」
話しながら私に視線を向ける委員長は、更に「知り合いに大学生もいるけど、その人よりも大人びてるなって思うは、その少なくとも精神性は」と続けた。
これに、千夏ちゃんがうんうんと頷きながら「そうだね。凛花ちゃんは、すぐお姉さんぶるよね」と言う。
「抱擁感があるというのですよ、大人の余裕という方がしっくりきます」
更に史ちゃんがそう続けた。
皆の反応はまちまちだったけど、否定の言葉が出てこなかったのは、それなりにしっくりきているんだろうなとは思う。
実際、私の精神は皆の倍は生きているし、社会人も経験しているので、当然だ。
そう思っていると、ユミリンが「でも」と不穏な接続詞を口にする。
「お姉さんにはなりきれてないんだよなぁ」
「ちょっ!」
ユミリンの言葉に抗議の言葉を発するより早く、皆の爆笑の波が押し寄せてきて、場は抗議できない空気に満たされてしまった。




