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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第七章 偶然? 必然?
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受け取り方、受け取られ方

 お姉ちゃんに促された水上先生は「凛花さんの不調は、病気の類いではなくて、意識の逃避の可能性があるの……だから、過剰に心配しなくても良いんじゃ無いかと思うのよ」と自分の考えを示した。

 まったくもって、私も同意見なのだけど、お姉ちゃんの発する空気があまりにも緊迫していて、茶々を入れることになりそうな言葉は口に出来ない。

 そのまま沈黙が訪れる中、水上先生はお姉ちゃんの反応を覗う様に視線を動かしていた。

 ややあって、水上先生は目を閉じ、右手の人差し指を立て「もちろん、心配が全くないというわけじゃないし、今回のように不安を感じたら保健室に連れてきて欲しいのだけど……一番伝えたいのは、あんまり深刻に考え過ぎては駄目と言うことなの」と言う。

 水上先生は柔らかな表情を浮かべて、目を開きながら「良枝さんは凛花さんをとても大切に思っているのがわかるから言うのよ」と続けた。

 お姉ちゃんが反応を示すよりも先に、水上先生は更に「心配をされ続けるのは、案外、申し訳なく思うものなの……だって、凛花さんの場合、自分ではどうしようもないことでしょう? 改善しようにも改善できないことで心配されるのは、ね?」と柔らかな口調で声を掛ける。

 対して、お姉ちゃんは「ふ、負担になってたの?」と声を震わせた。

 その声を聞いた瞬間、私の中で何かが爆発する。

 いつ立ち上がったのか、いつ振り返ったのか、いつお姉ちゃんの目を真っ直ぐに見たのか、それら全ての課程を把握する前に、私はお姉ちゃんの目を見詰めて立ち上がっていた。


「負担なんかじゃないよ。負担なワケが無いよ!! ただ、その、先生の言うとおり、ボーッと考えていただけで、病気とかじゃなくて、心配を掛けていたなら、スゴく申し訳ないって思ったんだよ。だって、私がお姉ちゃんと反対の立場だったら、スゴく不安になるだろうって思うし……その、原因が、私の妄想というか、考えに没頭する癖なんだったら、申し訳なさ過ぎて……」

 勢いよく考えを解き放つうちに、自己嫌悪というか、自分の駄目さ加減を再確認することになって、ドンドン尻つぼみになってしまった。

 それと合わせるように、私の視線も徐々に下に向かう。

 気が付けば上履きを履いた自分の足下が視界映り込んでいた。

 そんな私に、お姉ちゃんの「ばかね」という言葉が届く。

 お姉ちゃんがどんな顔でそれを口にしたのか、確認したい気持ちと、確認したくない二つの気持ちに挟まれながらも、私は知りたいという好奇心と知っておかなければと言う使命感で、顔を上げた。

 目が合ったお姉ちゃんは、いつも通りの……いや、いつもよりも優しい眼差して私を見詰めている。

 思わず言葉を失ってしまった私に、お姉ちゃんは「凛花が考え事に没頭して、反応できなくなっているだけなら、それって、身体に異常ないって……命に別状はないってことでしょう? とてもいいことじゃない」と言って笑みを深めた。

「お姉ちゃん、全然良くないよ? その度に、お姉ちゃん達は不安に感じるんだよ?」

 論点がすり替わってしまいそうだったので、そういうことじゃないと訴える。

 けど、お姉ちゃんは「可愛い妹が居る姉はいつでも心配で不安を感じているものよ。特に凛花は身体も弱いしね」と返してきた。

 そもそもその身体が弱いというのは、元々のこの世界に居た(りんか)の話で、私とは違う。

 この身を得た経緯は特殊だったけれど、脳や臓器、骨格、筋肉量、ホルモンバランス、血液成分とあらゆる数値が、12歳女子の範囲内に収まっていた。

 もちろん、この世界に来る前の話なので、今もそうとは限らないけど、病弱の可能性の方が低いと思う。

 ただ、それを説明することはできず、何も言葉を返す事は出来なかった。


「凛花、私は妹を心配できるのも特権だと思うわ……だって、妹が居なければ出来ない事だもの」

 それはお姉ちゃんが私を気遣って言ってくれているのだとわかる言葉だった。

 恥ずかしいと嬉しいと申し訳なさと、その他多くの感情が入り交じってしまった私は「お姉ちゃん、ありがとう」としか言えず、言葉に詰まってしまう。

 本当はもっと沢山気持ちを伝えたいという気持ちがあるのに、上手く言葉を紡ぎ出せなかったのだ。

 でも、お姉ちゃんは優しく微笑んで、そんな私を受け止めてくれる。

 その心地よさに浸りたいと思ったところで、水上先生が「ん、んっ」と大きめの咳払いをした。

「二人が仲良しなのは良いことだけどね、ここは学校の保健室だから……」

 話の途中で水上先生は何故か言葉を止めてしまう。

 どこか遠い目をして、私たちから視線を逸らしつつ「き、緊急の訪問者が出るかもしれないから、続きは他でして貰って良いかしら?」と言った。

 それを聞いたお姉ちゃんは、なんとなく、まどか先輩を思い出させる密着をしながら「それじゃあ、続きは家でしようか?」と囁く。

 私はそんなお姉ちゃんに「ちゃんと言葉にするから、しっかり話し合おうね!」としっかりと顔を見て頷いた。

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