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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第一章 過去? 異世界?
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小森医院

「凛花、あっちをみたり、こっちをみたり、まるで初めて見る街を探検してるみたいよ」

 お母さんの言葉に、私の心臓はドキッと大きく跳ねた。

 どうやら、無意識にキョロキョロしてしまっていたらしい。

 背中にじわりと冷たい汗が浮くのを感じながら、懸命に頭を回転させた私は、いつの間にか「か、カラスが……」と口走っていた。

「カラス?」

 不思議そうな顔で首を傾げるお母さんを前に、私は無理矢理言葉をひねり出す。

「その、と、都会だと、カラスが人に襲いかかるって言うから、お、お母さんを護ろうと思って!」

 かなり無理のある無いような気もしなくも無いけど、お母さんは「まあ」と驚いた表情を見せてからニコニコと笑顔を浮かべてくれた。

 その後で私の頭に手を乗せて「凛華が優しいお姉さんになってくれて、お母さん嬉しいわ」となで始める。

「ありがとうね、凛花」

「う、うん」

 返事をしながら、元々は自分の知ってる風景と目にする風景の違いに興味を惹かれていただけだという事実がチクチクと胸に刺さる。

 自分の頭の中にある見慣れた風景と、目の前の光景の違いを確かめるのが案外面白かった。

 記憶よりも新しかったり、まるで見覚えの無い建物があったり、知ってる道が記憶よりも細かったり、道そのものが無かったりと違いの種類も多岐にわたっている。

 単純に全てが新しいものに変わっているわけでは無いのも面白くて、私の家もそうだけど、形は記憶通りなのに、外壁の色や素材が違うのなんて、間違い探し感が強まって、ついワクワクしてしまうのだ。

 ともかく、今は、お母さんに変に思われないためにも、気持ちを切り替えて、病院に向かうことを優先することに決める。

「お母さん、が、学校、行くの遅くなっちゃうといけないから、もう行こう?」

 私の提案に、お母さんは「そうね」とにこやかな笑顔を浮かべたまま頷いた。

「でも、凛花ってそんなに学校が好きだったかしら?」

 笑顔のまま、そう言ってお母さんは首を傾げる。

 今までの私がどうだったかわからない、今の私にとって答えに困る質問だった。

 けど、多少なり月子お母さんの指導を受けてきた私はここで、経験の全てを爆発させる。

「や、約束したから! ユミリンやお姉ちゃんと学校で会うって!」

 私の切り返しに、お母さんは「そうね。お友達やお姉ちゃんとの約束を守るのは大事ね」と同意してくれた。

「早く学校に行かないと、心配させてしまうかもしれないからね」

 更に付け足した言葉にもお母さんは頷いてくれる。

「じゃあ、ちょっと急ぎましょうか」

 そう言ってお母さんは改めて歩き出した。


 目的の病院、小森医院は、京一として来たことのある場所だった。

 ただ、外見は私が知っているものと少し違っている。

 京一時代は植え込みに少し背の高い木が植わっていた小森医院の敷地の境界には、私の身長より50センチは高そうな分厚い石のブロック塀がそびえ立っていた。

 なかなか圧迫感がある石のブロック塀には、白いプラスチックの板がはめ込まれていて『小森医院』の名称や内科、外科、小児科という診療科目、電話番号、曜日毎の午前と午後の診察受付が○×で示され、その横に診察時間が書かれている。

 そんな看板の中には蛍光灯が入っているようで、夜には光るみたいだ。

 石のブロック塀の圧迫感にまず驚いたけど、その横を擦り抜けてみて、私は小森医院の外見に大きな違和感を覚える。

 京一時代には、石のブロック塀が取り除かれ、一部が来院者用の駐車場になっているので、そこにも違和感があるのだけど、それ以上の庄垣が建物にあった。

 何しろ、入口の場所が違う。

 京一時代の記憶では緩やかなスロープがあった場所には、左右を樹木に覆われた小さな小道があって、その先にあった入口は、どうやらこの時代には無さそうだ。

 代わりに、小道に分岐する手前に、二段ぐらいの小さな玄関ポーチがあって、両開きのガラスの入った木の扉がある。

 ガラスは飾りガラスになっていて奥を見通すことは出来ず、左右それぞれのガラスの中央に大きめの文字で『小森医院』と刻まれていた。

 お母さんがその取っ手に手を掛けてゆっくりと扉をスライドさせると、独特の消毒液の香りが漂ってくる。

 どこかひんやりした空気を感じながらお母さんの後に続いて入口扉を潜ると、少しオレンジがかった電球で照らされた待合室が目に入った。

 お母さんは壁際まで移動すると、そこに設置されていた靴箱から、緑色のスリッパを二組取り出す。

 自分と私の前にスリッパを置くと、お母さんは靴を脱いで履き替えた。

 病院で靴からスリッパに履き替えることに、軽く驚きを感じたものの、お母さんに「ありがとう」とお礼を言ってから、私も靴を脱ぐ。

 金文字で『小森医院』と書かれたスリッパは私にはちょっと大きかったけど、靴箱には子供用とわかるサイズのオレンジ色のスリッパもあったので、お母さんは気を遣ってくれたみたいだ。

 スリッパがすっぽ抜けないように気をつけながらお母さんに続いて靴箱に履いてきたローファーを収める。

 靴箱に収めながら、元の世界よりも遙かに重いこの時代のローファーに、機械類だけで無く靴までも進化してるんだなぁとしみじみ思わさせられた。

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