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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第七章 偶然? 必然?
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顧問

「それでは、今から新人戦に向けての配役オーディションを行います。嬉しいことに、今年は一年生がかなり多く入ってくれたので、一つの役に対して二人ずつ配役出来る事になりそうなので、二名ずつ合格者を決めます」

 一旦そこで話を切って、春日先輩は皆の反応を確認するように、視線を巡らせた。

 特に問題が無いと判断したのであろう春日先輩は「今回の審査員は、私たち三年生が行います」と続ける。

「あ、それと、もうすぐ来てくれると思いますが、顧問の中畑先生もオーディションに参加されますがー、審査には加わりません」

 ここで千夏ちゃんが、スッと手を挙げた。

 春日先輩は「斎藤さん、何かしら?」と千夏ちゃんに尋ねる。

 千夏ちゃんは「あの、その、顧問の先生は審査に加わらないのは、何故かなと思いまして……」と少し聞きにくそうに手を挙げたわけを言葉にした。

 対して、春日先輩は「あー、んーー。一年生も、薄々感じているとは思うのだけど……」と言って頭を掻く。

 春日先輩が全身から滲み出した言いたく無さそうな気配を感じ取ったのであろうまどか先輩が椅子に座ったままで「中畑先生は学年主任なんかもしてる忙しい先生だからね。なかなか部活中に顔を出さないだろ?」と口にした。

 自然と皆の視線が自分に向いたのを確認した上で、まどか先輩は「オーディションに参加してしまって、その途中で緊急の要件が発生してしまったら、中断させてしまうかもしれない……そんなわけで、自分が参加して流れを乱したくない……と、言うワケさ」と続ける。

 けど、それで納得出来る人だけではなかった。

 特に責任感が強くて真っ直ぐな面のある委員長は「それって……」と口を開く、

 まどか先輩は素早く掌を委員長に向けて言葉を遮った。

「まあ、どう解釈するかは自由だけど、口に出すのは……ね?」

 ウィンクして見せたまどか先輩に、委員長は溜め息を吐き出して「わかりました」と引き下がる。

 そのやりとりだけで、中畑先生があまり部活動には熱心でないのかもしれないのは理解できてしまった。

 お姉ちゃんやまどか先輩、春日先輩といった三年生がもの凄くしっかりしているのも、よく言えば任された結果なんだろうなと思う。

 二年生からは千夏ちゃんの疑問から始まった一連の問答も特に気にしているように見えなかったので、少なくとも、居なくて当たり前のようになっているのだろうと見当が付いてしまった。


「先生が余り顔を出さないと聞くと、一年生の中には不安を感じてしまう子もいるかもしれないけど、それだけ、我が部が先生の信頼を勝ち得ているということでもあるわ」

 お姉ちゃんはそう言って柔らかく微笑んだ。

 任せて貰っていると、ほったらかしにされている。

 取り方次第ではあるけど、冷静に考えれば、しっかりしていると思う委員長ですら、つい二ヶ月前までは小学生なのだ。

 不安がないと言えばウソになるだろう。

 ……と、思ったのだけど、委員長は「先輩達が造り上げてきた実績と信頼を護り次に繋いでいく……もの凄くやりがいがありますね!」とキラッキラの笑顔を見せた。

 委員長はどうやら責任にプレッシャーを感じるタイプではなく、逆に燃え上がるタイプらしい。

 そんなポジティブな姿は、一番不安を感じそうな加代ちゃんに小さく気合入れのガッツポーズをさせるくらいの効力があった。

「先生に迷惑を掛けなければ、自由に出来る裁量権が貰えるわけですね」

 オカルリちゃんの言葉に、ユミリンが「今、一番やらかしそうなのは、リンリンだな」と私を見る。

「へ?」

 直前までオカルリちゃんを見ていたので、まさかユミリンの話の矛先がこちらに向くとは思っていなかった。

 とはいえ、やらかしの回数は確かにダントツなので、無念ではあるものの否定できない。

 何も言えなくなった私に、訳知り顔で何度か頷いてから、ユミリンは「大丈夫だ、リンリン。何か起こったとしても大事になら無いように、私たち皆で協力して対処するから安心してくれ」と言って胸を叩いて見せた。

 私に気遣ってくれているのがわかる上に、やらかした事実もある以上、必要ないとも言えない。

 結果、ユミリンに対する私の返しは「え、あ……うん」という煮え切らないモノになってしまった。


 私が妙な返答をした結果、皆から優しげな表情を向けられて肩を叩かれるという謎の儀式が行われることになった。

 ユミリンと一緒で気遣ってくれているのはわかる。

 けど、誰も私がやらかす可能背について否定はしてくれなかった。

 私自身が、多少不安を感じている部分なので、仕方が無い事ではある。

 そう思ってはいるものの、それでもせめて誰か一人でも、やらかさないと思うと言って欲しかった。

 私のこの身勝手な願いは最悪の形で現実になる。

『主様はやらかしたりしないと思うよ……なのじゃ』

 頭の中に響いたリーちゃんの声に、私は余計なことを望んでしまった自分の浅はかさを痛感するとともに、とてつもない恥ずかしさとむなしさを味わうことになった。

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