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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第七章 偶然? 必然?
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知るべきか

 授業が終わるとすぐに振り返ったユミリンが声を掛けてくれたのだけど「リンリ……」と口にしたところで、駆け寄って来た真っ青な顔の史ちゃんに「大丈夫ですか、凛花様?」と遮られてしまった。

「せ、先生にも言ったけど、大丈夫、だよ」

「本当ですか?」

 上目遣いになって尋ねてくる史ちゃんに、私は「ちょっと考え事をしてて授業に集中出来ていなかっただけ……先生は私が一晩入院したりとかしてるから、気を遣ってくれたんだと思うよ」となるべく明るい口調で伝える。

 それが功を奏したのか、史ちゃんは僅かに疑いの色を残しつつも「信じ……ますよ?」と引き下がってくれた。

 そんな史ちゃんに代わって、ユミリンが「で? 何を考えてたんだよ」と聞いてくる。

 隠すことでもないので、応えようと思ったのだけど、旗と私に向かう視線が、史ちゃんとユミリンだけじゃないことに気が付いた。

 近づいてきている、加代ちゃんやオカルリちゃん、茜ちゃんは良いのだけど、隣の席の渡辺君には聞かせるわけにはいかない。

 なので、どうしようかなと思いながら、私は真横の席の渡辺君を見詰めてしまった。


「お、オレ、べ、便所、いってこないと!」

 ガタタッと大きな音を立てて椅子を倒しながら立ち上がった渡辺君は、慌てて椅子を起こすなり一番近くのドアから廊下に飛びだして行ってしまった。

 そんなに慌てるほど、緊急事態だったのかと思いながら、前の席の矢野君、更に前の森君と、私の視線が向くと、渡辺君に似た動きで席を離れていく。

 男子三人の反応に、ようやく原因に思い至った私は「もしかして、私が見たから、三人とも慌てて席を離れちゃった?」と自分を指さした。

 私の発言の後微妙な空気の沈黙を挟んでから、ユミリンが「リンリンも成長したんだな」としみじみ言う。

 ユミリンの肯定に、私は「知らない間に、視線で威圧を与えてたなんて、三人に悪いことしたな……」と溜め息を漏らした。

 申し訳ない気持ちで一杯の私に、何故かユミリンまでも溜め息を吐き出す。

 どうしたんだろうと思いながら顔を見ると、ユミリンは「前言撤回だわ」と首を振って見せた。

「え? 前言撤回?」

 より混乱した私に、ユミリンは「リンリンはまだまだ成長をしていないってこと」と言い出す。

「そ、そんなこと無いでしょ!」

 流石に心外だという気持ちを込めて訴えると、ポンと私の肩に手が置かれる。

 手の主であるオカルリちゃんは、私が振り向いてその顔を見たタイミングで「私は逆に無自覚(いま)のままの方が良い気がしますので、安心してください!」と言って笑みを浮かべた。

 オカルリちゃんの笑顔に、まあ良いかと思いかけた私は、ハッと気が付く。

「待って、オカルリちゃん! その言い回しだと、私が成長してないってユミリンの意見に同調してない?」

 私の指摘に対して、オカルリちゃんは「はい、してます」とあっさりと頷いた。

 誤魔化すことも言い訳をすることもなく、あっさり頷かれてしまった私は、逆に二の句を継げなくなってしまう。

「良いですか、凛花様。自覚した方が良い能力と、しない方が良い能力があるのです」

 断言するオカルリちゃんに「いや、そんなことある?」と聞き返すと「はい」と強めの肯定が返ってきた。

 またも次の言葉を繰り出せなくなってしまった私に、オカルリちゃんは「良いですか、これは実際にあった話だそうですが……」と真面目な顔で話を切り出してくる。

 咄嗟に「うん」と頷いた私に、軽く笑みを返したオカルリちゃんはそのまま話を続けた。


「その昔、夢で未来を占う、夢見という能力を持った少女がいたそうです」

 オカルリちゃんの話がどこに結びつくのか、未だわからないので、ともかく聞き逃さないように私は話しに意識を集中した。

「その夢占いはもの凄い的中率で、村の危機も何度か救ったそうなのですが、実は占いをしていた少女には自分が夢見だという自覚がなかったのです」

 オカルリちゃんの語りに、思わず「そんなことある?」と口を挟んでしまう。

 対して、オカルリちゃんは頷きながら「少女は単純に自分が見た夢をただ、大人に報告していただけで、大人達が少女に夢のお陰で危機が去ったという事を伝えていなかったのですよ」と説明してくれた。

 自分の夢が未来を見通していたと知らなければ、夢は現実になっていないのだから、少女が自分の能力に気付くことはないというのはわかる。

 けど……。

 私がそう思ったタイミングで、オカルリちゃんは「何故、伝えなかったのか……ですよね?」と聞いてきた。

 完璧に私の疑問を言い当てたオカルリちゃんに私は無言で頷く。

「これは諸説ありますが、少女を利用するためにどれだけ強い力を持っているか知らせなかったとか、少女の夢見の力は自分が夢見と自覚すると消えてしまうからだとか、いろいろ言われてしますが……」

 オカルリちゃんの話し方から先を予測した私は「最後に、少女に知られた事で、夢見の力が無くなったってことだね」と尋ねた。

「この話のオチはそうですね」

 そう言って大きく頷いた後でオカルリちゃんは「凛花様の能力は夢見では無いですが、自覚すると消えてしまうかもしれないので、今のままが良いと言うことです」と結ぶ。

 私が「わかったような、はぐらかされただけのような複雑な気分だよ」と気持ちを伝えると、オカルリちゃんは笑いながら「じゃあ、はぐらかされていてください。凛花様のためじゃなく、皆のために」と返してきた。

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