お昼練習
結局何も思い付かぬまま、お昼を迎えることになった。
私が自分の席で悩んでる間に、机が動かされて、合わされて、席の入れ代わりが行われて、気付けばいつものメンバーに囲まれている。
「凛花様、まずは食事を摂りましょう!」
史ちゃんにそう促されて、私は「そ、そうだね」と返してから、通学鞄からお弁当を取り出した。
「ほい、リンリン、フミキチ、カヨチン」
私、史ちゃん、加代ちゃんと、それぞれが座る席の上にユミリンは運んできてくれた牛乳を置いてくれる。
「委員長と茜ちゃんのは私が持ってきました!」
オカルリちゃんは満面の笑顔で、持ってきた牛乳を委員長と茜ちゃんに配った。
私が考え事に夢中になっている間に追い出されてしまった男子達に申し訳なく思いながらも、私たちは早速お昼を摂ることにした。
大きな理由は、今日の部活で早速オーディションが開催されるからと言うのが大きい。
委員長も席を空けて貰うのに、それを理由として説得したようだ。
話を聞いたクラスの女子、何人かから、頑張ってと静音を貰えたのが、案外嬉しい。
状況を目の当たりにしたわけでもないし、良いアイデアがそう簡単に思い付かないと、開き直った私は、一旦、神様に勧化された話とか、巫女装束に変身してしまった話とか、大事になりそうな神社関連のことを一回棚上げすることにした。
「じゃあ、千夏を呼んでくるわ」
私が未だ半分も食べ終えていないというのに、倍近い量があるお弁当をサラリと食べ終えたユミリンは、そう言って席を立って廊下に出て行った。
今居るメンバーが7人なので、もう一人、メンバーがいれば、一人一役で四姉妹が二組出来るという委員長の意見に、ユミリンが即決で「じゃあ、千夏を連れてこよう」と決めたのである。
なんだか少しもやっとするけど、ユミリンと千夏ちゃんはお互いにライバルだと意識し合うことで、一つステージが上がったのだ。
そう思うと、なんだか感慨深く、祝福する気持ちになる。
ただ、そこに加えて貰えなかったことが、もの凄く引っかかるけど、それを口にするほど、私は子供ではないので、余裕の態度で臨むことにした。
結局、食べ終わりが最後になってしまった私を待つ形で、既に皆の準備は終わっていた。
今回は委員長がメグ、茜ちゃんがエミリー、オカルリちゃんがジョーの組に、ベスとして参加することになったらしい。
らしいというのは、経過を見ていないからだ。
演劇部の備品扱いのカードはもちろん、トランプの学校ヘの持ち込みは校則で禁止なので、同じ役の人で、レポート用紙で作ったくじを引いて決めたらしい。
そんなわけで、私はお弁当箱を鞄にしまって、代わりに台本を取り出した。
「え、えーと、教室でやる……の?」
私がそう尋ねると、茜ちゃんが「大丈夫ぅ、綾ちゃん先生にぃ、オッケー貰ったからぁ~」と満面の笑顔で言い放った。
「いや、そうじゃなくて……」
それだけで私の考えを読み取ったのであろうオカルリちゃんが「凛花様。クラスメイトに見られるのは気恥ずかしいかも知れませんが、目線になれる練習だと思えば、逆にありがたく思えませんか?」と言う。
ぐうの音も出ないほどの正論と前向きな意見に「それは……」と口にした私は、否定的な言葉を続けることが出来ず「確かに」と頷かざるを得なかった。
正論故に受け入れざるを得なかったという事実に、複雑な思いを抱くより早く、委員長に「じゃあ、早速始めましょう」とあっさり開始を宣言されてしまう。
覚悟を決めた私は軽く息を吐き出してから、練習相手である三人に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
練習を始めると、思ったよりも練習に集中出来た。
委員長の真面目で柔らかな雰囲気のメグも、茜ちゃんの無邪気で快活なエミリーも、キャラらしさと演じる二人の雰囲気が上手く融合していて、ほんの小さな違和感もない。
加えて、オカルリちゃんがもの凄く上手かった。
元々、コロコロキャラクターを切り替えられるタイプなので、演技も上手なんじゃ無いかと思っていたのだけど、正直、想像以上だったのである。
お姉ちゃんやまどか先輩も凄かったし、千夏ちゃんは学年一番と思っていたけど、オカルリちゃんのジョーは、その三人に匹敵しているように思えた。
圧倒されないように、自分はベスなんだと何度も自分に言い聞かせて、気持ちを組み上げる。
そうして、私も三人の姉妹の輪に交ざって、何気なくとも心アタ丸言葉を交わし合った。
あくまで練習だったのだけど、委員長が通し練習の終わりを示すように「良い、感じじゃない?」と口にしたタイミングで、大きな拍手が起こった。
思わず口から「うぇっ!?」と変な声が出てしまう。
「林田さん、超上手いよ! 文化祭でやるの?」
急に声を掛けられて、反応に手間取ったけど、どうにか、これから演劇部でオーディションがあって、そこで決まると伝えることが出来た。
そのままいろいろ質問をされたけど、委員長やオカルリちゃん、茜ちゃん、更にもう一つの組であるユミリン達にもクラスメイトの女子から質問と応援と、感動の言葉が次々飛んできた。
さすがに、入りにくいのであろう男子勢は、女子に押し出されるようにクラスの端の方にか間立っているのが見える。
なんだか申し訳ないなと思いながら、高評価を得ることが出来たことに、安堵とやりきれた達成感で胸が一杯になった。




