変化と告白
お姉ちゃん達と別れ、ほぼ一年生専用となる昇降口にやって来たところで、オカルリちゃんが満面の笑顔でとんでもないことを言い出した。
「傾国のキツネ説が再燃しそうでしたね」
思わず履き替えるために、私の下駄箱から取り出した上履きが手からこぼれ落ちる。
何のことを言っているのか、オカルリちゃんの意図はわかるけど、私としては「そんなこと無いと思うけど!?」と否定したい気持ちで声が大きくなってしまった。
そんな私に、とても冷静な落ち着いた声で、委員長が「魅力的と言えば聞こえは良いけど、むやみやたらに魅了してしまっては風紀が乱れちゃうわね」と言い放つ。
間違っては居ないと思ってしまった私は「うぐっ」と言葉を詰まらせるしか出来無かった。
「大丈夫じゃないかなぁ~凛花ちゃん、争い嫌いだからぁ~『お願い、私の為に喧嘩しないで!』って上目遣いでお願いしたら、争いには発展しないと思うよぉ」
フォローしてくれたのは嬉しいのだけど、間に挟まったギュッと胸の前で両手を握りしめて上目遣いで訴えるモーションがもの凄く気に掛かる。
私がその事に触れるよりも先に、委員長は「確かに、凛花ちゃんのお願いなら、八方丸く収まりそうだわ」と勝手に頷いてしまった。
「良かったですね、凛花様!」
オカルリちゃんの言う良かったがわからずに、私は「ん?」と首を傾げるしかなかった。
「凛花様が九尾の狐でも、問題ないというお墨付きが出ましたよ」
「いや、待って、そんな話だった? ちがったよね!」
オカルリちゃんのいうお墨付きの話がまったく紐付かなくて、思った以上に声が大きくなってしまう。
加代ちゃんはチラチラとオカルリちゃんを見て様子を覗いつつ「うーん、ルリちゃん的には、凛花ちゃんが傾国の九尾の狐だったとしても、委員長の言うとおり、無害だから大丈夫だよっていいたいんじゃ無いかなぁ……心配したり、悩まないでって事だと思う……けど」と自分の見解を示してくれた。
一方、オカルリちゃんは「それです」と行って大きく頷く。
「田中る、言葉を省き過ぎではないですか?」
そう言ってジト目を向ける史ちゃんに対して、オカルリちゃんは「今大事なのはそこではないですよ!」と切り返した。
怪訝そうな顔をする史ちゃんに、オカルリちゃんは「新たに一つ、将来凛花様の悩みの種になるかもしれないものが、問題ないと認識されたということが、重要なんです」と言い放つ。
対して史ちゃんは「確かに」と深く頷いて納得してしまった。
「じゃあな、千夏」
クラスに別れるタイミングで、ユミリンから千夏ちゃんに声を掛けた。
少し戸惑った表情を見せてから千夏ちゃんも「あとでね……由美」となんだかふてくされたような態度で返す。
ユミリンは気にするどころかニヤリと笑って「ああ」と返した。
なんだか二人の関係が羨ましいなと思ってみていたら、急に千夏ちゃんの目線がこちらに向く。
「凛花ちゃんもまた後でね! 由美になんか意地悪されたライってね。私が護ってあげるから!」
もの凄い早口で言う千夏ちゃんに、圧倒されてしまった私は「う、うん」と頷くことしか出来無かった。
「おまえなぁ」
不満そう口を挟んできたユミリンから逃げるように、千夏ちゃんは「じゃ、じゃあね、皆も!」と残して駆けて言ってしまう。
遠ざかる千夏ちゃんの背中を見送りながら、ユミリンは「しょうがないヤツ」と軽く笑った。
教室に辿り着いたところで、委員長が「なんだか一晩で、皆の関係性に変化が生じたみたいね」と口にした。
「まあ、悪い変化じゃないさ」
ユミリンはそれだけ言うと先に教室の自分の席に向かってしまう。
委員長は離れていくユミリンを目で追いながら「凛花ちゃん」と私に声を掛けてきた。
「何、委員長?」
改まってどうしたんだろうと思って顔を見上げると、委員長は気まずそうに、スッと視線を逸らす。
自分で声を掛けておきながら、この反応はおかしいと「ん?」と言いつつ観察するために顔をのぞき込んだ。
私の視線に気付いたのであろう、委員長は目を泳がせ始めたけど、未だこちらに反応を示さない。
何かあるなと判断した私は「委員長?」と詰め寄った。
けど、委員長はかなり言い出しにくいようで、困り顔になっても未だ何かを迷ってるように見える。
ここで、委員長に助け船が出された。
「凛花ちゃん」
委員長の態度が気になって仕方なかったけど、声を掛けられたので、視線を移して声の主に答える。
「何、茜ちゃん?」
どうやら事情をしているようで茜ちゃんは委員長を見て苦笑してから「一応だけどぉ、やらかしたのはぁ、みーちゃんじゃないからぁ、攻めないであげてねぇ」と口にした。
「やらかした?」
私が一番気になった部分を口にすると、委員長が「ゴメンなさい!」と急に謝ってくる。
「どういうこと?」
委員長に謝られるいわれが思い付かなかったのもあって、私はかなり驚いてしまった。
そんな私にグイッと顔を近づけた委員長が「昨日、いろいろと神様が反応してくれた……でしょ?」とかなり小さな声で囁く。
神様の仕業かはわからないけど、確かに不思議な出来事が起きたのは事実なので「ま、まあ」と曖昧に頷いた。




