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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第七章 偶然? 必然?
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姉妹に

「リン」

 熱の籠もった目で私を見詰めながら、まどか先輩(お姉ちゃん)は私をそう呼んだ。

 呼び捨てのお姉ちゃんと違う呼び方には、まどか先輩なりの考えが込められているのだろう。

「今日はありがとう……残念だけど、お別れの時間だ」

 もの凄く残念そうにまどか先輩は窓の外に視線を向けた。

 その視線の動きに釣られて、私も視線を向けたところで、大事なことを忘れ去って役に没頭していたことに気付く。

 運転席で黙々とするお父さん……どんな気持ちで私たちのやりとりを見ていたのか、もの凄く気になってきた。

 正直頭を抱えて、後悔で叫びだしそうになったところで、頭の中にリーちゃんの声が響く。

『主様、今は役に徹するのじゃろう?』

 そうだったと我に返ると共に、自分がまどか先輩の妹なのだと、同時に目の前のまどか先輩こそが姉なのだと強く意識した。


「お姉ちゃんとお別れするのは寂しい」

 思ったままを言葉にした私に、熱の籠もった声でまどかお姉ちゃんは「……リン」と名前を呼んだ。

 その声から、まどかお姉ちゃんも残念な気持ちを抱いてくれているんだと感じた私の中に、ほんの少し嬉しいという気持ちが生まれる。

 だから「また明日、会えるものね」と踏み出すことが出来た。

「そうだね。いつまでも、わがままで、リンを引き留めていてはいけないね」

 まどかお姉ちゃんはそう言って、少し悲しそうな顔で笑う。

 私は「わがままではないわよ、お姉ちゃん。私だって別れたくないもの」と胸に手を置いて訴えた。

「そういう事を言うから離れがたくなるんだ。リンのせいだぞ」

 まどかお姉ちゃんはそう言って、私を抱きしめる。

 私はお姉ちゃんの温もりを感じながら身を任せた。


「わざわざありがとう、姫」

 爽やかな笑みを浮かべて、まどか先輩は軽く手を振った。

「気をつけて帰ってくださいね」

 私がそう言うと、まどか先輩は「心配してくれてありがたいんだが、流石にこの距離だからね」と苦笑しながら自分の真後ろにある腰よりやや背の高い門扉を叩く。

 まどか先輩はそこで一旦動きを止めて、大きく息を吐き出した。

 それから微かに頬を染めて「おじさんも、わざわざありがとうございます」と言って、窓を開けてこちらを見ているお父さんに声を掛ける。

 お父さんは「お礼を言われるのことではないよ」と言って笑みを浮かべた。

 それから、少し間を置いてから「それに、父親が娘を送り届けるなんて、普通じゃないかな?」と言い加える。

 お父さんからの不意打ちに耳まで赤くしたまどか先輩は「その……申し訳ありません」と困り顔で頭を下げた。

「娘が増えて嫌だなんて父親は存在しないと思うよ」と返したお父さんは「あー、良枝の方には僕からは言わないから、安心して欲しい……娘に嫌われるのはゴメンだからね」と言い加えた。


「凛花は優しいね」

 助手席に座る私に、お父さんはポツリとそんな言葉を投げ掛けてきた。

「え?」

 思わず驚きが声になって飛び出した私の反応に、軽く笑いながら「まどかさんに合わせてあげてただろう?」と言う。

「あ、合わせてあげたというか……」

 成り行きに身を任せただけなので、能動的に動いたと言われるのは違う気がして、否定しようと思ったのだけど、お父さんはそれよりも先に「僕にも詳しいことはわからないけど、彼女、妹に対して、何か思うところがあると思うんだよ」と口にした。

 私もそれがなんなのかはわからないけど、確かに『何か』あるのだろうとは思う。

「敢えて、踏み込まず、それでいて距離を置こうとするのを、自ら距離を詰めて阻止してしまうなんて、僕は凛花の積極性を凄いと思ったし、それはきっと優しいという言葉がふさわしいんだろうと思ったんだよ」

 お父さんがそう言ってくれたことで、私はついつい「あの、まどか先輩と姉妹とか言い出して……変だと、思わなかった?」とストレートに聞いてしまった。

 すると、お父さんは「今、褒めたばかりじゃないか」と笑う。

「凛花くらいの年頃だと、周りの目が気になる頃だと思う。けど、凛花はちゃんと自分の正義があって、考えがあって、しかも控えめだ……たまに突拍子のないことはしでかすけど、それでも、凛花が人を傷つけるようなことはしない。少なくとも、僕はそれを自信を持って断言できるぐらい、凛花を信頼しているし、信じているよ」

 お父さんはそこで一拍置いてから「だから、周りの目など気にせず、自分の感じたままに自分を貫きなさい。人として、してはいけない選択をしていたのなら、お父さんとお母さんがちゃんと止めるから、安心して自分を信じなさい」と続けた。

 この世界だけでの仮初めの父娘だけど、その言葉はもの凄く私の中に響いて、こみ上げてくる気持ちで涙が出そうになる。

 こみ上げてくるモノを、鼻を啜って飲み込んだ私は「ありがとう」とだけ、どうにか口にした。

 お父さんは「それこそお礼は要らないさ。むしろ、凛花も良枝もいい子すぎて、何もしてやれないと思っていたくらいだしね」と言う。

「少しでも凛花の心を支えられるなら、僕もお母さんも喜んで支えるつもりだよ」

 そこで一度話を切ったお父さんは、少年のような悪戯っぽい笑みを添えて「あ、二人のお姉ちゃんも同じ気持ちじゃないかな」と口にした。

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