やらかし考察
お出かけ用に着ていたフォーマルドレスから普段着に着替えて居間に戻ってくると、皆に声を揃えて「「「おかえりなさーーーいっ!」」」と言われた私は、思わず一歩引いてしまった。
「どうしたの、凛花?」
「い、いや、なんか皆に声を揃えて、お帰りなさいって言われてビックリしたというか……」
お姉ちゃんの問いにどうにか答えられたモノの、すぐに手を引かれて、私は皆に取り囲まれる形で用意された円筒形のスツールに座らされる。
「あ……あの……?」
喜ばしくない状況に転がっていきそうな気配に、私は戸惑いを隠せなかった。
そんな私に、お姉ちゃんが笑みを浮かべながら「単刀直入に聞くわね」と踏み込んでくる。
ただそれだけなのに、もう逃げ出したい気持ちで一杯だった私は、それでも動揺を悟られないように視線を落としてから様子を覗いつつ「なに……お姉ちゃん?」と、上目遣いで切り返した。
私の返しに、お姉ちゃんはピクリと身体を震わせると、そのまま動きを止める。
そうして訪れた沈黙は、とても居心地が悪く、時間が経過する毎になんだか空気も重くなっているような気がしてきた。
かかるプレッシャーに逃げ出したい気持ちになってきたところで、狙い澄ましたかのような完璧なタイミングで、お姉ちゃんの次の言葉が放たれる。
「ひょっとして、やらかしたかしら?」
自分でもわかるぐらい、心臓が大きく反応を示した。
思わず、商人でもある委員長と茜ちゃんに視線を向けるが、二人はスッと目を逸らす。
裏切り者と叫びたい気持ちはあったモノの、そんな事をすれば自白も同然なので、私は澄まし顔のまま「や、やらか、かすって、な、なんですの、おねえ、さま?」と返して、平静を装った。
完璧に誤魔化したと思ったのに、伏兵は思いもしないところにいた。
二階から我が家用に具現化していた身体を使って、リーちゃんがやって来たのである。
現状、我が家に居る面々の中で、お父さん以外は知っている私の相棒の登場に、驚く人は居なかった。
むしろ『主様は、自分の着ていたドレスを、巫女装束に変化させたのじゃ』と、何の躊躇も無く起こってしまった出来事を皆に伝えてしまったことに、私が一人驚く。
ただ、意図せずとは言え、起きてしまった事実が伝えられ、更に、リーちゃんが委員長と茜ちゃんが目撃者だと情報を追加したことで、最早誤魔化しようのないところまで、事態は進んでしまった。
「それで、実際問題として、自分でコントロールできるモノなの?」
もの凄く心配そうな顔でそう尋ねてきたお姉ちゃんに、私は「出来るとは、思うんだけど……」とはっきりしない答えしか返せなかった。
お姉ちゃんはそんな私から視線を移すと、その先に居る相手に「リーちゃん」と声を掛ける。
リーちゃんは『今回の件は、暴発の類いじゃな。神楽舞台になって、本殿を目にした時、主様の中に猛烈なイメージが流れ込んできて、それが能力として発現したようじゃ』と、私よりもより明確に事態を理解していたことを示した上で、それを皆に聞かせた。
結果、質問先はリーちゃんとなり、私は会話のやりとりから取り残される。
「極論だけど、調整は出来るのかしら?」
『今回の件は、イメージがはっきりと流れ込んだ結果じゃから、動揺のイメージの奔流が起こらなければ、再発することはないじゃろうとは思うの』
お姉ちゃんの問いに対して、リーちゃんは即座に答えを返し、誰もそのやりとりに疑問を抱いてる様子は感じられなかった。
そんな中、まどか先輩はリーちゃんの話に対して「含みのある言い方だね」と指摘する。
リーちゃんは『うむ』とそれを認めた上で『何故、主様の中にイメージの奔流が起こったのか、そこがわからぬでな。再度起これば、再発する可能性を否定できぬところじゃな』と詳細を答えた。
ここで、オカルリちゃんが「話の流れからすると、神社の雰囲気……というか、空気に凛花様が何かを感じ取ったのかもしれないですね」と拳を顎に当てて呟くように言う。
茜ちゃんが「あの時はぁ、境内にぃ、丸く日差しが差し込んでてぇ、スゴく神秘的だったわぁ」と振り返って状況を語った。
すると今度は委員長が「確かに、普段の神社よりも、こう、何というか、清らか? キラキラした感じがしていたわ」と、彼女には珍しいふわっとした形容で自分の体験を話す。
「もしかして、神様が凛花ちゃんに会いに来てくれたのかもね!」
唐突に千夏ちゃんの口にした言葉に、私は思わず委員長の反応を伺ってしまった。
どう反応するのか少し心配だったけど、委員長はもの凄くあっさりと「そういう可能性もあるわね」と頷く。
リーちゃんまでもが『確かに、それほどの超常的な存在なら、主様に猛烈なイメージの奔流が流れ込んできた説明もつきそうじゃ』と同調してしまった。
こうなると、当然のように、私に神様が反応してくれたという荒唐無稽な話が、事実であるかのように認識されてしまう。
結果、史ちゃんやオカルリちゃんを中心に、キラキラした目を向けられることになってしまった。




