戸締まりとお迎え
「とにかく、これからもよろしくね、凛花ちゃん」
いろいろと考えたのだろう志津さんは、腕組みをして唸り続けた末に、そう言って手を差し出した。
「神楽やれるかはわかりませんけど、もし、舞手になれなくても仲良くしてください」
手を握りながらそう返すと、志津さんは笑顔で「もちろんよ!」と頷いてくれる。
「まあ、でも、次の舞手は凛花ちゃんで決まりだと思うわよ」
志津さんはそう言ってから「ほら」と言って、背にしていた本殿の方へ振り帰りながら横に立ち位置をずらした。
すると、志津さんの背に隠れていた境内に、丸く日が差し込んでいるのが目に入る。
思わず「うわぁ」と簡単が声になった。
「これは、神様が凛花ちゃんを認めてくれたように感じますね」
委員長の言葉に、茜ちゃんがうんうんと頷きながら「これでぇ、凛花ちゃんがぁ、選ばれなかったらか、逆に天罰が下りそうだわぁ」とのんびり口調で物騒なことを言う。
「い、いや、いろんな事情や考え方があるから、選ばれなかったとしても、天罰なんて無いと思うよ?」
私の発言に対して志津さんは「まー、天罰は落ちないかもね」と言って笑った。
「そうですよね!」
いくらなんでも大袈裟すぎると思っていた私は、同意してくれた志津さんに同じ見解で居てくれることを嬉しく思いながら視線を向ける。
けど、志津さんの見解は、私の考えとは違っていた。
「どう考えても神様は凛花ちゃんに決めてそうだから、そもそも反対なんて意見が出ないんじゃないかしら?」
志津さんの意見に、委員長が「確かに、意にそぐわない意見が出ずに決まる可能性は高いわね」と頷く。
茜ちゃんも「すでにぃ、神主さんにぃ、ミーちゃんのお父さん、あー、お爺ちゃん先生もぉ、皆凛花ちゃんに夢中だもんねぇ」と言い出した。
大袈裟な上に身に覚えのない表現に溜まらず私は「む、夢中って……」と少し弱めの抗議の声を上げる。
「そんな謙遜しなくても良いじゃない、凛花ちゃん自体魅力的だものね……少なくとも、私はメロメロよぉ」
そんな事を言って志津さんが、私の首に腕を回して絡みついてきた。
「馴れ馴れしすぎよ!」
すかさず委員長がそう言って私から志津さんを引き剥がす。
「凛花ちゃんも嫌なら、嫌って言った方が良いよぉ」
そう言って声を掛けてくれた茜ちゃんに「い、嫌ってワケじゃないけど……」と返したところで、急にブンブンとハリセンを振り始めたのを見て、私は「ちょ、ちょっと距離感が近いかな?」と続く言葉を無理矢理ねじ曲げた。
「じゃあ、一旦、ここを閉めましょうか」
委員長の提案に私は「そうだね。総会も気になるしね」と頷いた。
「ほら、志津ちゃん、閉めるよ」
いろいろあってぐったりしていた志津さんに、委員長は容赦なく発破を掛ける。
「はいはいー」
軽く手を挙げて、素直に委員長について行く後ろ姿を見て、私も「手伝います」と名乗り出た。
委員長は「折角のドレスが汚れちゃうかもしれないから、凛花ちゃんは見てて」と笑む。
私は「邪魔じゃないなら」と口にしてから掌路指で挟んだブラウスの袖を引っ張りながら「汚れても綺麗に出来るから」と主張した。
茜ちゃんが「確かにぃ、汚れても問題なさそぉ」とすぐに頷いてくれる。
けど、委員長は私が能力を使うことに抵抗のようなモノがあるのか、納得した表情は見せてくれなかった。
なので「使わないと、いざという時に使えないし、黙って待っているのも性に合わないから、お願い!」と続けると、そこまで言われたらと仕方ないと言いつつも、委員長は私の参加を許可してくれる。
こうして、茜ちゃんとの共同作業になったモノの、割り振られた雨戸を二人で移動させる任務を与えられた。
神楽舞台の戸締まりは四人で挑んだお陰か、最初に開けるよりも短時間で終えることが出来た。
最後に借りていたスリッパを手に入口から出たところで、タイミング良くお迎えがやってくる。
氏子総会の話が進んだらしく、私たちも参加して欲しいと言うことだった。
そんなわけでお向かいのおばさまに従って、私達は集会場に向かう。
けど、ここで茜ちゃんが「それじゃ~、私はいったん帰るねぇ」と言い出した。
「え? 茜ちゃんは一緒に行かないの?」
私の疑問に、茜ちゃんは「氏子ではないからぁ、流石に総会には顔を出せないかなぁ」と言う。
その説明でもなんとなく頷けなかった私に、委員長が「神社には氏子がいるように、お寺には檀家さんがいるんだけど、中には神社に係わるのを嫌がる人も居るのよ」と渋い顔で言った。
茜ちゃんはただ「ごめんねぇ」とだけ口にする。
「正直、納得はいかないけど、茜ちゃんもいろいろ考えてのことなら、仕方ないね」
私の言葉に、茜ちゃんはニッと笑ってから「大丈夫ぅ! 総会が終わったらぁ、また、凛花ちゃんの顔を見に戻ってくるからぁ」と言ってくれた。
そんな茜ちゃんに「うん」と頷いてから「じゃあ、また後でだね」と告げる。
茜ちゃんも「うん、また後でぇ~」といいって、手を振りながら自分のお寺のある方へと駆けていった。




