幼なじみの
金属製の大きな和錠を外した志津さんは、そのまま扉を開けて神楽舞台裏へと入って言った。
後に続こうとしたら、入口から顔を出した志津さんに「ちょっと待っててねー」と言われてしまう。
その後で、困り顔になった志津さんは「少し埃っぽいから、先に換気してくるわ」と待たせる理由を教えてくれた。
「て、手伝います!」
私はそう申し出たのだけど、志津さんは「折角の可愛いドレスが汚れちゃうわよ」と私の服を指さしながら笑みを浮かべる。
「それに、人手はあるから、ね、ミーちゃん?」
指名された委員長は「はぁ~」と、溜め息を吐き出したから、茜ちゃんに視線を向けた。
「あーちゃん、凛花ちゃんを護る役目を任せるわね」
「あいあぃ~了解だよぉ、志津ちゃん、ミーちゃん、私に任せておいてぇ~」
額に手を当てて敬礼をした後で、茜ちゃんは自信に満ちた顔で胸を叩いてみせる。
大きく頷いて「任せた」と返す委員長に続いて、建物の中から志津さんが「よろしくね、あーちゃん! 危ない人が来たらやっつけちゃって良いからねー」と言ってきた。
流石に冗談だろうと思いながら茜ちゃんに視線を向ける。
すると、茜ちゃんは「凛花ちゃん、こうみえてぇ~私、強いんだよぉ~」といって、得意げな顔をして胸を張った。
二人が入って行った神楽舞台からは、埃っぽいとか、硬いとか、不満の声が飛んできた後で、ガン!バキ!ととても穏やかではない音が聞こえてきた。
大丈夫だろうかと思ってしまった私に、タイミング良く茜ちゃんが「大丈夫だよぉ、流石に建物壊したりしないと思うよぉ、市の文化財だし」と言うモノほわほわした顔で言う。
「え、文化財?」
思わず聞き返した私に、茜ちゃんは「建てられてから何百年も経ってるからねぇ」と言って頷いた。
「ぶ、文化財なのに、あんなスゴイ音……」
私がそう続けると「壊れたらぁ、報告書とかぁ、いろいろ大変だけどぉ、志津ちゃんとミーちゃんならぁ、大丈夫じゃないかなぁ」と笑う。
茜ちゃんの言う大丈夫が『何かあっても二人なら問題を修められるという意味か、それとも、問題を起こさない範囲で加減出来るという意味か』もの凄く気になるところだけど、やぶ蛇になりそうなので、敢えて踏み込まないことにした。
しばらくして、神楽舞台の奥から、何かを言い合う委員長と志津さんの声が聞こえてきた。
何かあったかなと思ってると、ダダダと板の間を掛ける音が聞こえてくる。
直後、委員長が建物から飛び出してきて、そのまま横を駆け抜けていった。
思わず振り返った私の背後から「ちょっとお使い頼んだだけだから、待っててね、凛花ちゃん、あーちゃん」という志津さんの声がかかる。
委員長はもうかなり遠くまで行ってしまったし、声を掛けられたのもあって、振り返るとそこには笑顔で手を振る志津さんの姿があった。
「凛花ちゃん、あーちゃん、お待たせ!」
行きと同様、帰りも掛けてきた委員長だったけど、まったく呼吸に乱れがなかった。
爽やかな笑みを浮かべて「それじゃあ、中に入りましょう」と言って、私と茜ちゃんの横を擦り抜けていく。
「志津さん、邪魔」
「え、ミーちゃん、酷くない?」
委員長の冷たい態度に、口を尖らせてみせる志津さんだけど、ふざけ合っているんだなとわかる空気が二人の間にはあった。
なんだかわかり合ってる悪友って感じに、ほっこりしていると、志津さんの横を抜けしゃがみ込んだ委員長が、板の間の上に二組のスリッパを並べる。
「床、掃除してないから、二人はこれを使って頂戴」
立ち上がりながら、委員長はそう言って笑みを浮かべた。
「もしかして、このスリッパを取りにいってくれてたの?」
私がそう尋ねると、委員長は「そうだけど?」と事もなげに言う。
わざわざ走って撮ってきてくれたこともあって、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった私に、志津さんが「気にしないで、普段から掃除してれば、本来は必要ないんだから」と委員長を見ながら言った。
言われた委員長は、言い返すかどうか少し逡巡する素振りを見せてから「その通り過ぎて、何も言えないわ」と溜め息を吐き出す。
「というわけで、凛花ちゃんは気にしないで、見学して頂戴ね」
志津さんはそう言って私を手招きした。
そんな志津さんの前に入り込むようにして立った委員長が「案内がポンコツでも、足りないところは私とあーちゃんが補足するから、心配しなくて良いわよ」と柔らかく微笑む。
今度はそんな委員長の顔を平手で押し退けた志津さんが「こんなお口の悪い生意気ちゃんのお世話にならずに、お姉さんが完璧に園内してあげるから、安心してね」と、押し合いをしている状況と裏腹なとても夜話からな口調で言い放った。
普通に喧嘩しているなら割り込むけど、どう見てもじゃれ合ってる二人なので、どうしたら良いだろうかと、つい考え込んでしまう。
そんな私に、茜ちゃんが「凛花ちゃん。せっかくぅ、ミーちゃんがぁ、スリッパ持ってきてくれたしぃ、早速入ろぉ~」と声を掛けて建物中へ誘ってくれた。




