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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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ダブルキャスト

 グイグイ迫ってくる茜ちゃんに気圧されながら、私は落ち着いて貰おうと「わかった。わかったから、茜ちゃん、ちゃんと機会を設けてお泊まりに行くから!」と訴えた。

「ホントにぃ?」

「本当に」

 私の返答を聞いて、茜ちゃんは「その折りはよろしくお願いします」と言う。

 どちらかというとお世話になるのは私たちなので「こちらこそ、よろしくお願いします」と返すと、委員長が「二人でおかしなやりとりしてるわね」と苦笑されてしまった。

「わ、私、頑張ってお泊まりするから!」

 加代ちゃんがそう言って私の手を包むように握ってくる。

 正直、無理して泊まることは無いと思うので「苦手なことは、無理しない方が良いと思うけど……」と伝えた。

 単純に無理はしない方が良いという思いで口にしたのだけど、加代ちゃんは顔を青ざめさせて「が、頑張るから」と泣き出しそうになってしまう。

「だ、大丈夫だよ、加代ちゃん。大人だって、お化けとか、お墓とか、お寺とかが怖いって人もいるし、泊まれないからって、ダメじゃないんだよ」

 励まそうと思って言葉を重ねたのだけど、加代ちゃんの気持ちを上向かせることは出来無かった。

 そして、ユミリンから『そういう事じゃない』と言いたげな視線が飛んでくる。

 なんだか、負けた気がしてしまった私は、懸命に思考を巡らせて、自分なりの最適解を導き出した。

 お化けが苦手で怖いなら、怯えずに済む環境を私が提供してしまえば良いのだと気付いた私は「加代ちゃん。お泊まりの時は、私が加代ちゃんを護るから、安心して参加して!」と告げる。

 冷静に考えてみれば、皆が乗り気で、参加しそうなイベントを我慢しろというのは酷な話だ。

 もしも加代ちゃんがお泊まり会に興味なければ、怖いから参加したくないで終わりの話である。

 でも、そうじゃないのは本当は参加したいのだ。

 そして、私の考えが正しかったことを証明するように、加代ちゃんが「ありがとう凛花ちゃん!」と言って抱き付いてくる。

 加代ちゃんを受け止めて、支えになれたことを実感できた私は、心から嬉しくなった。


「みんな、おかえりなさーい」

 まどか先輩に呼ばれて部室に戻ったところで、入口で待っていたお姉ちゃんから明るい声で出迎えられた。

「そこにいると、皆が入れないだろ、とりあえず、中に入りなさい」

 呆れ顔でまどか先輩は、お姉ちゃんを部室に押し込む。

 お姉ちゃんとまどか先輩に続いて部室に入ると、先輩方も『お帰り』と声を掛けてくれた。

 多目的室に移動する前のように、入口そばの黒板を支点に、扇を描くように広がる。

 皆が動き終えたタイミングで、春日先輩が「それじゃあ、簡潔に伝えるわね」と右手に沢山の紙束を持って宣言した。

 私たちが「「「はい」」」と頷くと、春日先輩も満足そうに頷いて離し始める。

「まず、時間の問題とはいえ、当初の約束とオーディションの内容に変化が出たことを許して頂戴」

 そう言って頭を下げる春日先輩に、私たちからは大丈夫だとか、気にしないでくださいと言った言葉が飛んだ。

「ありがとう。皆が理解してくれて嬉しいわ」

 春日先輩は私たちに笑顔を向けてから、紙束に視線を向ける。

「今回のオーディションでは一人につき、二役演じて貰うわ」

 私たちが頷くのを見てから、春日先輩は更に説明を続けた。

「オーディションは演じている人以外は、一人一票で投票する、上位の二人がその役を演じる形ね」

 春日先輩の説明に、委員長が「あの、聞いてもいいでしょうか?」と手を挙げる。

「なにかしら?」

「なぜ、上位二人なのでしょうか?」

 委員長の問い掛けに、春日先輩は「ダブルキャスト、二人一役の予定だかね」と端的に答えた。

「だぶるきゃすと?」

 首を傾げたユミリンに、千夏ちゃんが「一つの役を、二人の人が演じるってこと、例えば、桃太郎役が二人、お爺さん役も二人、お婆さん役も、犬も、際もキジも二人ずつは違約するってことよ」と説明する。

 対して、ユミリンは「なんで?」と声を上げた。

「どう考えても、主人公とか、登場人物が二人ずついたらおかしくなるだろ?」

 もっともなユミリンの疑問に、春日先輩が「今年は四回公演の機会があって、演者の人数も例年より多いから、二グループで二回ずつ演じる方向になったのよ」と説明する。

「A組とB組でそれぞれ配役を決めるから、確約に二人割り振るわけだな」

 まどか先輩はそう説明してから「ダブルキャストなのは、演者が多いのも理由だが、当日体調不良で参加できないなんて事があった時に、通しで四公演に出て貰う可能性も考えての判断だ」と言い加えた。

 確かに身体ができあがっているわけじゃない、中学生の、しかも女子ともなれば、急な体調不良もあるだろう。

 そう考えると、一つの役に二人配役しておくことの利点はかなり大きそうだ。

 私がそんな風に考えて頷いていると、今度は史ちゃんが手を挙げる。

「ちなみにお聞きしたいのですが、組み分けはどうやって決めるのでしょうか?」

 史ちゃんの問いに、まどか先輩は「決まっている」とニカッと笑ってから「公明正大に、役に決まった二人がくじを引いて、AかBか決めるのさ!」と言い放った。

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