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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第六章 日常? 非日常?
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豹変

「次は、新人戦の話だけど、オーディションの配役が決まるまでは練習をしない方が良いかなと思うけど、千夏ちゃんはどう?」

 委員長の突然の振りに、千夏ちゃんは戸惑ったように「えっと……」と声を漏らした。

 その後で委員長からの求めを察した千夏ちゃんは、唇に握った拳を当てて少し考える。

 改めて「そうですね」と口にした千夏ちゃんは、そのまま自分の見解と前置きをしてから、考えを示してくれた。

「練習がまったく無駄になることは無いけど、もうすぐ先輩達の話し合いで少なくとも演じる可能性の役が決まるんだから、それを待ってからの方が良いと思う……想像通りの役が割り振られる可能性も、想像していなかった役が割り振られる可能性もあるし」

 千夏ちゃんの見解を聞いた委員長は「私もそう思うわ」と頷いてから皆を見渡して「なので、練習は今すぐしない方が良いんじゃ無いかと思うんだけど、どうかしら?」と問い掛ける。

 一番、演劇部での先輩であり、演劇について一番詳しいであろう千夏ちゃんの見解を聞いた後なのもあって、委員長の問い掛けに反対意見は出なかった。


「凛花ちゃんにお願いしている神楽舞いの件も、神主さんや他の氏子さん、神楽舞いを担当されているお家……まあ、大人な皆さんの話し合いが進まないと決められないことも多いし、当然練習も出来無いので、これも保留が良いと思うのだけど、どうかしら?」

 そう問われた皆から反対の声は当然のように上がらなかった。

 恐らく、そうなることは委員長は折り込み積みだったのだろう。

 流れるように「それじゃあ、文化祭の……いえ、私たちのアイドルグループについての話を再開しても良いかしら?」と委員長は皆の意見を求めた。

 既に、千夏ちゃんの件や演劇部の件、神楽舞いの件を潰しているので、異を唱える人はでない。

 完全に委員長の書いたシナリオ通りに、私たちの会議の議題はアイドルグループについてと言うことに決まった。


「一応、キツネコンセプトにするのは決まったけど、どうせならもう少し、私たちのアイドルユニット独自の色を追加したいと思うのだけど、何かあるかしら?」

 委員長はもの凄く真面目な顔で皆を見渡しながら訪ねた。

 ここで、最初に手を挙げたのは茜ちゃんである。

「はい、あーちゃん」

 委員長に指名された茜ちゃんは「ミーちゃんのぉ、考えとはぁ、少しズレるかもしれないけどぉ、まずはぁ、実際にいるグループからぁ、参考にするグループを決めるのはどうかなぁ?」と口にした。

 はじめから、委員長の方針に反する意見を、茜ちゃんが口にしたことに、少し驚く。

 けど、委員長は機嫌を損ねた素振りも見せずに「理由を聞いてもいいかしら?」と、笑顔で尋ねた。

「いきなりぃ、独自な要素を入れるとぉ、シアショから破綻してしまうからぁ、まずは模倣してぇ、そこに要素を入れる方がぁ、失敗しにくいと思う~」

 茜ちゃんのしっかりとした考えに、委員長は「確かに、それはそうね」と頷く。

「確かに、真似から初めて、自分らしさを作品に加えるのは、物作りの基本だね」

 加代ちゃんの発言に、史ちゃんは「確かに、応用は、基本が出来ていないとですね」と腕組みをして頷いた。

「私の例はちょっと違うかもしれないけど、演劇の舞台とかだと、まず基本の台本があって、演者さんの演技や癖などで、監督さんや演出家さんが台本を修正した理って事もあるみたいね」

 千夏ちゃんの発言にも頷いた上で、委員長は「んー、確かに独自性を最初に考えるのは、時期尚早だったかもしれないわね」と苦笑する。

 けど、ここでオカルリちゃんが「でも、別に衣装とか、演じる部分に触れないところなら話しても良いんじゃないでしょうか?」と口にした。

 オカルリちゃんの発言に、加代ちゃんが「衣装!」と食いつく。

 その反応に少し口元を緩めたオカルリちゃんは「だって、キツネとアイドルのドレスって似合わないかナーって……むしろ、折角神楽舞いをするなら、巫女装束とかの方が似合うんじゃ無いかな?」と何故か声を抑えて提案してきた。

「み、巫女装束!! キツネ! 絶対合う!!」

 茜ちゃんが椅子を倒す勢いで立ち上がって、興奮気味に吠える。

 けど、ここで冷静に、委員長が「ま、待って、確かに、良い組み合わせだと思うけど、神楽舞いの衣装を借りれるかはわからないわ」と言うが、その目はらんらんと輝いていた。

 なんだかその目に触発された私は、借りられなかった場合の策として、頭に浮かんだアイデアを口にする。

「巫女装束じゃなくても、浴衣とかでも似合うんじゃ無いかな? ほら、ミニ浴衣? 浴衣の裾を膝上くらいの丈に調整して着たら……」

 そう口にした私の眼前にいつの間にか茜ちゃんの顔が出現していた。

 思わず驚きで声が引っ込んだ私を「天才! 凛花ちゃんは天才なの! ゆ、浴衣をミニ丈で着るなんて、思いつきもしなかった!」と大絶賛さする茜ちゃんの背後、ぐらぐらと揺れている机を見て、それを踏み台に飛び越えてきたことに気付く。

 のんびりおっとりのイメージの茜ちゃんの機敏で情熱的な動きに、いざという時に豹変する緋馬織の仲間、那美ちゃんの姿が思いっきり重なった。

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