ぬくもり
「も、盛り上がっているのに、水を差すようで申し訳ないんだけど……文化祭のアイドルの話なんてしてて良いのかな?」
そう切り出した私に、委員長は「このメンバーで挑むわけだし、この話題だけを話すんじゃないから良いんじゃないかしら」とサラッと言い切った。
私が思っていたよりも、委員長は柔軟な考え方をする人らしい。
委員長は私が思っていることを察したのか「あら、もう少し硬いと思ってた?」と微笑んだ。
考える時間を少し貰ってから、私は「委員長ってあだ名のイメージに引き摺られてたかも」と口にする。
「これまでの委員長の言動を思い返す尾、そんなに硬くはなかった気がする」
私が言い加えた言葉に、委員長は「凛花ちゃんは思っていたとおり、素直で純粋だわよ」と笑いながら言われてしまった。
思いがけない評価だったこともあるけど、何より『素直で純粋』という評価が妙に恥ずかしくて頬が熱くなる。
「あ、凛花ちゃん、体温上がってる」
私に抱き付いていた千夏ちゃんが耳元でそんな事を言うモノだから、余計に体温が上がってしまった。
「凛花様が暖かい」
噛みしめるように言う史ちゃんに、加代ちゃんまでもが「幸せな温もりだねぇ」と言い出す。
ますます追い込まれる私に、茜ちゃんが「私も凛花ちゃんに抱き付きたい~」と言い出して駆け寄ってきてしまった。
「みんな! 新人戦とか、千夏ちゃんの家の事を相談すべきじゃないかな!?」
四人に抱き付かれて、ほぼ身動きとれなくなってしまった私に出来るのは、そうやって正論で訴えかけることだけだった。、
けど、史ちゃんは「凛花様の仰りたいことはわかりますし、凛花様が望まれるのなら、答えたいです」と抱き付いたままで言う。
「けど、この幸せを手放したくない欲深い私が私の中にいるのです。申し訳ありません」
続けられた史ちゃんのセリフに「え!? け、結局そのままなの!?」と驚きが口から飛び出た。
「凛花ちゃんが嫌なら離れるけど……そんなに嫌そうじゃないから、つい甘えてしまうんだよ」
お腹の付近で加代ちゃんが蕩けた表情で言う。
更に抱き付くところがなくて、私の太ももの上に顔を乗せている茜ちゃんが「男の人がぁ、膝枕がぁ、好きだって言うのがわかりますねぇ」と、既に話の筋すら通ってない発言をし出した。
「ちょ、ちょっと……」
どうしようかと思っていると、頭の上から千夏ちゃんの声が降ってくる。
「凛花ちゃん」
声を掛けられるとは思って無かったので、少し手間取ったモノの「はい?」とどうにか返事をした。
「今、ルリちゃんとリーちゃんの協力を得られることになって、凛花ちゃんとしばらく一緒に住めることになって、状況としては、準備のタイミングだと思うの」
急に真面目なテンションで話し出されて戸惑ったモノの、言っていることには間違いは無いので「う、うん」とどうにか返事を絞り出す。
「つまり、現段階で、私のことに関しては話し合わなくても大丈夫ということにならない?」
千夏ちゃん本人にそう言われてしまうと「な、なる……のかな?」と曖昧に頷くしかなかった。
「なので、凛花ちゃんを堪能する時間にしても良いと思う」
思わず「な、なんで、そうなるの!?」と返した私に、千夏ちゃんは「こうして凛花ちゃんを感じていると、ホッと出来るから」と言う。
心に傷を負っているであろう千夏ちゃんにそう言われてしまうと、私の選択肢は受け入れるの一つに絞られてしまった。
「はい、そろそろ終了ー」
パンパンと手を叩きながら、委員長が私から皆を引き離してくれた。
意外にも、委員長が触れると皆私からあっさりと離れて行く。
上から順に、千夏ちゃん、史ちゃん、加代ちゃん、最後に茜ちゃんと離れる度に、少し肌寒くなった気がして、ほんの少し名残惜しい気持ちになった。
まあ、皆も名残惜しそうに見えたので、人の温もりは安らぎに繋がるんだなと言うのを再確認する。
「凛花ちゃん、大丈夫?」
抱き付かれて少し跳ねていた神や、セーラー服の襟、スカーフにスカートを簡単に触れただけで、委員長は整えてしまった。
その間に私にくっついていた皆も椅子に座る。
委員長は私の元から離れると「それじゃあ、千夏ちゃんの件はルリちゃんの機材調達を終えてからということでいいかしら?」と千夏ちゃんに視線を向けながら問い掛けた。
「うん。凛花ちゃん、皆も心配してくれてありがとう」
千夏ちゃんはそう言って頭を下げる。
「気にしないで、仲間を助けるのは当たり前、でしょ、由美さん」
委員長に話を振られたユミリンは、何故自分に話を振るのか言いたげに苦笑を浮かべたものの、ちゃんと「その通り……だな」と頷いた。
千夏ちゃんは、少し照れくさそうに視線を逸らす。
二人のやりとりを確認した委員長は、オカルリちゃんに「ルリちゃんもそれでいいかしら?」と尋ねると「異議無しです」と帰ってきた。




